2007年3月19日(月)「しんぶん赤旗」
イラク開戦4年
世界から「米軍撤退を」の声
米国などが国際法を踏みにじり世界の世論を無視してイラク侵略戦争を強行してから20日で4年。米軍の占領が続くイラクでは米軍の軍事作戦と宗派間の抗争、テロの横行で数十万人のイラク人の生命が奪われ、社会・経済が破壊されています。イラクの大量破壊兵器をめぐる侵攻の口実が崩れ、占領政策の破たんが明確になる中で、米軍のすみやかな撤退を求める声が世界中に高まっています。
与党大敗 高まる世論
米国
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米国ではイラク戦争を最大の争点とする昨年十一月の中間選挙でブッシュ政権の与党・共和党が大敗し、国民の手厳しい審判を受けました。野党民主党が多数派となった議会では、米軍のイラク撤退の議論が活発化。下院では、二〇〇八年末までの撤退を盛り込んだ追加予算案が歳出委員会で採択されました。
イラクでの米兵の戦死者は三千二百人以上に達し、負傷米兵は二万四千人を超えるとみられています。兵士たちは三度、四度目の派遣を強いられ、出口の見えない戦争の長期化で、厭戦(えんせん)気分が広がっています。すみやかな撤退を求める国民世論を背景に、反戦運動団体が連日、議会での働きかけを続けています。
開戦当時七割を超えたブッシュ大統領の支持率は一月の『ニューズウィーク』誌調査で過去最低の30%を記録。イラク撤退を求める世論は最新の世論調査(三月十一日にCNNが実施)で58%になっています。反戦組織の全米最大の連合体「平和と正義のための連合」は一月末に、十数万人が参加した集会・デモで米議会を包囲しました。
ブッシュ政権は一月以来、バグダッドを中心に三万人近い兵力の増派をすすめ武装勢力の掃討作戦を強行するなど、軍事力優先の姿勢に固執しています。しかし政策の破たんに直面して、戦争強行の急先鋒(せんぽう)となってきたネオコン(新保守主義)勢力の一部が政権を離脱。イラク情勢に大きな影響を及ぼす隣国イランやシリアと部分的な対話に踏み切るなど、若干の変化もみせています。(ワシントン=鎌塚由美)
半減した有志連合国
欧州
「フランスは二〇〇三年にイラクで軍事的解決はないと強く主張した。二〇〇七年でもこれは真実だ」(ドビルパン仏首相=二月七日付英紙フィナンシャル・タイムズのインタビュー)
「ドイツは正当な理由をもって対イラク戦争に反対した。残念ながら、いまイラクでは、われわれが懸念していたことが実際に起こってしまった」(シュタインマイヤー独外相=一月二十五日付汎アラブ紙アルハヤトのインタビュー)
イラク戦争に反対を貫いた仏独二人の政治指導者の最近の発言は、米ブッシュ政権に「だから言ったではないか」との非難が込められています。
ドビルパン氏はさらに今月十六日、米国での講演で、〇八年中のイラク撤退を米国と他の派兵国に呼びかけました。
四年前、欧州はイラク戦争をめぐって分裂。現在の欧州連合(EU)二十七カ国でみると、十五カ国の政府が世論の反対を押しきって、ブッシュ政権の呼びかける有志連合に加わり、派兵しました。
しかし親米派与党が選挙で敗北したスペインやイタリアをはじめ、有志連合を離脱してイラクから撤退する国が相次ぎ、今年二月末には米国の最大の同盟国である英国も部分撤退を発表するに至りました。
現在、イラクに部隊を残留させている国は英国を含めて八カ国で、開戦当時から半減。しかも英国の発表に合わせてデンマークとリトアニアが今年秋までの撤退を、ルーマニアも大半の部隊撤退の意向を明らかにしました。ポーランドも年内いっぱいで現地の任務を終えるとしています。
一月末の撤退完了を明らかにしたスロバキアのフィツォ首相は二月二日、記者会見で「イラク戦争は信じられないほど不正で誤ったものだ」と強い調子で非難しました。
有志連合は米国を含む当初の三十八カ国から半減。十六カ国が完全撤退し、韓国を含め五カ国が撤退・縮小を計画しており、兵力を削減せず駐留を継続している国は十七カ国になっています。(パリ=浅田信幸)
“死を待つか 脱出か”
イラク
「米軍は治安作戦と称して道路を封鎖し学校で試験を受けることもできません。電気の供給は一日二時間。ガスや燃料のない生活を信じられますか」。爆弾テロで友人を失った首都バグダッドのムスタンサリア大学四年生のマルワ・カイスさん(20)=シーア派女性=は、本紙の電話インタビューで訴えました。
ジャーナリストのアブデル・ハミドさん(32)=スンニ派男性=は「ブッシュ大統領はイラクに民主主義と自由を約束したが、彼はこのウソがイラクにはかりしれない危機をもたらしたとは思っていない」と怒りをぶつけます。
米占領軍の軍事作戦、宗派間抗争、国際テロ組織アルカイダとつながる組織が関与する連日の爆弾テロ。今年一月のイラク人犠牲者は千九百九十二人、二月は千六百四十六人が亡くなりました。開戦以来のイラク人の死者は、昨年末までに二十五万人(アラブ首長国連邦紙ガルフ・ニューズ二月十九日付)に達し、六十五万人という推計もあります。
基幹産業の石油生産は武装集団の破壊活動で、一日四十万バレルが損失し、燃料精製能力は50%にまで落ち込んでいます(イラク紙アッザマン二月二十日付)。
イラクの人口は約二千八百八十万人(二〇〇五年推定)。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は一月、米軍の侵攻以来、百七十万人が国内で避難民化し、最大二百万人が近隣諸国へ避難していると報告しました。国際移住機構(IOM)は二月、〇七年には新たに百万人が避難民になると警告しています。
米軍の占領政策でシーア派、スンニ派の宗派対立があおられ、生活基盤が破壊されたのが原因です。「国から逃れられないイラク人は死を待つしかないと思いながら脱出の機会を狙っている」。あるイラク人ジャーナリストの言葉です。
「米国はイラクをテロリストと死の商人、誘拐犯や暗殺者が横行する歴史上初めての国にしてしまった」(エジプト紙アルアハラム三月十五日付)。(カイロ=松本眞志)
安倍政権世界から孤立
日本
「日本政府は、ブッシュ大統領のイラク政策をほぼ無条件に支持しているが、それは今や米国の共和党にさえ奇異に映る」。米コロンビア大学のジェラルド・カーティス教授の指摘(「東京」二〇〇六年十二月三日付)です。
イラク問題をめぐる安倍内閣のブッシュ政権への追随ぶりは、世界でも際立って異常です。
日本政府は、イラクの大量破壊兵器保有を最大の口実に戦争を支持しました。その口実がでっち上げだったことが明らかになっているにもかかわらず、安倍晋三首相は今でも「当時、イラクに大量破壊兵器が存在すると信じるに足る理由があった」などと強弁。「政府として支持をした判断は誤っていない」「正しい決定であったと現在でも考えている」と開き直りを続けています。「対イラク武力行使によって、それ以前のようなイラクの(大量破壊兵器の)脅威はなくなった」とまで述べています。
ブッシュ大統領でさえ誤りを認めざるを得なかった「イラクの大量破壊兵器保有」という口実を、今でも戦争の正当化に使っているのは世界では日本だけです。
このため安倍内閣の重要閣僚からも、大量破壊兵器の存在を理由にしたイラク戦争開戦の判断は「間違っていた」(久間章生防衛相)との批判が出ました。
安倍首相は、米国内でも米軍の早期撤退を求める声が多数になっているのに、ブッシュ大統領が発表した米軍増派にも「支持」を表明。七月末に期限が切れるイラク特措法を二年間延長し、米軍支援のため航空自衛隊の派兵を継続しようとしています。
同時に、イラク戦争のように米国が海外で起こす戦争に、日本がともに参加できるようにするため、憲法九条の改悪を狙っています。
しかし、こうした安倍首相の姿勢は、日本国民の世論からも孤立しています。
最近の世論調査(「朝日」十五日付)では、イラク戦争は「誤りだった」が75%にのぼり、「正しかった」はわずか12%。米軍増派がイラク安定に「つながらない」も70%に達しています。イラク特措法の延長も「反対」が69%で、「賛成」は19%にすぎません。(榎本好孝)
崩れた「正当化の口実」
◆「(イラクの大量破壊兵器保有についての)情報の多くが誤りだったことが判明したのは事実だ」(ブッシュ米大統領=2005年12月)
◆「サダム(フセイン・イラク元大統領)が生物・化学兵器を保有しているとの証拠は間違っていたことが分かった。私はこれを認め、受け入れる」(ブレア英首相=04年9月)
◆「大量破壊兵器で釣られたことはまったく不愉快だ。われわれは作り話でだまされた」(ポーランドのクワシニエフスキ大統領=当時=04年3月)
◆「イラク介入は不正であり、正当化されないと考える。いかなる大量破壊兵器もみつからなかった」(プローディ伊首相=06年4月)
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