2007年3月20日(火)「しんぶん赤旗」
「北」資金を全額返還
米朝合意 6カ国協議始まる
【北京=菊池敏也】米国と北朝鮮は十九日、マカオの銀行バンコ・デルタ・アジア(BDA)の北朝鮮関連口座の凍結を全面解除し、資金全額約二千五百万ドル(約二十九億円)を中国銀行(国有商業銀行)に移すことで合意しました。ヒル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)とグレーザー米財務副次官補(テロ資金・金融犯罪担当)が北京で発表しました。これにより、北朝鮮が核施設の活動停止の前提としていた金融制裁問題は解決される見通しとなりました。
同日、北京では北朝鮮の核問題をめぐる六カ国協議の第六回会合が開幕。北朝鮮の首席代表、金桂冠・外務次官は基調演説で「(口座凍結が)全面解除されれば、寧辺の核活動を中断する」と言明しました。
議長の武大偉・中国外務次官は、初期段階措置の履行に「有利な条件が整った」と述べました。
グレーザー副次官補は会見で「北朝鮮は(凍結解除された)資金を人道・教育上の目的を含む北朝鮮国民の生活向上のためにのみ利用することを、六カ国協議の枠組みのなかで約束した」と述べました。資金は中国銀行の朝鮮貿易口座に移されるため、中国政府の金融監督当局の監視下に置かれることになります。
米財務省は二〇〇五年九月、BDAの北朝鮮関連口座がマネーロンダリング(資金洗浄)に関連があるとしてBDAと米金融機関との取引を停止。これを受けマカオ当局がBDAの北朝鮮関連口座を凍結しました。米財務省は先週、BDAと米金融機関の取引禁止を正式決定する一方で、北朝鮮関連口座の扱いをマカオ当局に委ねるとしていました。
解説
資金凍結解除問題
使途は人道目的 「北」約束
米国と北朝鮮が十九日、マカオの銀行バンコ・デルタ・アジア(BDA)で凍結されている北朝鮮関連資金の全額返還に合意しました。核施設の稼働停止・封印の前提条件として制裁解除を主張してきた北朝鮮の要求に米国が応じる一方で、北朝鮮は凍結解除された資金の使途を人道目的に限ると約束。北朝鮮は今後、核施設の稼働停止・封印を速やかに実施することが求められます。
二〇〇五年九月に金融制裁が発動された当初、米国は「金融システムを守るための法的措置」として、BDAの問題と六カ国協議の進展を関連させることを拒否してきました。しかし北朝鮮は、共同声明の採択と相前後して金融制裁が実施されたことに反発し、六カ国協議への参加すら拒否。昨年十月に核実験にまで突き進みました。
その後、ブッシュ米政権はかたくなに拒んできた米朝二国間の協議に踏み切り、北朝鮮を六カ国協議に復帰させる道を探り始めます。この結果、昨年十二月の六カ国協議の再開、「初期段階措置」を盛り込んだ今年二月の共同文書の採択へと急進展。六カ国協議を前に今回の凍結資金の全面返還合意へと至りました。
ただ、凍結解除された資金が北朝鮮の軍部や特権層に渡る可能性があるとの懸念も出ています。
米財務省が十四日に発表したBDA口座の調査結果によると、北朝鮮関連口座の一部がドル紙幣偽造、麻薬取引や大量破壊兵器拡散に関係があると断定しています。これが事実なら、口座の一部は昨年十月の北朝鮮の核実験後に採択された国連安保理の制裁決議(十月十四日)に抵触する可能性があります。
この点で注目されるのは、グレーザー米財務副次官補が会見で、返還される資金の使途について北朝鮮は「北朝鮮国民の生活向上のためのみに使う」ことを「六カ国協議の枠内において」約束した、と明らかにしたことです。口座の資産の性質を変えることで、安保理決議にも沿う形で決着を図ったといえます。
北朝鮮の約束が「六カ国協議の枠内」だとすることで、北朝鮮は解除される資金の使途を朝鮮半島の非核化と北東アジアの安全保障という六カ国協議の目的に反しない範囲に限るのを受け入れたことになります。(面川誠)
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