2007年3月15日(木)「しんぶん赤旗」

不公正・非民主的な改憲手続き法案

「戦争する国づくり」と一体

世論の批判で推進派に矛盾


 「戦争ができる国にしようとする力が改憲手続き法案を推し進めているのではないか」――安倍内閣と自民・公明の与党が今国会成立に執念を燃やす改憲手続き法案について、こんなメールが日本共産党本部に相次いでいます。法案の狙いと問題点を総点検します。


タカ派前面

政権維持へ強硬姿勢

 「断固としてやることはやる。それで支持率はついてくる」

 五日の参院予算委員会で、自民党の片山虎之助参院幹事長は、こう首相を激励しました。安倍首相も「戦後六十年たって、いまこそ後回しにされてきた改革をやらなければならない」と応え、その柱として教育「改革」と改憲をあげました。

 発足以来、内閣支持率が下がり続ける政治状況を、タカ派的、反動的に打開しようと改憲を前面に押し出す戦略です。

 その中心に位置づけているのが改憲手続き法案。ある政府関係者は「首相にとっての改憲手続き法案は、小泉首相にとっての郵政と同じだ。固定的な支持層をひきつけ、三割の支持率を維持できればと踏んでいる」と解説します。

 しかし、もともと改憲の発議は国会の権能であり、改憲手続き法案も政府の提案ではなく議員提案です。首相という行政府の長が立法府である国会の問題に、口出しするのは越権行為です。

 自らの支持率回復のために、改憲をもちだす首相の党略的態度は、推進勢力内に矛盾を引き起こしています。

 首相の指示で、与党単独での衆院通過まで狙った戦略には、国民から批判が集中。衆院憲法調査特別委員の事務所には、七、八両日で一千通を超える抗議と要請のファクスがひっきりなしに届きました。

 いっせい地方選を前に世論をおそれる公明党が「慎重姿勢」に転換し、自公と「合作」で手続き法案づくりをすすめてきた民主党も選挙を前に「安倍改憲路線」への抵抗姿勢を示すようになりました。

 与党は二十二日にも採決の前提と位置づける公聴会を設定しようとしていますが、まだ法案審議はわずか三十六時間。「修正」案は公聴会後に明らかにするという状況で、とても国民の意見を聞く段階ではありません。その中での強行路線は矛盾を激しくするだけです。

危険な狙い

日米同盟強化あけすけに

 安倍首相は十三日にも、衆院憲法調査特別委の中山太郎委員長を官邸によんで、「しっかり頑張ってほしい」と今国会成立にむけて督促しました。

 なぜ首相がこれほど成立に執着するのか。任期中の改憲という安倍氏の公約であり、日本経団連の方針でもある二〇一〇年代初頭の改憲実現のためには、タイムリミットが迫っているからです。法案が成立しても、国民投票が実施されるのは三年後から、国会の三分の二をしめる勢力による改憲案づくりも難航が予想されます。そこから逆算して、今国会成立に執念を燃やしているのです。

 その背景にあるのは、「海外で戦争をする国づくり」を求める米国の圧力です。米国の共和党、民主党の政府高官経験者らがまとめた「第二次アーミテージ報告」では、「憲法について現在日本でおこなわれている議論は、地域および地球規模の安全保障問題への日本の関心の増大を反映するものであり、心強い動きである」と歓迎。「きちんと行動し、憲法問題を解決」することを求めています。

 安倍首相はNATO(北大西洋条約機構)での講演で「自衛隊が海外で行動するのをためらわない」と公言(一月十二日)。NHK番組では、「日米同盟を強化していくために、いろいろな制約があって本当に正しいのか」「憲法と安全保障の問題をもう少し整理する必要がある」(十一日)と、日米同盟強化のための改憲だとあけすけにのべています。

 改憲手続き法案は、安倍首相が狙う「海外で戦争する国づくり」のための九条改憲とまさに地続きです。

最低投票率なし

1、2割の賛成で承認

 法案には、なにがなんでも改憲案を通すための、不公正・非民主的な仕組みが数多く盛り込まれています。

 最大の問題は、有権者の一、二割の賛成でも、改憲案が承認される仕組みになっていることです。

 一つは、投票成立の要件となる最低投票率がないため、投票率が三、四割でも、投票が成立することです。

 仙台弁護士会は二月の決議で、「投票権者のほんの少数の賛成により憲法が改正される恐れがある」とし、改憲の「正当性・信頼性に疑義が生じ極めて不当と言わざるを得ない」と反対しています。

 もう一つは、改憲案の「承認」に必要な「過半数の賛成」について、与党案は、原案でも修正方向でも、一番ハードルが低い「有効投票総数の過半数」としています。仮に投票率が四割で無効票が一割あれば、一割台の賛成で改憲案が承認されます。また、「白票」を投じた有権者の意思は「無効」として除外されてしまいます。

運動制限

ものがいえぬ公務員・教師

 法案には「国民投票運動」に対する重大な制限が持ち込まれています。約五百万人の公務員と、教員に対して、「その地位を利用して国民投票運動をすることができない」というのです。

 「地位利用」とはどのような場合なのかは不明確です。教師が「平和憲法の値打ち」を語ることも、公務員が尊重擁護の義務を負う「憲法の大事さ」を語ることも大きく制限されます。

 「修正」の中で、「罰則」は削られる方向ですが、「禁止」規定があること自体がさまざまな圧力になります。与党の説明でも「悪質な地位利用については公務員法上の懲戒処分で対処」するとしています。民主党はもともと反対でしたが、修正の中でこっそり賛成しています。

 この規制は、平和憲法を守る運動の重要な一角を担ってきた公務員や教育者の動きを制約し、改憲反対の議論の盛り上げを封じる狙いがあります。結局、国民全体での自由な討論を妨げるものでしかありません。 

有料CM

改憲派が独占の危険

 法案では、国民の運動の自由を奪っておきながら、多額の資金がものをいうテレビなどの有料CMを、「投票日前十四日間」を除いて自由にしています(与党案の修正方向)。

 一定の効果をもつCMには数億円かかるとされるうえ、申し込みは大手広告代理店を通じておこなわれます。「お金をたくさん用意できる側が、圧倒的に有利になる」(天野祐吉氏「朝日」〇六年五月二十二日付)のです。

 しかも、自民、民主、公明など改憲政党は莫大(ばくだい)な政党助成金(三党で約三百億円)を手にしています。国民の税金で改憲CMが流される危険もあります。

 ある大手広告代理店のディレクターは、「巨額の広告費が動くと、それが、報道にも影響を与える恐れがある」(十日、自由法曹団などが開いたシンポジウム)と指摘しています。

表

広報協議会

第三者でなく国会に設置

 国民へ改憲案を知らせる仕事を改憲派が多数を占める機構で進める問題もあります。国会につくるとしている広報協議会です。

 本来なら第三者機構でやるべき仕事を、改憲案発議の当事者が担当するのはおかしな話です。そのうえ、協議会は所属議員数の比率に応じて構成される仕組みです。

 政党中心に保障される無料広告も当初、所属議員数の比率に応じて割り当てようとしていました。これが改憲派に有利な仕組みと批判を受け、「賛否平等」とされようとしています。

 しかし、政党中心の仕組みはそのまま。国民投票運動期間において、主人公であるべき国民には、政党の指名する団体でない限り意見表明の機会はありません。

憲法審査会

改憲原案審議の場に

 この法案が九条改憲と地続きであることを端的に示すのが、国会法の改定部分で、「憲法審査会」の設置が盛り込まれていることです。

 憲法審査会は、改憲原案の審査、提出ができる常設機関です。改憲派は、この場で改憲の発議に向けた本格的改憲論議を進め、改憲を目指す政党間での共同改憲案づくりを推し進めようとしています。

 国民投票制度は法案の成立から三年後に施行されるのに対して、憲法審査会は、国会法が改定されれば次の国会から開かれます。

 自民党の中川昭一政調会長は、「憲法審査会では、あるべき憲法の姿について十分な審議が尽くされるものと考える」(衆院代表質問、一月二十九日)と共同改憲案づくりに期待を表明しています。

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