2007年4月26日(木)「しんぶん赤旗」
集団的自衛権 イラク戦争支援
同盟深化へ危険な手土産
「すきま風」のなか初訪米
安倍首相 きょう出発
安倍晋三首相は二十六日、就任後初の訪米に出発し、二十七日午前(日本時間同日深夜)にワシントン近郊の大統領山荘キャンプデービッドでブッシュ米大統領との会談に臨みます。「従軍慰安婦」問題や北朝鮮への対応で日米間に「すきま風」が吹いていると言われるなか、イラク派兵の継続や憲法が禁じる集団的自衛権の行使「検討」を示すことで打開を図る狙いです。
首相は二十七日午後には次の訪問地・サウジアラビアに出発するので、米国滞在は実質一日半という異例の短さです。日米の「蜜月」ぶりが演出され、訪米中に多くの日程をこなした小泉純一郎前首相時代とは明らかに様相が異なっています。
米国内も反発
「従軍慰安婦募集には狭義の、日本軍による強制を裏付ける証拠はない」(三月五日、参院予算委員会)。安倍首相の答弁に対して、韓国などアジア諸国だけでなく米国内からも反発の声があがり、シーファー駐日米大使も「日米関係に破壊的影響を及ぼす」と述べました。
安倍首相は昨年十月、小泉前首相の靖国神社参拝で関係が冷え込んだ中国、韓国を訪問した成果を携えて今回の訪米を迎えるはずでした。しかし、自らの「従軍慰安婦」発言で「訪米中止の可能性」(加藤紘一自民党元幹事長)もとりざたされるほどになったのです。三日には首相の側からブッシュ大統領に電話をかけ沈静化に努めたものの、「慰安婦」問題を含む歴史認識では本音を隠しません。
「血の同盟」へ
首相は自らの発言で「すきま風」が吹く日米関係の修復へ、「世界とアジアのための日米同盟」路線を示し、さらなる「同盟の深化」を狙い、危険な“手土産”を用意しています。
とりわけ、憲法が禁じている集団的自衛権の行使について、首相が米メディアに「法整備」を表明したことは重大です。米側が強く要請している集団的自衛権の行使への「前向きな検討」(政府高官)を表明することで日米関係の現状を打開しようという意図は明白です。
イラク特措法の二年延長案も訪米直前の二十四日に衆院で審議入りしました。「世界とアジアのための日米同盟」の象徴ともいえるイラク派兵を継続し、イラク戦争の破たんで米国内でも孤立しているブッシュ大統領を支えようという姿勢を示すものです。
集団的自衛権行使の「検討」とイラク派兵を“手土産”とする今回の訪米は、安倍首相の持論である「血の同盟」への一歩といえるものです。(竹下 岳)
「慰安婦」発言 対北朝鮮政策
人権感覚に広がる疑念
安倍晋三首相の初訪米は、首相の「従軍慰安婦」問題での発言で、首相の人権感覚やタカ派政治姿勢への疑念が広がる中で行われます。
米主要マスコミが首相発言にいっせいに非難を浴びせた直後の今月三日、ブッシュ大統領と安倍氏が電話で会談。ブッシュ氏が「今日の日本は第二次大戦時の日本ではないと指摘した」(ホワイトハウス)ことで幕引きをはかろうとしました。「従軍慰安婦」問題は今回の首脳会談では直接取り上げられない見通しです。
疑問は消えず
しかし米側には「慰安婦」問題での安倍氏の対応に、根本的な疑問と不安は消えていません。
米メディアの反応も厳しく、訪米を前に安倍氏は週刊誌『ニューズウィーク』と経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューに応じましたが、それでことが沈静化するかは未知数です。
「慰安婦」問題について日本政府に公式な謝罪を求めるホンダ下院議員(民主党)提出の決議案一二一は、その後も支持表明議員が増え、二十三日現在で八十三人となりました。
二十六日には、国際人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルや在米韓国人組織などで構成する「一二一連合」がホワイトハウス前で、首相に公式の謝罪を求めて集会を予定するなど、安倍氏には厳しい出迎えとなりそうです。
一方、首脳会談で焦点の一つとなる対北朝鮮政策でも、制裁強化を図る日本側と、核開発放棄を粘り強く北朝鮮側に求める米側との対応にずれがみられます。
対話姿勢の米
米側は六カ国協議での合意実現に向け、マカオの金融機関バンコ・デルタ・アジア(BDA)にある資金の凍結解除も認めるなど北朝鮮の要求にも応じ、問題を外交的に解決する姿勢をいっそう強めています。
六カ国協議に参加する北朝鮮以外の五カ国のなかで、日本だけが外交の窓口を欠き、経済制裁強化の方向に突出した構図となっています。
あわせて米国では、拉致問題の解決を最優先する日本政府の方針が、「慰安婦」問題での安倍政権の姿勢と対比させられ、人権問題をめぐる「二枚舌」(米紙ワシントン・ポスト)と指摘される状況があります。
ブッシュ政権は六カ国協議の進展を数少ない外交上の「成果」と自賛しているだけに、今後も対北対話に積極的な対応を続けることは必至。表向き、日米間にそごはないとしつつも、安倍政権が今の立場に固執する限り、矛盾が深まることは避けられません。(ワシントン=山崎伸治)
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