2007年4月2日(月)「しんぶん赤旗」

主張

教科書検定

軍強制否定は戦争を美化する


 文部科学省が、来春から使用する高校(主に二年生以上)教科書の検定結果を公表しました。

 日本史では、太平洋戦争末期の沖縄戦のさいの住民の「自決」にかんする記述に検定意見がつき、「日本軍の強制」を削除する修正が行われました。見過ごすことのできない歴史の書き換えの強要です。

特定の立場で押し付け

 日本の侵略戦争の末期に、沖縄は米軍の上陸により直接の戦場となり、県民が重大な犠牲を受けました。日本の軍当局が、沖縄を無残な「決戦」に引きずり込んだからです。県民の三分の一に近い十数万人が命を奪われ、九万人の軍人が犠牲となりました。迫りくる米軍との戦闘のさなかに、日本軍によって「自決」を迫られたり、「スパイ容疑」などで虐殺されたりした県民が少なくなかったことは歴史の事実であり、なんら修正を求められることではありません。

 教科書検定が争われた過去の訴訟でも日本軍による「自決」強制が次のように認定されています。

 「沖縄戦における日本軍による住民の犠牲者の中には、日本軍によって直接殺害された者のほか、日本軍によって自決を強要された者、日本軍によって壕(ごう)を追い出され、あるいは食糧を強奪されたため死亡するに至った者があるとするのが、概ね学界における一般的理解であるということができる」(一九八九年十月三日、東京地裁判決)。これは二審の東京高裁判決(九三年十月二十日)でも認定されました。

 文部科学省は、元軍人が起こした訴訟(二〇〇五年)で“命令はしていない”という陳述があったことや、軍の命令があったとする資料と否定する資料の双方があることをあげて、「断定的な表現に意見をつけた」といっています。

 文部科学省が当事者でもない訴訟を、しかも判決も出ていないのに一方の主張のみを持ち出して、検定意見の理由にするなど、きわめて異常です。先の判決でも軍命令の有無にまでは結論を避けたものの、軍による強制は明確にしました。沖縄戦に関する学界状況が変わったわけでもありません。転換したのは文部科学省です。

 住民の「自決」について、「日本軍の強制」という記述を削除することは、住民が自ら進んで死んだものとして侵略戦争を美化することにつながります。沖縄戦は、日本がアジア諸国への植民地支配と侵略を行った過去の戦争の末期に起こった悲劇でした。日本が起こした侵略戦争を正義の戦争として描く「つくる会」教科書は、沖縄の悲劇まで“英雄”扱いしました。住民の「自決」について、「日本軍の強制」という記述をいっさい認めないとする文部科学省の検定の態度が、あの戦争は正しかったとする流れにくみするものであるなら重大です。

政府は反省の立場を

 教育基本法改悪後の初めての教科書検定で、文部科学省が軍命令否定の特定の立場にたって、教科書を修正させたことに、強い危険性を感じないわけにはいきません。

 子どもたちに戦争の真実を伝えていくうえで、教科書の果たす役割ははかりしれません。「従軍慰安婦」問題で反省と謝罪をのべた河野談話は、過ちを繰り返さないために「歴史教育」を通して「永く記憶にとどめ」る大切さを強調しています。政府は検定を、特定の立場からの修正の場にするのではなく、河野談話にみられる過去の戦争への政府の反省の立場を教科書に反映させるよう努力しなければなりません。



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