2007年3月16日(金)「しんぶん赤旗」
いまこそ人間らしく働けるルールを
日本共産党の緊急提案
日本共産党の志位和夫委員長が十五日発表した「いまこそ人間らしく働けるルールを――日本共産党の緊急提案」は次のとおりです。
雇用、労働問題が、日本社会を揺るがす大きな問題になっています。低賃金で不安定な非正規雇用の増大が、貧困と格差の広がりをもたらしています。正社員でも異常な長時間労働が、働く人たちの命と健康を脅かし、家庭も、地域社会も壊しています。安定した雇用は、国民の生活と安定した社会の基盤です。それが大きく崩れているのです。
これは自然現象ではありません。財界・大企業の目先の利潤追求のためのコスト削減と政府が行ってきた労働法制の規制緩和がもたらした“雇用破壊”です。この間、政府は、労働者派遣事業の原則自由化、製造業への派遣解禁、有期雇用の規制緩和など、正社員から非正規雇用への流れを促進してきました。裁量労働制や変形労働時間制の拡大など、労働時間規制の緩和を繰り返しました。これに成果主義賃金が加わり、「残業代を請求すると評価が下がり本給やボーナスが減る」「とても時間内では達成できない目標に追われる」など、長時間労働とサービス残業に拍車をかけています。
ところが、安倍内閣は「労働ビッグバン」などといって、非正規雇用をもっと増やす、労働時間規制を緩和し長時間労働をもっと過酷にするという規制緩和をさらにすすめようとしています。
いま、求められているのは、これ以上の雇用と労働のルール破壊、格差の拡大を許さず、是正のための実効ある措置をとることです。日本共産党は、これまでに労働基準法の抜本改正案、派遣労働者保護法案、パート・有期労働者均等待遇法案、サービス残業根絶法案などを提案してきました。その実現のために、引き続き努力するとともに、ワーキングプアなどの雇用格差をなくし、長時間労働を是正するために、以下の提案を行います。
1、異常な長時間労働を是正する
「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入は絶対にゆるさない
残業代横取り、長時間労働野放しの「ホワイトカラー・エグゼンプション」は、過労死など深刻さを増している長時間労働をさらに激化させるとともに、ホワイトカラー労働者の所得を数兆円規模で奪うことになり、日本経済にも深刻な打撃となります。安倍内閣は、サラリーマンの反発に驚き、今国会での法案提出はあきらめました。これは世論と労働者のたたかいの大きな成果ですが、「ホワイトカラー・エグゼンプション」そのものを断念したわけではありません。こんな悪法は絶対に提出すべきではありません。
違法な「サービス残業」を根絶する
「毎日、深夜まで勤務。『サービス残業』は月に三百時間」「午前七時から午後十一時までの勤務。残業代は一時間だけ」……違法な“ただ働き”の「サービス残業」によって、異常な長時間労働がまかりとおっています。
日本共産党は、「サービス残業」は労働基準法違反の企業犯罪であると、国会で二百七十回を超える質問で追及し、二〇〇一年四月には、「サービス残業」根絶の厚労省通達を出させ、〇五年度だけで二百三十三億円、五年間で八百五十一億円の未払い残業代を支払わせました。しかし、これは氷山の一角です。違法行為が繰り返され、残業時間を少なく申告することを強制する、パソコンなどに残された退社時間の記録を改ざんするなどの隠蔽(いんぺい)工作も横行しています。
長時間労働を是正するためには、違法なサービス残業の根絶が急務になっています。監督や告発を強化するとともに、違法を繰り返したり、隠蔽工作をするなどの悪質な企業は、企業名を公表するとともに、不払い残業代を二倍にして支給させるなどのペナルティーを強化します。
残業時間の上限を法定するとともに、最低11時間連続の休息時間を確保する
政府は、長時間労働を是正するために労働基準法を改正するとしています。しかし、残業代割増の義務化は、過労死の危険があるとされる月八十時間以上もの残業に限られるなど、きわめて不十分です。
日本の労働基準法には、残業時間の上限を規定していないという他の主要国にはない異常な問題があります。これを是正し、長時間労働そのものの法的規制をすべきです。政府は、「残業は年間三百六十時間以内とする」という大臣告示を出しており、まずこれをただちに法定化すべきです。
長時間労働の根本は、リストラによる人減らしで、仕事量に対して人が少なすぎることにあります。「一人に二人分働かせる」という非人間的な長時間労働をなくすためにも、残業代の割増は、人を増やした方が経営面でもメリットがある水準をめざすべきであり、現行の25%増を、少なくとも50%増にすべきです。
過労死や過労自殺をはじめ長時間労働による身体と心の病をなくすためにも、休息時間の確保が必要です。EUのように、連続休息時間を最低十一時間は確保します(深夜十二時まで働いたら、翌日の出勤は十一時以降)。休日出勤は極力行わせず、どんな場合でも一週間に一日は休めるようにすることなどをルール化するよう提案します。
中間管理職や裁量労働制の労働者の長時間労働は、非常に深刻になっています。使用者は、どんな役職の者でも、労働時間をきちんと把握・記録し、過労死基準を上回るような働かせ方をさせないようにすべきです。また、実質的な管理監督者でない労働者を名目上の管理職に仕立てて、残業代なしで長時間労働に就かせることもやめさせます。
2、使い捨ての働かせ方をなくす――非正規で働く人たちの権利を守り、均等待遇と正社員化をすすめる
違法な偽装請負を根絶するために、受け入れ企業の責任で直接雇用にする
労働者派遣事業法や職業安定法に違反する偽装請負が横行しています。違法行為を隠蔽するために、労働者派遣なのに業務請負の形式にしていることから偽装請負と呼ばれます。
請負業者は、労働者の賃金をピンハネして利益を得ます。受け入れた企業は、正社員の半分以下の時給で働かせたうえに、労災事故が起きても、社会保険に未加入でも、いっさい責任を負おうとせず、「契約解除」の一言で好き勝手に解雇もしています。こうした無法な働かせ方を、キヤノンやソニー、松下など日本を代表する大企業やその系列企業が行っていたことも明らかになっています。
日本共産党は、国会でも、偽装請負を繰り返し告発してきました。社会的な批判が高まる中で、厚生労働省も、業界最大手の請負事業者に業務停止命令を出しました。昨年九月には、偽装請負の是正を求める通達、今年三月には、偽装請負を是正する際に「派遣可能期間の制限を超えている」労働者は、派遣への転換は認めず、直接雇用などにするという通達を出しました。この厳格な実施を強く求めます。
同時に、政府は、違法を承知で偽装請負を活用してきた大企業には、その企業名さえ明らかにしないなど、甘い姿勢をとり続けています。これをあらため、受け入れ企業に「法令順守」をきぜんと求めるべきです。
違法な偽装請負を根絶し、安定した雇用に切り替えるために、行政指導にとどまらず、派遣法などを改正し、受け入れ企業の責任を厳しく問えるようにすべきです。自社で雇用すべき労働者を違法に「請負」で働かせてきたのですから、「派遣可能期間の制限」などの条件をつけずに、受け入れ企業の責任で直接雇用にするのが当然です。働き始めたときにさかのぼって、賃金など違法状態のもとで引き下げられてきた労働条件を補償させます。また、派遣法に偽装請負を受け入れた企業への罰則を設けるようにします。
労働者派遣に新しいルールを――派遣労働者の地位向上と正社員への登用をすすめる
労働者派遣は、働かせている企業が、労働条件をはじめ雇用への責任を持たない間接雇用です。だからこそ派遣は、臨時的、一時的な場合に限定するというのが原則だったはずです。政府も、国会で「臨時的、一時的なものであり、常用雇用の代替にしてはならない」と繰り返し言明してきました。ところが実際には、たび重なる労働法制の規制緩和によって、正社員を派遣社員に置き換えるリストラが大規模にすすんでいます。しかも、日本経団連の御手洗会長は、政府の経済財政諮問会議などで、“派遣社員を三年間使ったら直接雇用の申し出をしなければならない”という、わずかに残された正社員への道すらなくし、派遣や請負をもっと自由にたくさん使える規制緩和をさらに行えと要求しています。
労働者派遣は臨時的、一時的な場合に限定し、正規雇用の代替にしないという原則にたって、派遣労働者に正社員への道を開くべきです。派遣先企業は、一年以上経過したら、直接雇用を申し出る義務を負うように派遣法を改正します。また、交通費や社員食堂利用などでの派遣労働者への不当な差別や格差をなくします。
複数の派遣会社に登録し、携帯にメールで仕事を紹介されて、短期間の就労を繰り返すという、新しい「日雇労働」が増えています。労働者派遣の規制緩和によって、登録型派遣が、低賃金で、短期就労を繰り返す事実上の「日雇労働」を供給する仕組みになっているからです。しかも「日雇健康保険、雇用保険」の対象にもなりません。健康保険や雇用保険などを、こうした労働実態にあわせて整備することは緊急の課題です。そして、登録型派遣による日雇型雇用をなくしていくべきです。
当面、以上のような取り組みをすすめながら、労働者派遣事業法を派遣労働者保護法に抜本的に改正し、派遣労働を臨時的、一時的な場合に限定することを法律に明記するとともに、派遣先業種の制限、派遣先の正社員との均等待遇、劣悪で不安定な雇用となっている登録型派遣の解消などをすすめます。
均等待遇を法制化し、パート労働者の権利を保障し、待遇を改善する
仕事が同じなら待遇も同じ――多くのパート労働者の願いであり、当たり前の国際標準です。ところが、政府の「パート労働法改正案」が「差別禁止」の対象にするのは、「パート労働者の1%もいるかどうか」などといわれる範囲です。パート労働者の願いとはほど遠い法案を「格差是正」の“目玉”のようにいう安倍内閣とその与党は、パート労働者の「同じ仕事をしているのに給料は半分以下」という怒りや苦しみに背を向けているといわざるを得ません。「同一労働同一賃金」の原則、不当な差別や格差の禁止、均等待遇を法律に明記すべきです。
同時に、現行法でも、パートだからといって有給休暇や雇用保険などの権利を制限することはできないにもかかわらず、違法・脱法状態が広く存在しており、是正すべきです。食堂、休憩室の利用や交通費や慶弔費支給などの差別もただちに解消すべきです。
また、二つ以上のパートをかけもちするダブルワークにも、雇用保険をはじめ社会保険加入の権利を保障するように、制度を整備すべきです。
「短期・反復」という使い捨て雇用契約をやめさせる
派遣や契約社員、パートなど非正規雇用の多くが、数カ月というような短期間の雇用契約を繰り返しながら仕事をしています。いつ仕事がなくなるかわからない、生活設計もままならない、失業と隣り合わせの働き方です。上司や職場に言いたいことがあっても、「嫌ならやめろ」の一言で片付けられるなど、短期・反復の雇用契約が、弱い立場と劣悪な労働条件の大きな要因にもなっています。
恒常的な業務に従事している労働者の雇用期間を短くする理由はありません。裁判所の判例でも、厚生労働省の見解でも、短期の雇用契約を繰り返している場合は、期間の定めのない雇用契約とみなす、となっています。企業が、募集や採用にあたっての「強い立場」を利用して、合理的理由のない「短期雇用契約」を押しつけることは許されません。
合理的理由のない「短期雇用」は、不公正な契約として規制し、正規常用雇用に移行させます。職業安定機関(ハローワーク)は、合理的理由のない「短期雇用」の求人は受理せず、そういう募集をする企業は紹介停止にします。
会社による違法・脱法行為をきびしく監視し、非正規で働く人たちの権利を保障する
厚労省の調査でも、派遣や請負の法令違反は、五年間で二十一倍にも増え、約六割の事業所で何らかの法律違反が見つかっています。実際は、労働者なのに「個人請負」契約にして、法律で保障された労働者としての権利を奪う脱法行為も増えています。こうした違法行為をなくし、労働者としての権利を守ることは、“人間らしい労働”のために不可欠です。
労基署の体制強化や相談窓口の拡充などをはかります。ILOの理事会は昨年十一月に、先進国は、労働者一万人に一人の労働基準監督官を配置すべきという決議をしました。この水準にするためには、監督官を二倍にすることが必要です。
また、国でも自治体でも、「労働法ハンドブック」の作成など、労働者の権利と雇用主の義務を知らせる広報活動を抜本的に強化します。
ワーキングプア、フリーターを支援する国や自治体の取り組みを強化する
非正規で働く労働者が、技能を身につけたり、資格を取得できるように職業訓練の機会を抜本的に増やすべきです。低賃金で蓄えがない人には訓練期間中の生活資金の援助を行うことも必要です。政府は、「再チャレンジ」といいながら、雇用対策予算を半減させ、二千億円も削りました。これを元に戻すだけでも、ワーキングプアやフリーターからの脱出を願う人たちに生活の心配なく職業訓練を受ける機会を大きく増やすことができます。
アパートも借りられず、一泊千数百円のネットカフェで寝泊まりしながら働いている若者もいます。若い世代向けの公共・公営住宅の建設や借り上げ、家賃補助制度、生活資金貸与制度など、国や自治体が、生活支援を強めることも必要です。
3、最低賃金を引き上げ、全国一律最低賃金制を確立する
一生懸命働いても貧困から抜け出せない、ワーキングプアが四百万世帯を超えるといわれています。その背景には、最低賃金が、時給六百七十三円(平均 月額約十一万五千円程度)という、とても生計費をまかなえない低さに押さえ込まれていることがあります。最低賃金を“貧困のどん底”のような水準にしたまま放置することは許されません。
日本の最低賃金は、労働者の平均的給与の32%と世界でも最低水準です。EUでは最低賃金を労働者の平均賃金の半分まで引き上げることを目標にしています。日本を“働いても、働いても貧困”という社会にしてはなりません。
憲法が定める「健康で文化的な最低限度の生活」ができる水準に引き上げるのは、国の責任です。全労連も、連合も労働団体の違いを超えて、時給千円以上への引き上げを要求しており、政府は、これに応えるべきです。
同時に、すべての労働者に等しく適用される全国一律最低賃金制を確立すべきです。どこで働き、どんな職業に就いていようとも、人間らしい最低限度の生活を保障するというのが最低賃金制の役割であり、国の責任です。多くの国が全国最低賃金制を採用しており、地域別最低賃金が四十七もあり、都道府県別に格差をつけた最低賃金にするというのは日本だけです。
最低賃金の引き上げは、地域経済にも大きな波及効果があります。政府は、「中小企業の経営を圧迫する」ことを口実に、最低賃金の抜本的な引き上げを拒否していますが、これでは、労働者の生活も、中小企業の経営も、苦しいまま放置することになってしまいます。中小企業への支援とあわせて、最低賃金の引き上げをすすめてこそ、経済全体の底上げをはかることができます。
同時に、最低賃金さえも無視した大企業による下請け単価の買いたたきなどの下請け中小企業いじめをきびしく監視することをはじめ、低賃金の過当競争を抑制するなどの対策をとる必要があります。また、運輸業界や大型店などこの間の規制緩和が、労働者の賃金も引き下げ、中小企業の経営も圧迫し、消費者の安全や街のにぎわいという面でも深刻な問題を引き起こしており、これらの抜本的是正もすすめるべきです。
自治体が発注する事業(公共工事、サービス・役務)が最低賃金よりも低い労務単価で落札される事例が全国に広がっています。発注者である自治体は、最低賃金を守れないような低入札価格を是正し、委託業務で働く労働者が人間らしい生活をおくることのできるような価格設定にすべきです。自治体に働く臨時・非常勤職員の時給が民間パートの時給より下回る例が少なくありません。これを抜本的に引き上げるべきです。