2007年5月4日(金)「しんぶん赤旗」
安倍内閣の改憲策動の三つの矛盾
憲法改悪反対のたたかいを前進させる新たな条件が広がっている
5・3憲法集会 志位委員長の発言(大要)
日本共産党の志位和夫委員長が三日、東京・日比谷公会堂でおこなった発言(大要)を紹介します。
お集まりのみなさん、こんにちは。日本共産党の志位和夫です(拍手)。きょうは、会場内外にこんなにたくさんのみなさんが足を運んでくださり、感激しております。
憲法改悪への暴走が、新しい矛盾を広げている
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いま安倍晋三首相は、任期中の憲法改定の実現を宣言し、この国会で改憲手続き法案を、なにがなんでも強行しようとするなど、憲法改悪への暴走を始めています。
私は、憲法施行六十周年の記念すべき年にあたって、平和を壊す暴走を食い止め、憲法を守り、生かすために、みなさんとともに力をつくす決意を、まず申し上げたいと思います。(拍手)
いまおこっている危険はたいへん重大です。同時に、私は、安倍内閣になって、憲法問題をめぐって新しい矛盾が広がり、憲法改悪反対のたたかいを前進させる新しい条件が広がっている――ここに注目することが大切だと思います。
きょうは、そのことを、三つの角度からお話ししたいと思います。
「米国と肩を並べて戦争をする」――首相の言動ではっきりした改憲の目的
第一は、なぜいま改憲か、だれのための改憲かが、安倍首相自身の言動によってはっきりとみえてきたということです。
小泉純一郎前首相は、肝心のこの問題をごまかしつづけてきました。私も小泉さんとは何度も討論しましたが、小泉さんがきまっていうセリフは、「憲法を変える目的は、現に存在する自衛隊を憲法に書き込むだけです。海外の戦争など毛頭考えていません」(笑い)。こういってごまかしてきました。
安倍首相はどうでしょうか。彼はかなり正直です。安倍さんが繰り返し語ってきたのは、こういうフレーズです。
「海外での紛争で米国と肩を並べて武力行使をすることは、憲法改定なしにはできない」
「肩を並べてたたかう」というのは、首相が繰り返している大好きなフレーズです。しかしそれは憲法改定なしにはできない。それはいいかえれば、憲法改定の目的が、まさに「米国と肩を並べて戦争をする国」をつくることにあることを、首相自ら宣言するものではないでしょうか。(拍手)
同時に、安倍首相は、明文改憲以前にも、政府の従来の憲法解釈を変えて、「肩を並べてたたかう」方向に、大きく踏み出そうとしています。
「イラクで活動している自衛隊が、いっしょに活動している他国の軍隊にたいする攻撃があったときに応戦することは、いまの憲法のもとでも認められていいのではないか」――安倍首相はこのようにのべました。
首相の意をうけて集団的自衛権を「研究」する「有識者懇談会」なるものがつくられました。政府が「有識者」といった場合は、だいたいがあやしい(笑い)。「懇談会」のなかには、憲法のまともな「有識者」とよべる人は一人もいません(拍手)。「結論先にありき」の“御用会議”を道具にして、集団的自衛権の行使に道を開くことを絶対に許してはなりません。(拍手)
小泉前首相は、イラク派兵法をつくり自衛隊派兵を強行しました。しかし、「戦闘地域には行かない」「武力の行使はしない」「後ろで水をまいているだけだ」(笑い)など、たくさんの制約があると弁明しました。
安倍首相は、まず憲法解釈を変え、これらの制約を取り払い、派兵から参戦に大きく踏み出そうとしています。ひらたく言えば、これまでは自衛隊は一発も鉄砲の弾を撃ってはこなかったが、これからは撃てるようにしようということです。さらに憲法そのものを変え、「米国と肩を並べて戦争をする国」をつくる。こうして二段階で憲法九条を破壊しようというのが安倍改憲のシナリオですが、こんな危険なシナリオは、国民のだれもが望んでいません。(拍手)
「肩を並べて」というと、いかにも日米が「対等」になるかのようです。しかし、このシナリオを書いたのは、アーミテージ元米国務副長官など米国です。そして参戦することが想定されている戦争とは、イラク型の先制攻撃の戦争です。
米国の要求に屈従して、無法な戦争に参戦するために、私たちの宝――憲法九条を売り渡す。これは最悪の売国政治といわなければなりません。(拍手)
改憲推進の中心に、過去の戦争を正当化する「靖国」派がすわった
第二は、安倍内閣の新しい特徴は、憲法改悪を推進する中心に、過去の侵略戦争を正当化する勢力――「靖国」派がすわったということです。
安倍内閣の閣僚名簿を見てください。改憲・右翼団体の総本山となっている「日本会議」の関連団体(日本会議国会議員懇談会、神道政治連盟国会議員懇談会、日本の前途と歴史教育を考える議員の会、みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会)など、「靖国」派の諸団体に参加している閣僚が、安倍首相を筆頭に、十八人中十五人を占めています。「ナントカ還元水」の大臣も(笑い)、「女性は子どもを産む機械」発言の大臣も、みんな「靖国」派の同志たちです。
「日本会議」とはどんな団体でしょうか。ホームページを見ますと、一九九七年の「設立大会」で、「美しい日本を再建し誇りある国づくりを目指した新しい国民運動」として発足したとあります。「美しい日本」――どこかで聞いた言葉ですね。(笑い)
二〇〇二年の「設立五周年記念大会」では、つぎの四項目の決議をあげています。
「一、我々は、国会が速やかに憲法改正の発議に踏み切るよう強く働きかける。
一、我々は、わが国の歴史・伝統を基調とする、教育基本法の全面的改正を求める。
一、我々は、靖国神社を蔑(ないがし)ろにする国立追悼施設計画を阻止し、首相の靖国神社参拝の定着化を求める。
一、我々は、崩壊しつつある家族と地域社会の再生をめざし、道徳心涵養(かんよう)の国民運動に取り組む」
「日本会議」とは、こういう団体です。
「美しい国」「戦後レジームからの脱却」――戦前的な体制への逆行
安倍首相がいう「美しい国」のルーツがはっきりみえてきました。それは、改憲・右翼団体「日本会議」が十年前の「設立大会」で掲げた「美しい国の再建」、ここにありました。(どよめき)
しかも「再建」となれば、かつてあった体制の「再建」になるでしょう。こうなると安倍首相が叫ぶ「戦後レジームからの脱却」というスローガンの意味するところもみえてくるではありませんか。それは戦後、日本国憲法が規定した平和的・民主的な体制から「脱却」し、戦前的な体制――侵略戦争、軍国主義の体制への回帰をめざす時代逆行のスローガンではないのか(拍手)。そのどこが「美しい国」なのか。軍事国家、強権国家――「恐ろしい国」づくりではないのか(拍手)。その正体がはっきりみえたではありませんか。(拍手)
安倍首相は、国会の場で、私たちの追及にたいして、「村山談話」「河野談話」を継承するとのべました。しかし地金が出てくるのです。とりわけ、「従軍慰安婦」問題についての「強制連行の証拠はない」との妄言は、世界のきびしい批判を集めました。これは、ブッシュ米大統領に「お詫(わ)び」をいっても解決する話ではありません。「お詫び」というなら元「慰安婦」の方々にこそ詫びるべきではないでしょうか(拍手)。そしてほんとうに「お詫び」するというなら、「強制連行はなかった」という自らの妄言を撤回すべきだと私はいいたい。(拍手)
侵略戦争と軍国主義に反省のない勢力が、憲法を変えて、海外に打って出る。こんな恐ろしいことはありません。同時に、ここに安倍改憲論の新しい深刻な矛盾があります。こんな道は、良識ある日本国民はもとより、世界とアジアの諸国民もけっして認めないと、私は確信するものです。(拍手)
国民の心まで支配――「靖国」派が押し付けようという「道徳」とは何か
第三に、「海外で戦争をする国」をつくるためには、それを支える国民をつくる必要があります。端的にいえば、国民の心の中まで支配していくことが必要になってくる。安倍内閣が教育基本法改悪を強行し、その具体化に熱中している動機の一つもここにあります。
こうした動きへの警戒警報は、メディアでも発せられています。東京新聞の二日付社説では、「新教育基本法に盛り込まれた愛国心育成、教育に対する国家の関与強化、道徳の教科化…権力が個人の内面まで踏み込んでもいいとする姿勢が、安倍内閣になってからますます鮮明になってきました」と警鐘を鳴らしています。
それでは、「靖国」派が押し付けようとしている「道徳」とは、どのようなものでしょうか。
また「日本会議」に登場してもらいますが(笑い)、「日本会議のめざすもの」では、「日本の感性をはぐくむ教育の創造を」という項で、こういっています。
「行きすぎた権利偏重の教育、わが国の歴史をあしざまに断罪する自虐的な歴史教育、ジェンダーフリー教育の横行は、次代をになう子供達のみずみずしい感性をマヒさせ、国への誇りや責任感を奪っています」
それにつづけて、「国を愛し、公共につくす精神の育成」が必要だと訴えています。
ここで「権利偏重」とののしられているのは、国民が人権や権利をまっとうに主張することそのものです。
ここで「自虐的」と断罪されているのは、侵略戦争や植民地支配の誤りに真摯(しんし)に向き合って反省することです。
さらに「靖国」派は、男女平等を社会のすみずみにつらぬくことを「ジェンダーフリー」と敵視します。「新しい歴史教科書をつくる会」の会長を務めてきた人物は、男女共学まで敵視し、こうのべています。
「男の子が萎縮して気力のない子が増えるのは、男女共学が続きすぎるからであって(どよめき)、男女別学にすると男の子は男の子らしくなるし(どよめき)、女の子は女の子の特徴をより強く持つようになるだろうと思います」(どよめき)
改悪前の教育基本法は、第五条「男女共学」にこう明記していました。
「男女は、互に敬重し、協力し合わなければならないものであって、教育上男女の共学は、認められなければならない」
教育基本法改悪のさいに、この条文が全文削除されたのは、けっして偶然ではありません。ここにも「靖国」派の意向がはたらいていることを、私はきびしく糾弾しなければなりません。(拍手)
人権の尊さを否定し、侵略戦争への反省を否定し、男女平等を否定する――これが「靖国」派が国民に押し付けようとしている「道徳」の中身であります。
「海外で戦争をする国」をつくるために、国民の心の中にまで土足で踏み込み、国民の心を「改造」しようとする邪悪なたくらみを、断固として打ち破ろうではありませんか。(拍手)
草の根からのたたかいが、世論を動かしている
安倍内閣が、憲法改悪への暴走を始めた危険は、いささかも軽視できません。同時に、この暴走は、国民との矛盾、世界との矛盾を、劇的に広げつつあります。その危険な正体を広く国民に明らかにするならば、国民の圧倒的多数は、憲法九条を守れ、憲法改悪に反対の声をあげると、私は確信するものです。(拍手)
「読売」の世論調査では、「九条改定に反対」の声が二年連続で増え、56%と過半数に達しました(拍手)。「九条の会」の広がりなど草の根からの国民の運動が、世論を動かしつつあります。
改憲手続き法案を廃案にするための直面するたたかいに力をつくしながら、憲法改悪反対のゆるぎない国民的多数派をつくるためにともに力を合わせようではありませんか。(大きな拍手)
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