2007年5月5日(土)「しんぶん赤旗」

在日米軍再編 「最終報告」1年

進む基地強化 広がる矛盾

選挙に反映 住民の怒り


 「再編を着実に進めていく」―。昨年五月一日の在日米軍再編「最終報告」から一年を経て、日米両政府は四月二十七日の首脳会談や一日の日米安保協議委員会(2プラス2)で再編の推進を再確認しました。一方、基地強化を強いられる自治体・住民との矛盾も強まっています。(竹下 岳)


 米軍再編「最終報告」は、人口密集地の米軍基地を別の地域に移すことで、「地元による負担を軽減しつつ(米軍の)抑止力を維持する」という方針を掲げています。しかし、この一年で“軽減”どころか、基地強化先にありきの実態が鮮明になってきました。

名護新基地

「環境アセス」今月にも狙う

 「最終報告」は、米海兵隊普天間基地(沖縄県宜野湾市)に代わる、V字形滑走路の新基地を米海兵隊キャンプ・シュワブ(同県名護市)沿岸部に建設する計画を明記。2プラス2の共同文書では、新基地建設が沖縄における再編の「鍵」だと位置づけました。

 日本政府は二〇一四年の完成を前提に、五月中にも建設予定区域の環境アセスメントを計画。すでに、事実上の事前調査といえる「シュワブ水域環境現況調査」を四月下旬に実施し、県民の抗議を呼びました。

 沖縄県には在日米軍基地の75%が集中していますが、いずれも米軍や旧日本軍が建設したもの。前例のない、日本政府による新基地建設に県民の大多数が反対しています。

 新基地計画を押しつけたい久間章生防衛相や沖縄県の仲井真弘多知事は、わずかな「修正」を画策してきました。しかし、ゲーツ米国防長官は四月三十日の日米防衛首脳会談で、「昨年五月の合意通り実現することが重要だ」と拒否し、計画通りの建設を迫る強硬姿勢を示しました。

嘉手納基地

F22猛訓練で爆音は減らず

 年間七万回の飛行回数で、国内最悪の爆音被害をもたらしている沖縄県の米空軍嘉手納基地。「最終報告」では、同基地に常駐するF15戦闘機の訓練の本土移転が盛り込まれ、三月に航空自衛隊築城基地(福岡県)で訓練が強行されました。

 しかし、爆音被害はまったく減らないばかりか、二月に配備された米空軍の最新鋭機・F22ステルス戦闘機十二機が、猛訓練で爆音をまき散らしています。同機を運用する米空軍第二七遠征戦闘中隊のトリバー中佐は四月二十七日の記者会見で、「五百八十回の飛行回数を達成した。短期間では特筆すべき飛行回数だ」と誇り、県民の強い反発をかっています。

グアム「移転」

「返還」計画も大幅に遅れ

 「最終報告」では、沖縄の米海兵隊八千人を米領グアムに「移転」し、「移転」費用のうち約六十一億ドル(約七千三百二十億円)を日本側が負担することで合意しました。歴史的にも国際的にも前例のない、米領土への基地建設費用の負担を可能にするための「米軍再編促進法案」が現在、参院で審議中です。

 四月二十四日の米上院軍事委員会で米太平洋軍のキーティング司令官は日米同盟の最重要課題の一つとして、「沖縄の米海兵隊八千人のグアム移転」を挙げました。すでに米政府は四月、グアム住民に、海兵隊「移転」に伴う環境アセスメントの第一段階となる「計画通知」を行っています。

 「最終報告」は、グアムや名護への海兵隊「移転」に伴い、嘉手納基地以南の六つの基地を、沖縄県内への移設条件付きで返還することを明記。今年三月までに、「詳細な(返還)計画を作成する」予定でした。

 しかし、米軍は内部の調整が遅れているとして、グアム増強計画をいまだに提示せず、「返還」計画の公表も大幅に遅れることになっています。

 そもそも、「八千人移転」とはいうものの、実際には二千―三千人しか移転しない見通しで、仮に計画通りに進んでも、実戦部隊は残り、「負担軽減」にはなりません。

日本政府

補助金エサに自治体に圧力

 政府は補助金などをちらつかせ、再編計画に反対する自治体に圧力をかけてきました。米原子力空母配備を容認した神奈川県横須賀市など、住民の声を裏切って屈服した自治体もありますが、政府の手法への批判も強まっています。

 普天間基地を抱える宜野湾市の市長選(四月二十二日)では、同基地の即時閉鎖・撤去、県内移設反対を訴えた伊波洋一市長が、大差で再選を果たしました。

 また、同八日には、米海兵隊岩国基地を抱える山口県岩国市で、「米空母艦載機移転ノー」を掲げた日本共産党の久米慶典氏が県議選で返り咲く一方、移転推進派の二人の自民党候補が落選しました。

 「最終報告」では、米海軍厚木基地(神奈川県)に常駐する米空母艦載機部隊を岩国に移転すると明記。岩国は百三十機以上が常駐することになります。

 「移転反対」を掲げる岩国市に対して、政府は市庁舎建設の補助金をカットするなど、露骨な圧力を加えてきました。これらに対する住民の怒りが選挙結果にもつながりました。

 〇八年に米陸軍戦闘司令部の創設が計画されている米陸軍キャンプ座間。同基地を抱える神奈川県座間市議会で二月二十三日、「米軍再編促進法案」への意見書が可決されました。

 意見書は、同法案のうち、各自治体の米軍再編への協力度に応じて交付する「再編交付金」について、「米軍再編の影響を受ける地方自治体を『交付金』によって賛成へと誘導させようとするもの。こうした手法に大きな怒りと疑義を禁じ得ない」と批判しています。

 米軍再編計画の「個別の再編案は統一的なパッケージとなっている」(最終報告)ことから、政府内には、「一つが崩れれば全体が崩れる」との危機感があります。

 米軍再編の大本にあるブッシュ米政権の「対テロ」先制攻撃戦略もイラクに象徴されるように完全に破たんしました。

 「米軍再編へのモチベーションが政府内で低下している。このままでは何年たってもこう着状態が続く」(外務省筋)との“懸念”があります。2プラス2で米軍再編合意を全面的に検証し、「再編案を着実に実施する決意を再確認」したのもこのためです。しかし、自治体・住民との矛盾は深まらざるをえません。

表

「在日米軍再編」とは

 ブッシュ米政権は地球規模での軍事行動を効率的に行うため、「米軍の機動性」「同盟国との軍事一体化」を二本柱とする米軍の変革・再編を進めています。在日米軍再編もその一つで、米軍の世界戦略に自衛隊を深く組み込むものです。

 日米両政府は昨年五月までに、(1)共通の戦略目標(2)役割・任務・能力(3)再編実施のためのロードマップ(工程表)―の三段階で合意。二〇一四年の完了を目指しています。また、再編実施での日本側負担は約三兆円とされています。

 具体的には、(1)沖縄・名護の新基地建設(2)グアムへの米海兵隊八千人「移転」(3)米空母艦載機部隊の岩国基地移転(4)キャンプ座間への陸軍戦闘司令部創設(5)「ミサイル防衛」部隊の配備―といった米軍基地・部隊再編があります。

 さらに、日米軍事一体化を強めるため、(1)陸自中央即応集団司令部のキャンプ座間移転、空自航空総隊司令部の横田基地移転など米軍・自衛隊の司令部レベルでの融合・一体化(2)軍事情報の共有(3)共同演習の拡大(4)民間空港・港湾の軍事利用の拡大―などの項目があります。



■関連キーワード

もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp