2007年4月13日(金)「しんぶん赤旗」
世界に例がない
米国領内の基地増強費負担
説明不能なら撤回を
与党が十二日の衆院安全保障委員会で採決を強行した在日米軍再編促進法案は、米国領の米軍基地の増強費を日本が負担するという世界に例がない措置を可能にするものです。法案賛成の参考人も「国民の税金にからむことであり、徹底審議を」と求めたのに、その直後の委員会で採決―。審議を打ちきった与党の姿勢は、審議に耐えられない法案であることを浮き彫りにしています。
法的根拠示せず
日米両政府は、在沖縄海兵隊のグアム移転経費として日本側が約七千億円を負担することで合意しています。法案は、これを可能にする仕組みづくりが柱の一つです。
外国領にある外国軍の増強費を負担する、その異常さは、政府の国会答弁でも露呈しました。
日本共産党の赤嶺政賢議員は、沖縄の米軍基地が米軍の占領下で住民から強奪されてつくられたことを指摘。本来、その撤退費は米軍負担が当然で、「撤退費用を負担した例が世界のどこにあるのか」と追及しました。麻生太郎外相は「把握していない」と、世界に例のないことを認めざるをえませんでした。
政府は、費用負担の法的根拠さえ、まともに説明できません。麻生外相は、法的根拠として、安保条約も地位協定も「適用対象ではない」と答弁。尾身幸次財務相も「(国内法上)禁ずる規定がない」としか答弁できませんでした。
重大なのは、米太平洋軍がグアムに、沖縄からだけでなく米本土などから交代配備される部隊から成る旅団規模(約一万人)の部隊を新設する方針を明らかにしていることです。日本側が負担する経費が、こうしたグアムの基地増強につぎ込まれる危険があるのです。
政府側は「太平洋軍限りのもの」(防衛省の大古和雄防衛政策局長)としつつも、グアム増強計画の存在は認めました。
国会質疑の中で際立ったのは、法案を審議する前提として明らかにすべき問題さえ、政府が説明不能に陥ったことです。
たとえば、グアム移転経費約七千億円の積算根拠です。
赤嶺氏が、建設する司令部庁舎や隊舎の戸数、各経費をただしたのに対し、大古局長は「現時点では分からない」「日米間で協議して決める」と述べるだけ。結局、七千億円の積算根拠は「アメリカ側の見積もり」(久間章生防衛相)でしかありません。米国いいなりに、負担だけ押し付けようというものです。
“麻薬とムチ”で
法案のもう一つの柱は、再編計画の対象になっている基地を抱える自治体に、「再編交付金」を交付する制度づくりです。交付金は計画の進ちょくに応じて交付する仕組みで、まさに「地方を金の力でねじ伏せるもの」(赤嶺氏)です。
参考人として意見を述べた沖縄大学の新崎盛暉名誉教授は「(自治体に基地依存を深める)麻薬とムチになりかねない」と批判。同じく参考人の軍事評論家の江畑謙介氏は「目の前にニンジンをつるされて、馬が進まされている感じを受け、あまりいい気持ちがしない」と述べました。
これほどの疑問、批判が突きつけられた法案にもかかわらず、安全保障委員会での審議時間は、わずか十七時間半。自信をもって国民に説明さえできない法案は撤回すべきです。(田中一郎)
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