2007年2月8日(木)「しんぶん赤旗」
検証 国会正常化 共産党はこう動いた
柳沢伯夫厚労相の「産む機械」発言をめぐり、与党単独で補正予算成立を強行するという異常事態が続いた国会。六日の与野党国対委員長会談を経て正常化し、七日には衆院予算委員会で、補正予算審議の補充的質疑が始まりました。日本共産党は国会正常化に向けて何を主張し、どう行動したのか、検証しました。
柳沢厚労相発言
いち早く罷免を要求
柳沢厚労相が女性は子どもを「産む機械」「一人頭でがんばってもらうしかない」などと発言したのは、一月二十七日の島根県松江市での講演。
日本共産党は、発言が報じられた翌二十八日、市田忠義書記局長がただちにコメントを発表。「絶対に許されない発言だ。厚生労働大臣としての資格に欠ける。辞任に値する」と辞任を求めました。
三十日の衆院代表質問では志位和夫委員長が、“厳重注意”ですまそうとする安倍晋三首相を厳しく批判。「これは、女性の人間としての人格と尊厳を否定する絶対に許すことのできない最低・最悪の発言だ」と国会の場でいち早く柳沢厚労相の罷免を要求しました。
三十一日の参院代表質問でも、市田書記局長が「もし罷免できないというのなら、安倍内閣全体の人権へのモラルが柳沢大臣と同じレベルということになる」と指摘し、罷免を求めました。同日、志位、市田の両氏らは安倍首相に対する申し入れも行い、応対した塩崎恭久官房長官に、国民の暮らしの問題が重大なテーマになる予算委員会の審議をまともなものにするうえでも、予算審議が始まる前に首相は罷免の決断をすべきだと強く求めました。
3野党が審議拒否戦術
同意できないと表明
民主、社民、国民新の野党三党は一月三十日、党首会談を開き、柳沢厚労相の辞任を衆院予算委員会での補正予算審議入りの条件とする方針を確認。首相官邸を訪ね、厚労相の罷免を文書で申し入れました。
野党三党の申し入れについては、日本共産党にもよびかけがありましたが、三野党の要求は、予算委員会が開かれる前までの柳沢氏の罷免を求め、それに応じなかったら、予算委員会の審議を拒否するという国会戦術がセットになっていました。
志位委員長は同日の記者会見で、「私たちは、国会の中で徹底的に問題点を究明するという立場です。罷免を強く求めていくのは当然ですが、これが受け入れられないからといって審議を拒否する態度はとりません」と述べ、先方に「審議拒否がセットになった要求には同意できない」と伝えたことを説明しました。
なお、野党三党の党首会談に、共産党が加わらなかったのは、柳沢問題とセットで提起された「事務所費」問題をめぐって、民主党の側がよびかけを撤回したためです。
党首会談のよびかけがあった際、共産党の市田書記局長が「領収書の公表の用意がある」とした小沢一郎民主党代表の発言を受け、“閣僚や与党幹部が公表しなくても自ら公表するということか”と真意をただしたのにたいして、民主党は「信用できないなら、参加しなくても結構」という態度をとったのです。
与党暴走、単独審議・可決
ルール破りに抗議
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民主、社民、国民新の野党三党は、罷免が受け入れられなかったことを理由に委員会前の理事会から欠席し、いっさいの審議には応じない態度をとりました。
日本共産党の佐々木憲昭議員は理事会に出席し、柳沢厚労相の罷免を求めるとともに、一部野党が欠席という不正常な状態で予算委員会を開くべきではないと抗議。与党が一方的に予算委員会開会を決めると、開会前に金子一義予算委員長に抗議し、委員会を退席する行動をとりました。
日本共産党が退席したのは自分の要求が受け入れられなかったからではありません。政府が罷免に応じないことで国会が不正常な状況に陥ったからです。
それにもかかわらず、与党側は一方的に委員会を開会・審議する暴挙に出たのです。
与党単独で補正予算を成立させるというのは、一九六六年以来の「異常」な事態です。与野党合意で国会を運営するというルールが崩れました。
志位委員長は、二日の記者会見で与党の一方的な国会運営の暴走を止めること、問題の根本にある柳沢厚労相の罷免を速やかに決断して正常化を図ることを求めました。
事態打開へ
与野党協議呼びかけ
与党単独の一方的審議が続く不正常な状態が続きました。四日、テレビ朝日系番組「サンデープロジェクト」のなかで与野党の政策責任者が一つのテーブルにつきました。日本共産党の小池晃政策委員長は「主たる責任は与党にある。与党は正常化の努力をすべきだ。暴走を止め、話し合いをすべきだ」と主張。自民党の中川昭一政調会長は「再開に向けて必要な努力をやっていい」と答えました。
五日午前八時四十五分、日本共産党の穀田恵二国対委員長は、与党国対委員長に、不正常な事態の打開に向けた与野党国対委員長会談の開催などをよびかける申し入れをしました。応対した自民党の二階俊博、公明党の漆原良夫両国対委員長は、「(協議に)応じる用意がある」と表明しました。
その後、自民党は、民主党に与野党国対委員長会談を開く考えを伝えました。与党の提案を議論した野党の会談で、穀田氏は日本共産党の与党への申し入れを説明し「それに応えて、与党側から正常化のための協議の提案があった。これには応じるべきだ」と主張しました。民主、社民、国民新の三党は、「三野党党首会談が行われた後でなければ対応できない」と与野党協議を拒否しました。
正常化で合意
「補充質疑」要求実る
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穀田国対委員長は五日に自民、公明の両国対委員長に対し、与野党国対委員長会談の開催を申し入れたのにつづき、六日には、〇七年度予算案の審議前に、補正予算審議の補充的な集中審議を衆参両院の予算委員会で行うよう要求しました。
この提起に対して、自民党の二階国対委員長、公明党の漆原国対委員長は、「傾聴に値する意見であり、党内にいろいろ意見はあるが、誠意をもって検討したい」とのべました。
この提起を行ったのは、与党単独審議、可決での補正予算成立は四十年ぶりという異常な事態を是正し、あしき前例としないためにも、単なる「集中審議」ではなく、「補正予算審議の補充的な審議」が必要だったからです。
穀田国対委員長は六日深夜の与野党国対委員長会談でも、この意味を明確に主張し要求。与党側も、集中審議に補充的な意味が含まれることで合意しました。
会談後の記者会見で市田書記局長は、「われわれが努力して提案してきたことが実って正常化されたことについて大変よかった。この一連の提案が正常化への道筋を開きました」と強調しました。
国会で究明の立場にたって
日本共産党は、自分たちの要求が受け入れられないからといって、審議を拒否する態度をとらず、問題点があれば審議を通じて明らかにしていくという立場を一貫してとっています。今回の事態でも、共産党はこの筋を貫きました。
「産経」六日付は、「『唯一の野党』を掲げてきた共産党が、柳沢氏の罷免を求めながらも、審議拒否に全面依存する民主党などと一線を画しているのは当たり前のことだ」として、十一年前の「住専国会」での共産党の役割を紹介しています。
当時、住宅金融専門会社(住専)の不良債権問題が重大化し、野党第一党の新進党が“座り込み”戦術に出て国会が全面的にストップ。共産党の志位書記局長(当時)が自民党本部に乗り込んで事態打開に動きました。「産経」は、このことを「『審議拒否はしない』という党の基本方針に基づく行動だ」とのべています。
今度の国会での共産党の対応について、同紙は「3党に同調したように見えるが、最後は違う」などと、「独自色」を紹介しました。
柳沢厚労相発言から国会正常化までの主な動き | |
1月27日 | 柳沢伯夫厚生労働相が松江市の会合で、「女性は子どもを産む機械」「一人頭で頑張ってもらうしかない」と発言 |
28日 | 日本共産党の市田忠義書記局長が「絶対に許されない発言だ」「辞任に値する重大発言」と辞任を要求 |
30日 | 民主、社民、国民新の3野党党首が会談。衆院予算委員会審議までに厚労相の辞任がなければ審議拒否することを確認 |
日本共産党の志位和夫委員長が衆院代表質問で、罷免を要求。記者会見で「罷免がうけいれられないからといって、審議を拒否する態度はとらない」との基本的立場を表明 | |
31日 | 志位委員長が安倍首相にたいし、罷免を申し入れ |
市田書記局長が参院代表質問で罷免を要求 | |
2月1日 | 自民、公明が衆院予算委員会を単独で開会、2006年度補正予算案審議を強行。3野党は理事会も含め欠席。日本共産党の佐々木憲昭議員は、理事会に出席したうえで、委員会の冒頭、開会強行に抗議して退席 |
2日 | 自民、公明が単独で衆院予算委員会、同本会議開催を強行し、補正予算案を可決 |
5日 | 日本共産党の穀田恵二国対委員長が自民、公明の両国対委員長と会談し、国会正常化に向け、与野党の幹事長・書記局長会談あるいは国対委員長会談の開催を提案 |
与党が単独で参院予算委員会を開会し補正予算案を強行可決 | |
6日 | 与党が参院本会議でも補正予算案を単独可決、成立させる |
穀田国対委員長が与党国対委員長に申し入れ。2007年度予算案の審議の前に厚労相発言にからんで、補正予算の補充的な集中審議を衆参両院の予算委でおこなうべきだと主張 | |
3野党が党首会談。欠席戦術を中止し今後は国会審議で問題点を追及していく方向性を確認 | |
深夜に与野党国対委員長会談開催。7、8の両日、衆院予算委員会で補正予算の補充的審議をおこなうことで合意 |