2007年4月9日(月)「しんぶん赤旗」
温暖化の影響に警鐘乱打
異常気象・水不足・飢餓広がる
IPCC報告
温暖化が続くと、異常気象が頻繁に起こり、氷河が解けて河川の水量が変化し、穀物生産に影響を与え、デルタ地帯は洪水に悩まされ、海面上昇で沿岸地方や小さな島々は水没の危機に直面し、水不足や飢餓が広がり、一部の生物種は消滅する―。国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第二作業部会が六日ブリュッセルで採択した報告は、地球温暖化が地球と人類に及ぼす深刻な影響に警鐘を乱打しています。温暖化抑制・防止は、もはや先送りを許されない課題になっています。(ブリュッセル=浅田信幸)
IPCCは二月に温暖化の「科学的根拠」を示す第一作業部会の報告をまとめています。温暖化は客観的な事実であり、今世紀末には一九九〇年比で最大六・四度まで上昇すると予測。温暖化の主要な原因が人間の活動にあると断定しました。
発表された文書はともに「政策決定者向けの要約」。各国政府・機関に温暖化を引き起こす温室効果ガスの排出削減に早急に手を打つよう促す内容です。
世界の各地域で
世界の各地域で、温暖化のどんな影響が予測されているでしょうか。
アジア
ヒマラヤの氷河融解で洪水や落盤が増大。中央・南・東・東南アジアの大河流域では、人口増と生活向上から需要が増す真水の確保が困難になり、その影響は二〇五〇年までに十億人にも及びます。
穀物生産は今世紀半ばまでに、東・東南アジアでは20%増が見込まれる一方、中央・南アジアでは30%減となり、いくつかの途上国で飢餓の危険が「非常に高い」水準で続きます。
穀物生産は世界的には、中・高緯度地域で気温が一―三度上昇するとわずかに増加するが、それ以上に上がると一部地域で減少すると予測されています。
アフリカ
二〇年までに七千五百万人から二億五千万人が水不足に直面。農業生産は多くの国で危機的な状況になり、幾つかの国で降雨に頼る農業は二〇年までに生産が50%に落ちます。アフリカは気候変動に対し最も脆弱(ぜいじゃく)な大陸です。
大洋州
降雨量の減少で水不足が深刻になり、二〇年までに「生物多様性の重大な消失」(生物種の減少)が起こります。世界最大のサンゴ群生地であるグレート・バリア・リーフも影響を受けます。
欧州
山岳部では氷河が減少し、冬の観光事業が後退。南欧では水不足に悩まされ、熱波による健康被害も増大します。中・東欧では夏季の降雨量が減少し、水不足が深刻化。北欧では当初は暖房費節約や農業生産増大の効果がありますが、温暖化が続くと冬の洪水や土地の不安定化で否定的影響が利益を上回るようになります。
南米
アマゾン東部の熱帯林がサバンナに変わり、一部生物種の絶滅で「生物多様性の重大な消失」が生じます。乾燥地方の農地の塩化、砂漠化が進行。降雨パターンの変化と氷河の消滅で水不足が生じます。
北米
穏やかな気候変動は農業生産を5―20%増大させます。西部山間部では積雪が減少し、冬の洪水、夏の水量減少で、水不足が生じます。熱波と森林火災が広がります。
極地
氷河・氷床の厚さと広がりが減少し、凍土(ツンドラ)も後退して、生態系が変化。
小さな島々
海面上昇で沿岸が浸食され、浸水が頻発し、生活基盤が脅かされます。
地球全体
異常気象が「より頻繁に広範囲にわたり、いっそう激しく」起こります。一・五―二・五度の気温上昇で全生物種の20―30%が消滅する恐れがあります。
また水不足や食料難から膨大な数の人々が飢餓や栄養不良に直面し、「気候難民」として移住せざるをえなくなることも容易に想像できます。
今年は重要な年
一九八八年に創立されたIPCCは九〇年に第一次報告書を発表しました。九二年には「気候変動に関する国連枠組み条約」が作成されました(九四年発効)。九七年には同条約に基づき温暖化を引き起こす温室効果ガス(二酸化炭素など)の排出量を先進国で二〇〇八―一二年までに5%削減(九〇年比)することを義務付けた京都議定書が採択されました。
しかし全世界の排出量の四分の一を占める「最大の汚染国家」米国が京都議定書から離脱し、効果を弱めました。
九〇年比で温室効果ガス排出量の7・4%削減(〇六年)を実現している環境先進国の欧州連合(EU)を別にして、日本は8・1%増、米国は16%増(いずれも〇五年)と、事態は全体として改善されるどころか悪化しています。
しかし、温暖化の進行についての認識が広がるとともに新しい動きも現れています。財界指導者や政治家、エコノミストを集めた世界経済会議(ダボス・フォーラム)は今年、地球温暖化をテーマにしました。米国内でもゼネラル・エレクトリック(GE)など大企業十社と環境団体が一月、ブッシュ大統領に温室効果ガス対策を求める提言を発表しています。
今年は、京都議定書に基づく削減義務の実行を開始する〇八年を目前に控えた年です。さらに、議定書が対象とする一二年以降の温暖化防止の取り決めについての検討を前進させるべき重要な年となっています。
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