2007年3月30日(金)「しんぶん赤旗」

安倍首相の「慰安婦」発言
世界はこう見る


 安倍首相は「従軍慰安婦」問題で「強制連行はなかった」と言い張り、自ら継承すると言明したはずの「河野談話」(一九九三年)を事実上否定しています。世界の世論は、そんな安倍首相と日本政府の姿勢に厳しい目を向けています。


現在進行の人権侵害

韓国各紙

 韓国の新聞七紙は二十八日付の社説で、「慰安婦」問題についての安倍首相の一連の発言を批判しました。「おわびする」と言いながら、国の責任を認めない安倍首相の“謝罪”を批判しました。

 中央日報は「(慰安婦の方々が)そのような立場におかれたことに、おわび申し上げる」とした安倍首相の二十六日の参院予算委員会での答弁を引用。「(この)言葉遊びのような表現からしても分かるように、政府次元の責任を回避する態度には本質的に変化がない」と指摘。「彼の謝罪には真剣さが見られない」と断じました。

 ソウル新聞は、米国務省のケーシー副報道官が二十六日に「(日本は)過去に犯した罪の重大さを認識し、率直で責任ある態度をとるべきだ」と述べたことを紹介。「歴史わい曲と責任回避にきゅうきゅうとする日本に対し米国が公式の立場を明らかにするのは前例がない」と説明した上で、「安倍首相の二重的であいまいな態度を非難したものだ」と指摘しました。

 同報道官の発言を中央日報、京郷新聞はともに「異例」と報道し、日本に事態の深刻さを認めるよう迫っています。

 安倍首相が北朝鮮による日本人拉致問題を最優先課題とする一方、「慰安婦」問題では政府の責任を否定していることにも強い批判があります。

 安倍首相が二十六日、「拉致問題は現在進行形の人権の侵害」で「慰安婦」問題とは「まったく別」と述べたことについて、ハンギョレ紙は「慰安婦問題は決して過去のものではない」と反論。「まだ多くの慰安婦ハルモニ(おばあさん)が、その当時の苦痛を持ったまま生きている。安倍首相をはじめとする日本政府の官吏の発言は、傷口に塩を塗る重大な現在進行形の人権侵害だ」と批判しました。

 この問題では朝鮮日報十二日付が、「孤立招く日本」という記事を掲載。「北東アジア外交再編で日本は孤立の様相を呈している。北朝鮮による日本人拉致犯罪にこだわる一方、かつて日本が拉致した日本軍『慰安婦』を否定することにより、日本は外交的、道徳的基盤を失いつつあるとの批判も出ている」と指摘しています。

米国まで敵に回した

英誌

 英誌『エコノミスト』三月二十一日号(電子版)は「東京の間違った動き―日本外交に泥を塗る軍の売春宿」と題する論評で、「慰安婦」問題での安倍首相の姿勢を厳しく批判しました。

 論評は「安倍晋三は日本の首相となってわずか六カ月で、戦争中の歴史というやぶに突進することによって自らの国際的な評価をずたずたにしてしまった」と書き出しています。

 安倍首相が日本政府の「慰安婦」への関与について「強制の証拠はない」と述べたことは、「自らが体験した奴隷状態を証言してきた多くの年老いた女性たち」を驚かせたと指摘。その発言は「軍の文書庫から発見された証拠にも反する」と述べています。

 論評は、強制を認めた一九九三年の河野談話を首相は引き継ぐと言ったのに、すぐまた「強制はなかった」とする答弁書を確認したことを紹介。「安倍氏は近隣諸国との関係で最近日本が進めてきた成果の多くを一撃でご破算にしたと同時に、同盟国の米国まで敵に回してしまった」と解説しています。

 論評はさらに「安倍氏の無能ぶりを測る物差し」は、「慰安婦」問題で「北朝鮮が道徳的な高みに立つのを許した」ことだと指摘しています。

 具体的事例として、六カ国協議で北朝鮮側が「日本は拉致問題を口にするのをやめ、自らの歴史的な過ちを謝罪し補償せよと要求している」現状を説明。「日本はすでに(六カ国)協議で脇に追いやられつつあるのかもしれない」「日本による慰安婦の否定は、それをさらに深刻化するだろう」と述べています。

「完全な謝罪」を回避

英紙

 【ロンドン=岡崎衆史】英ガーディアン紙二十七日付は、「日本は戦時の性奴隷(「従軍慰安婦」のこと)についての完全な謝罪を回避」と題する東京発のニュース記事を掲載しました。

 安倍首相の二十六日の国会での答弁を取り上げたもの。「首相は日本による戦時の性奴隷の使用について謝罪したが、日本軍によって強制されたことを認めなかった」と報じました。

 記事は、「慰安婦」問題での活動家が、日本の国会による公式の謝罪と補償を求めていると指摘。また、米下院で「慰安婦」問題で日本政府に謝罪を求める決議案が採択された場合も、安倍首相が謝罪をしないと述べていることを紹介しています。

ねらいは憲法骨抜き

シンガポール紙

 シンガポール紙聨合早報の元論説委員・黄彬華氏は同紙十六日付に論評「歴史論争はアジアから北米に拡大した」を寄稿し、侵略の歴史をあいまいにしようする安倍首相の「慰安婦」発言が国際的批判を広げていると指摘しました。「慰安婦」問題で「強制はなかった」と繰り返す安倍首相や自民党の「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」の狙いは、「憲法を骨抜きにし、河野談話を『まったく無害なもの』に変えることにある」と厳しく批判しています。

 論評は、「日本は慰安婦問題ばかりか第二次世界大戦中のシンガポールでの中国系住民虐殺や中国での南京大虐殺など日本軍による蛮行を絶対に認めようとしないか、もしくは『証拠が不足している』との口実で焦点をあいまいにしてきた」と指摘。「その目的は、(過去の行為を)あくまで否定し、それを国家への汚点として残さないことにある」と解説しています。

 「欧米人のなかには、日本をアジアで唯一の成熟した『平和、民主、富裕』の国とみる人もいる」とした上で、「しかし(今回)彼らは、日本が言行不一致で歴史の真相を尊重せず、歴史に対し『不誠実、無責任』で、人権を尊重しない国家であることに驚いている」と述べています。



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