2007年5月6日(日)「しんぶん赤旗」
温暖化緩和
世界GDPの3%未満で可能
IPCC部会報告 国際交渉に影響か
バンコクで開かれていた国連「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)第三作業部会は四日、地球温暖化緩和の対策に関する報告を採択しました。報告は、温暖化を許容範囲の気温二度上昇で食い止めるには、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を二〇五〇年までに半減する必要があるが、それにかかる経費は世界の国内総生産(GDP)の3%未満で済むと指摘しています。
今回の報告は、IPCCが今年発表してきた報告の最後にあたります。第一作業部会は二月に温暖化の実態についての報告を出し、第二作業部会は四月に温暖化の影響についての報告をまとめました。第三作業部会は温暖化を緩和、防止する対策を検討してきました。
今回の報告で注目されるのは、温室効果ガス削減にかかる経費を示した点です。それによれば、二〇三〇年の温室効果ガス濃度を、現状をやや上回る四四五―五三五ppmに安定化させるための経費は、同年時点で世界のGDPの3%未満だとしています。
この水準で安定化させることができれば、温室効果ガス排出量は二〇〇〇年から二〇年の間にピークを迎えた後、減少に転じ、五〇年時点での排出量は二〇〇〇年比で30―85%減少すると推定されています。この程度であれば、産業革命前と比べた温度上昇を二―二・八度に抑えることができます。第二作業部会報告は、人類にとって許容範囲の温度上昇は二・六―三・六度だとしています。
足ひっぱる米 迎合する日本
温暖化防止は、京都議定書に基づく第一約束期間(削減目標達成期間)が来年から始まり、一二年まで続きます。同時に一三年以降の削減対策の枠組み作りを進める必要があります。
京都議定書の削減目標は一九九〇年比で6%にすぎません。今回の報告が示したような「二〇〇〇年比50%削減」に比べ、極めて限定的です。にもかかわらず最大の排出国の米国のブッシュ政権は、自国経済に損害を与えるとして議定書から離脱しました。これが、削減枠組みへの発展途上国の参加の足を引っ張る要因ともなっています。
米国は一三年以降の枠組みについても、「拘束力のある削減目標」を決める京都議定書のようなものではなく、各国の自発性に任せようとしています。日本は議定書の議長国であるにもかかわらず、安倍首相は先の訪米で、米国の議定書離脱を免罪し、一三年以降の対策についても米国に迎合し、自発性に任せ、原発増設で決着する方向をめざしています。
しかし今回の報告は、膨大な経済的負担なしに大幅削減が可能であることを、科学者の立場から示しました。温暖化防止をめぐる今後の国際交渉にどう影響するかに関心が集まっています。(坂口明)
IPCC第3作業部会報告(要旨)
四日、バンコクで採択された地球温暖化緩和の対策に関する国連「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)第三作業部会の報告の要旨は次の通りです。
温室効果ガス排出のすう勢
一、温室効果ガス排出は産業革命以前から増大し、一九七〇年から二〇〇四年の間に70%増加した。
一、〇四年に先進国は、世界人口の20%、世界の国内総生産(GDP)の57%、温室効果ガス排出量の46%を占める。
一、気候変動緩和策をとらなければ、世界の温室効果ガス排出量は二〇〇〇年から三〇年までの間に25―90%増加する。
三〇年までの短期・中期的緩和策
一、技術開発などの対策にガス一トンあたり百ドルを費やすなら、三〇年には温室効果ガスを現在の水準以下に削減できる。
一、三〇年にガス濃度を四四五―七一〇ppmに安定化させるための経費は、世界のGDPの3%未満と推定される(現状は約四〇〇ppm)。
一、ライフスタイルの変更は、気候変動の緩和に貢献しうる。
一、温室効果ガス排出削減による大気汚染の減少は健康によい影響を与え、温室効果ガス排出削減の経費を相殺する。
一、再生可能エネルギー、ハイブリッド車、バイオ燃料、省エネ製品などの技術は、排出削減の大きな可能性をもつ。
一、原子力発電は〇五年の電力供給の16%を占め、三〇年には18%になりうる。しかし、安全、兵器拡散、廃棄物といった制約がある。
三〇年以降の長期的な緩和策
一、五〇年にガス濃度を四四五―七一〇ppmに安定化させるための経費は、世界のGDPを1%増加させるか5・5%低下させるまでの幅がある。
気候変動を緩和させる政策、措置
一、削減を促進する政策には、排出の規制、税金・課徴金、排出権取引、政府と産業界による自発的協定の締結などがある。自発的協定の多くは大幅削減を達成していない。
一、気候変動枠組み条約と京都議定書の注目すべき成果は、気候問題への世界的な対応をもたらし、各国の政策を奨励したことだ。
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