2007年5月4日(金)「しんぶん赤旗」
グローバル化のなか
欧州の労働運動(中)
多国籍巨大労組結成へ
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「グローバルな労働組合運動の時代がやってきた。国境を超えて展開する資本に対して、労働者を保護するために国境を超えた組織戦略が必要となっている」
四月十八日、米国とカナダを基盤にする全米鉄鋼労組(USW 組合員約百二十万人)のジェラード会長が訴えました。
この日、カナダのオタワで、USWに加えて英国とアイルランドの製造業部門労組アミカス(同約百二十万人)と運輸一般労組(T&G 同約八十万人)の代表が、合併のための検討委員会設置を盛り込む協定に調印しました。新たな組合員を含め、欧州と北米にまたがる三百四十万人の巨大労組の結成に向け大きく前進しました。
欧米の労働者は、国境を超えて首切りや労働条件切り下げを進める多国籍企業に対抗して、自らも国境を超えて生活と権利を守る多国籍巨大労組をつくろうとしています。
合併模索に注目
欧米の製造業、金属部門労組の合併の模索が大きく注目されたのは今年になってからです。
アミカスは一月一日、アミカス、T&G、USWの三労組に、ドイツの金属産業労組(IGメタル 同約二百四十万人)、国際機械工労組(IAM 同約七十万人)を加えた五つの労組が、十年以内の合併を視野に入れているとの声明を発表。組合員数六百万人以上の超巨大労組結成に向けた動きとして注目されました。
その一歩として、アミカスとT&Gは三月初め、先行して両組織の合併を決定しました。新労組では、アミカスのシンプソン書記長とT&Gのウッドリー書記長がしばらく共同書記長を務め、二〇一〇年に組合員の投票で新書記長が選出されるといいます。
これに続いたのが、すでに合併が決まったアミカス・T&Gと、USWの再合併への動きでした。オタワで設置が決まった合併検討委員会は今後一年にわたって労組合併のための規則づくりを行い、それを基に合併に進みます。
拡大する影響力
組合員約二百万を擁する英国の新労組の誕生は、さらなる合併に歩みだす前から、巨大労組「スーパー労組」としてメディアの注目を浴び、労使関係だけでなく、英国政治でも影響力を増しつつあります。
合併投票の翌日、英有力紙ガーディアン(三月九日付)は、「スーパー労組がブラウン(英財務相)に変化を要求」の見出しの記事を掲載しました。
記事は、新労組の共同書記長に就任するシンプソン・アミカス書記長が、ブレア英首相の有力後継者であるブラウン財務相に対して、労働者を軽視するブレア流の政治とたもとを分かつよう求めたことを報道。「ブラウン氏が、労働党党員と有権者の労働党離れに何の対処もいらないと考えるのならば、彼は世間を知らないか頭がおかしい」とのシンプソン氏の発言を伝えました。
アミカス、T&Gによる新労組とUSWの合併後にできる巨大労組も、その政治的影響力行使を視野に入れています。調印された文書は、「増大する政治的力を、今日世界中で猛威を振るう破壊的な新自由主義経済・貿易政策に反対することに使う」と述べ、多国籍企業の横暴を後押しする新自由主義政策の転換を求めて運動を強めることを約束しました。
グローバル化に対抗するための労組再編の動きは、欧米だけでなく、世界規模でも急速に進みつつあります。
昨年十一月一日、世界百五十四カ国・地域の三百七のナショナルセンターを結集し、約一億七千万人の組合員を擁する新しい国際労働組織、国際労働組合総連合(ITUC)がオーストリアのウィーンで誕生しました。ITUCは、貧困、飢餓、搾取、抑圧、不平等とたたかい、経済の民主的統治を「国際的行動を通じて」目指すとしています。(ロンドン=岡崎衆史 写真も)(つづく)
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