2007年3月5日(月)「しんぶん赤旗」
社会リポート
有料老人ホームで虐待疑い 千葉・浦安
25人を4人で介護
格安を売り物 無届け
立ち遅れる指導監督体制
千葉県浦安市の有料老人ホームで一月末、入居者が手首を金具でベッドにつながれるなどの問題が、元職員の通報で発覚しました。同施設は県に無届けで、介護保険制度の適用施設ではありませんでした。費用の安さを売り物にしていますが、介護体制はとても手薄でした。無届け施設の現状と背景を取材しました。(平井 真帆)
「終身型有料介護施設」を標ぼうする問題の施設は、浦安市の静かな住宅街の一角にあります。
二月二十一日、県と市は老人福祉法に基づく立ち入り調査を実施、入居者一人が手首をベッドに縛られていることを確認しました。
施設の理事長を務める医師は「医療上必要な行為で、虐待にはあたらない」と主張しています。
二十八日、日本共産党県議団と市議団は同施設を調査し、理事長らから事情を聞きました。
理事長らによると同施設は介護保険サービスの利用をしていません。現在、五十代から八十代までの二十五人が入居。多くは在宅での介護ができず、病院から直接入居してきたといいます。理事長は「手のかかる人がうちに送られてくる」と話します。
ベッド数十九床の診療所をそのまま転用しているため、部屋いっぱいにベッドが並び、最大で六人が入居している部屋もあります。
職員は十人ですが、うち非常勤の医師と看護師、常務が各一人、調理担当者が二人。事務長を除くと、二十五人の入居者の介護にあたっていたのは実質、四人とみられます。入所者三人に一人の介護・看護職員という基準を求められる特別養護老人ホームに比べかなり手薄です。
ホーム急増 トラブルも
有料老人ホームは主に民間事業者が設置し経営しています。二〇〇〇年の介護保険制度のスタート以降急増し、都道府県に届け出たものだけでも、同制度導入前(一九九九年)の三百三施設から〇六年には二千百四施設へ増えました。一方、浦安市の施設のように無届け施設も増えているといいます。
急増に伴って介護の質や介護事故などをめぐるトラブルが各地で発生。各地の消費生活センターに寄せられた相談は二〇〇〇年以降、千百七十八件にのぼります。
昨年四月、トラブルの増加を受けて老人福祉法が改正され、行政の指導監督の権限が強化され、すべての有料老人ホームに届け出を義務付け、届け出違反には三十万円の罰金が科されました。
しかし国が都道府県に示している有料老人ホームの設置指導指針には、職員の配置数など人員基準の規制はありません。
また、国民生活センターの実態調査によると、有料老人ホームへの指導監督にあたる都道府県職員は兼務のところが多く、同センターの木間昭子調査室長は「特養ホームやグループホームなどへの対応に追われ、有料老人ホームまでは手が回らないのが実態ではないか」と指摘します。
低所得者の受け皿に
浦安市の施設は、入居時三十万円の保証金に、利用料は「本人の負担能力に応じ月八万―十二万円」と有料老人ホームとしては格安でした。
介護保険制度のもと、特養ホームの整備は抑制され、入居を待つ待機者は急増しています。千葉県内でも約一万七千人、浦安市だけでも約三百人の待機者がいます。
また、自民、公明、民主が賛成した介護保険法改悪(〇五年)で、特養ホームなど介護保険施設の食費や居住費が全額自己負担となり、負担に耐えきれない高齢者の退所も相次いでいます。
丸山慎一県議は「無届けで介護保険の適用を受けない安価な有料老人ホームが、在宅介護が困難な低所得者の受け皿になっている現実があるのではないか。国や県は、無届け施設も含め有料老人ホームへの指導の強化とともに、待機者解消に向けた特養ホームの整備推進と利用者負担の軽減へ、政策を転換するべきです」と話しています。