2007年3月3日(土)「しんぶん赤旗」

旧日本軍の「慰安婦」問題

米議会 日本政府の態度問う


 第二次大戦中の旧日本軍「慰安婦」問題で日本政府に改めて謝罪を求める決議案が米下院に提出されています。元「慰安婦」が公聴会で証言、告発するなか、日本が行った過去の戦争犯罪と人権侵害にたいする日本政府の姿勢が改めて問われています。(ワシントン=鎌塚由美 写真も)


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(写真)元「慰安婦」の女性たちが証言した米議会公聴会。証言するのはミンディ・コトラー「アジア・ポリシー・ポイント」理事長(右端)=2月15日、ワシントン

 安倍首相は一日、従軍「慰安婦」問題で旧日本軍の関与を認め謝罪した一九九三年の河野談話について、「強制性を裏付ける証拠がなかったのは事実だ」などと発言しました。このことは、「慰安婦」問題での日本政府のあいまいな態度を問題にする米議会議員の懸念に根拠があったことを首相自らが裏付けるものとなりました。

 米議会下院に今回提出された「慰安婦」決議案(下院決議案一二一)は、アジア太平洋戦争時に日本軍によって性奴隷にされた「従軍慰安婦」の女性たちに対し、日本政府がその責任を「明確であいまいさのないやり方で認め」、首相が「公式の謝罪をおこなうべきだ」と求めるものです。

 同決議案が一月末に提出されて以来、日本政府は、同決議案は「客観的事実に基づいていない」などとし、採択阻止に力を入れてきました。

 加藤駐米大使は、「(謝罪など)日本政府がすでに行ったことを蒸し返して注文をつけ、その結果、日米関係が本来なくてもいい悪影響を受けるのはよくない」(二月十三日)と述べ、決議案を批判。麻生外相は、「客観的事実に基づいていない。日本政府のこの問題に対する対応を踏まえていないので、はなはだ遺憾だ」(同十九日)と国会で答弁し、同決議を敵視しました。安倍政権はさらに、世耕首相補佐官を訪米させ、米政府関係者に決議採択阻止の働きかけを行っています。

 一月末にマイク・ホンダ議員(民主)によって提出された同決議案の共同提案議員は、当初の六人から、元「慰安婦」の女性が初めて証言した公聴会(二月十五日)を経て、二十五人(民主党十九人、共和党六人、二月末現在)に達しています。

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(写真)米議会公聴会での証言を前に手を握り合う元「慰安婦」の女性。(左から)金君子さん、李容洙さん、ジャン・ラフ・オハーンさん=2月15日、ワシントン

 公聴会を主宰したアジア太平洋・地球環境小委員会のファレオマバエガ委員長は、「文明社会は人権擁護のために過去に苦しんだ人々を記憶し、その人の声を聞き、過去と現在の犠牲者に敬意を表する道徳上の義務がある。さもなければ新たなホロコースト(大虐殺)を起こす危険がある」と語り、韓国とオーストラリアから招いた元「慰安婦」の女性たちの話に耳を傾けました。女性たちは、日本政府に「行動の伴う謝罪」を求めました。

 ホンダ議員は、公聴会で、河野談話は「勇気付けられるものだ」と述べながら、「最近の与党・自民党の一部幹部による河野談話見直し・撤回の試みは、がっかりさせるものであり、日本政府の同問題でのあいまいさのあらわれとなっている」とするどく指摘しました。

 決議案が、日本軍による「慰安婦」の強制や奴隷化はなかったとする、いかなる主張にたいしても日本政府は、「明確、公式に反論すべきだ」と求めているのは、そのような政治家の言動は国際的に通用しないことを強調したものです。

 日本政府は、公聴会を前に、「決議案一二一は、日本政府が長年かけてすでに行ってきたことを要求し、米外交関係に不利益をもたらす可能性がある」と主張する資料を大手ロビー事務所を通して配布しました。

 日本政府は、同決議案阻止に動けば動くほど、同問題での日本政府の不誠実な態度を国際的にさらけ出すだけです。


歴史の書き換えを憂慮

米下院外交委小委員長の発言

 米下院外交委員会アジア太平洋・地球環境小委員会で二月十五日に開かれた元従軍「慰安婦」問題決議案についての公聴会でのエニ・F・H・ファレオマバエガ委員長の発言要旨は次のとおりです。

 第二次世界大戦中、日本軍が朝鮮、中国、台湾、フィリピン、オランダ、インドネシアの女性五万人から二十万人に日本兵への性の提供を強要したというのは明白な歴史的事実の問題である。ホンダ議員が提出した決議案は、日本にたいし日本軍の行為について全面的な責任を認めるよう求めている。

 日本は責任を認めてきたと主張する。しかし、日本の大手の出版社が「慰安婦」制度を詳しく述べ始めたのは一九八〇年代、九〇年代に入ってからだ。また、日本に占領された国々がこれについて語り始めたのも同じころである。

 こうした事態の進展にともない日本の河野官房長官が謝罪の談話を発表した。ところが二〇〇六年には下村官房副長官と日本で最大発行部数を持つ読売新聞が河野談話の妥当性に疑義をさしはさんだ。これによって日本が歴史を書き換えようとしていると考えられるに至った。

 デーリー・ヨミウリ紙二〇〇六年十二月二十四日付は「自民党、『慰安婦』問題で分裂 責任を認めた一九九三年談話の修正を国会議員が求める」と題する記事を掲載している。内外の他の新聞記事も、同様の憂慮を示し、この問題に直接関係する問題を取り上げている。さらに、米議会調査局によると、慰安婦への言及を削除する顕著な傾向が歴史教科書の新しい版に出てきている。

 この公聴会はけっして日本を困らせようというものではないが、「従軍慰安婦」にされた人々の人権を守ることはわれわれの神聖な義務である。

 文明社会は、どんな状況のもとでも歴史を書き換えたり否定するのを許すことはできない。文明社会は人権擁護のために過去に苦しんだ人々を記憶し、その人の声を聞き、過去と現在の犠牲者に敬意を表する道徳上の義務がある。さもなければ新たなホロコーストを起こす危険がある。

 日本が第二次世界大戦中にアジアと太平洋諸島を占領した期間、帝国軍隊が若い女性に性的奴隷を強制した歴史的責任を認めて謝罪し受け入れることに今日的意義がある。日本政府によれば、すでにそうしてきたし、一九九六年からどの首相も誠実な謝罪を述べてきたし、現在の安倍首相も二〇〇六年十月に国会で今後も謝罪の談話を守り続けると公言した。

 決議案は、これでは十分ではないという。だから、今後どの方向にすすんでいくかについて誠実な努力をするために証言を聞き、熟慮しようというのだ。


「慰安婦」問題の決議案(要旨)

 米民主党のマイク・ホンダ議員らが下院外交委員会に提出している元従軍「慰安婦」問題の決議案の要旨は、次のとおりです。

 一九三〇年代から第二次世界大戦中を通じたアジア太平洋諸島への植民地支配と戦時占領の期間、日本帝国軍隊が「慰安婦」として性的奴隷を若い女性に強制したことを、日本政府が明確であいまいさのないやり方で公式に認めて謝罪し、歴史上の責任を受け入れるべきであるという下院の意見を表明する。

 植民地支配と戦時占領の期間、日本政府は公式に、帝国軍隊の性奴隷にすることを唯一の目的として若い女性の獲得を委託した。

 日本政府による軍事的強制売春である「慰安婦」システムは、その残酷さと規模の大きさで前例のないものと考えられる。集団レイプ、強制妊娠中絶、辱めや性暴力を含み、結果として死、最終的には自殺に追い込んだ二十世紀最大の人身売買事件になった。

 日本の学校で使用されている新しい教科書のなかには、「慰安婦」の悲劇や第二次世界大戦中の日本のその他の戦争犯罪を軽視しているものもある。

 日本の官民の当局者たちは最近、彼女らの苦難に対し政府の真摯(しんし)な謝罪と反省を表明した一九九三年の河野談話を薄め、もしくは無効にしようとする願望を示している。

 日本政府は女性と子どもの人身売買を禁止する一九二一年の国際条約に署名し、武力紛争が女性に与える特別の影響を認識した女性、平和、安全保障にかんする二〇〇〇年の国連安全保障理事会決議一三二五を支持している。

 「慰安婦」の虐待および被害の償いのための計画と事業の実施を目的として日本政府が主導し、資金の大部分を政府が提供した民間基金「アジア女性基金」の権限は二〇〇七年三月三十一日に終了し、基金は同日付で解散される。

 このため、以下、下院の意思として決議する。

 日本政府は、

 (1)一九三〇年代から第二次世界大戦を通じたアジア太平洋諸島の植民地支配と戦時占領の期間、日本帝国軍隊が若い女性に「慰安婦」として世界に知られる性奴隷を強制したことを、明確にあいまいさのないやり方で公式に認め、謝罪し、歴史的責任をうけいれるべきである。

 (2)日本国首相の公的な資格でおこなわれる公の声明書として、この公式の謝罪をおこなうべきである。

 (3)日本帝国軍隊のための性の奴隷化および「慰安婦」の人身売買はなかったといういかなる主張にたいしても明確、公式に反論すべきである。

 そして、(4)「慰安婦」にかんする国際社会の勧告に従い、現在と未来の世代に対しこの恐るべき犯罪についての教育をおこなうべきである。


「河野談話」とは

 第二次世界大戦中の旧日本軍によるいわゆる「従軍慰安婦」問題について、日本政府は一九九一年十二月から調査した結果を、九三年八月四日に河野官房長官の談話として発表しました。このなかで、従軍慰安婦は「旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した」こと、「慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった」ことなどを認め、「歴史研究、歴史教育を通じて…永く記憶にとどめ、同じ過ちを繰り返さない」と約束しました。


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