2007年2月7日(水)「しんぶん赤旗」
資本の「ユーフォリア」とは ?
〈問い〉 本紙の「経済時評」(1月8日付)のなかで、「ユーフォリア」という用語が使われていました。その意味をもう少し詳しく教えてください。(東京・一読者)
〈答え〉 ユーフォリア(euphoria)を英語の辞書で引くと、もともとは「多幸症、根拠のない過度の幸福感」などという意味で、心理学や医学などでよく使われる言葉だと説明してあります。
経済用語として使われるときは、景気循環の繁栄局面の絶頂で、資本のもうけが最高水準に達したときに、資本が陥る気分を指しています。ユーフォリア状態に入ると、資本は、自らの繁栄に目がくらんで、累積している矛盾はなかなか視野に入らなくなり、投機的な活動に精を出すようになります。
ユーフォリアという用語を使って、景気上昇の繁栄期の熱病的な投機活動を告発したのは、日本でも良く知られているアメリカの経済学者J・K・ガルブレイスです。彼は、『金融ユーフォリア小史』(邦訳名『バブルの物語』ダイヤモンド社)のなかで、次のように述べています。
「頭脳に極度の変調をきたすほどの陶酔的熱病(ユーフォリア)は繰り返し起こる現象であり」、「楽観の上に楽観が積み重なり、投資が継続し、一見うまく行っているように見えて、ついには破局にいたる」。「ユーフォリアが生じると、人々は、価値と富が増えるすばらしさに見ほれ、自分もその流れに加わろうと躍起になり、…そしてついには破局が来て、暗く苦しい結末となる…」。
ただし、ユーフォリアという用語自体は、繁栄局面の資本家の陶酔した気分を、いわば文学的に示した比ゆ的表現ですから、厳密な経済学的カテゴリー(範疇)というわけではありません。
たとえば、アメリカの景気循環の研究で知られるW・C・ミッチェルは、その著書『景気循環』(新評論社)のなかでは、ユーフォリアという用語ではなく、伝染性楽観症(the epidemic of optimism)という用語を使っています。
「景気回復の最初の受益者たちが、景気の展望について御機嫌な気持ちをくりひろげると、彼らが感染の中心となって伝染性楽観症がはやり出す」「楽観主義の伝染病は、広まれば広まるほど、この伝染病を正当化し、強める諸条件をつくり出す」。
ちなみに、マルクスの『資本論』では、景気循環の繁栄局面で、信用が膨張し、異常な投機活動が活発になると指摘していますが、ユーフォリアという用語は使われていません。(友)
〔2007・2・7(水)〕