2007年5月11日(金)「しんぶん赤旗」
どうみる安倍改憲論と歴史観
CS放送 志位委員長が語る
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日本共産党の志位和夫委員長は八日放映のCS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演し、安倍晋三首相の靖国神社への供物問題や憲法をめぐる問題、首相の歴史観などについて質問に答えました。聞き手は、朝日新聞の坪井ゆづる論説委員。
供物奉納――靖国神社の立場を公的に肯定する重大問題
――安倍首相が靖国神社に五万円の供物を奉納したことについてどうみていますか。
志位 首相として靖国神社に供物をささげたとなれば、靖国神社の政治的・思想的な立場を政府として肯定する行為になります。非常に重大です。
靖国神社は、過去の日本の戦争が「自存自衛」「アジア解放の聖戦」だったとの立場から、戦争を全面的に美化し、宣伝することを使命としています。ここに靖国問題の一番の核心があります。そこに首相が参拝したら、その神社の立場に政府としてのお墨付きを与えることになると、私たちは批判してきましたが、参拝でなくても、供物を出す行為は、同じ意味を持ってくる。非常に重大であり、強く抗議したいと思います。
――中国との関係では。
志位 「歴史を直視」し、「政治的障害を克服」して、「戦略的な互恵関係を結ぶ」という日中首脳会談での約束に照らしても、それに反する流れです。
なによりも、安倍首相は、私たちの国会での追及に、「村山談話」「河野談話」を継承するといいました。それに矛盾する行動です。
安倍改憲論――世界の流れに二重に逆行
――安倍首相のもとでの改憲に警戒感が広がっている感じはありますね。
志位 そうですね。「美しい国」というスローガンはどこからきたのかを調べてみましたら、改憲・右翼団体「日本会議」が一九九七年に設立された折のスローガンなんですね。「美しい日本を再建」することを目指すとあります。「再建」となれば、「美しい国」がかつてあったことになる。安倍首相のいう「戦後レジーム(体制)からの脱却」とは、戦前・戦中の体制に回帰していくことで、これがよくみえてきました。
そういう点では、安倍首相の改憲論は、アメリカに追随したイラク型の無法な先制攻撃戦争への参戦と同時に、戦前型体制への回帰という二重の意味で、世界の流れに逆らう道だということがたいへん明りょうになってきたと思います。
歴史認識の問題――二人の首相と論戦して
――「戦後体制」といえば、米軍基地が沖縄にあれだけあるのも戦後体制ですがね。
志位 そうですね。でも、首相はそちらの方は問題にしないわけですね。
歴史認識の問題でいいますと、小泉純一郎前首相と安倍首相とがどこが違うのかあらためて考えてみました。
――どういうことになりますか。
志位 私は国会で、両方の首相と論戦しましたが、小泉さんの場合は、五年連続靖国参拝という大変な汚点を残したわけですが、彼の歴史観はといえば、侵略戦争を「正しい戦争だった」とする「靖国」派の歴史観を公然と語ったことはあまりないわけです。逆に、私との論戦で、小泉さんは「靖国神社の考えと政府の立場は違う」といいました。小泉さんは、行動では「靖国」派そのものでしたが、内心は確固たる「靖国」派の歴史観をもって行動したわけでは必ずしもないのではないか。
安倍首相はどうか。彼は内心では「靖国」派そのものなのです。彼は国会議員になった一九九三年以降、「靖国」派に身を置いた政治活動をしてきました。一九九五年の「戦後五十年決議」の際にも、「反省」とはいえない決議でしたが、その決議さえ認められないという議員連盟をつくり要職を占めたわけです。一九九七年には「従軍慰安婦」問題の歴史教科書の記述をやり玉にあげた「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」の中心人物にもなりました。
私は昨年十月に、安倍首相に、「靖国神社の歴史観と首相の歴史観とは同じなのか」と、その是非を聞きました。首相は「歴史認識を語ることには謙虚でなければならない」として、答えませんでした。「違う」とはいわないわけです。この彼の「内心」が、今度の供物の問題でもあらわれたと思います。
「靖国」派内閣の改憲暴走に広がる警戒感
――靖国神社的な考えで改憲することに国民がついていくのかと思いますね。
志位 それが「朝日」の世論調査にあらわれたと思いますね。一般的に改憲の是非を問われれば賛成という人も含め、国民の多数が安倍政権のもとでの改憲は困ると言っている。これは大事なことだと思います。
いろいろな世論調査全体をみても、護憲が増えている流れがあります。それにくわえて安倍内閣での改憲はとくに危ないと思っている方が増えていることは決して偶然ではないと思います。
――首相は参院選の争点に憲法改正を掲げるといっています。
志位 その危険性を正面からついた論戦を大いに展開していきたいと思います。
アメリカに追随して海外の戦争に参加する一方で、戦前への回帰をめざすという安倍首相の路線は、アメリカとの関係でも複雑な矛盾をひきおこし、改憲派の内部にも亀裂をひきおこす可能性をはらんでいます。
興味深く読んだのは、米国のネオコン(新保守主義)派のイデオローグの一人といわれた政治学者・フランシス・フクヤマ氏が最近の論考で、“靖国史観のような新手のナショナリズムの考えを抱いたまま、日本が憲法九条をかえたとしたら、アジアでの孤立を深めることになりかねない。アメリカは慎重に検討したほうがよい”と指摘していることです。
そういう矛盾も出てくるのです。全体としてはアメリカからの強い圧力で改憲の流れができているけれども、そのアメリカとの関係でも矛盾が生まれうる動きなのですね。
憲法改悪に反対するゆるぎない国民的多数派を
――国会では改憲手続き法案が成立しそうですが。
志位 最後まで廃案のために力を尽くしたいと思います。最低投票率規定を設けないことや、教員と公務員の運動制限など、法案の骨格部分で提案者が回答できないところまで追い込んでいますから、大いに最後まで力を尽くしたい。
ただ、どんな帰すうになろうと、最後に決めるのは国民です。国民の多数がノーと言えば改憲はできない。そこで揺るがない多数派をつくれば、どんな仕掛けをつくろうとも、これを打ち破ることはできます。
――九条改憲についていえば、昔の日本に戻りましょうとなれば、国民はノーでしょう。
志位 その通りです。私たちが「靖国」派と呼んでいる「日本会議」を中心とするグループの考えは、過去の侵略戦争と植民地支配が正しかったというだけではなく、それをすすめた国が「美しい国」だった――その国家体制、政治体制の全体にあこがれ、美化していこうという流れです。それを公然と掲げている。ですから、「美しい国」とは、こういう「恐ろしい国」だということを、広く国民に知っていただくならば、必ず国民はノーの声をあげると思う。
――どれくらい受け止められるでしょうか。
志位 いま「靖国」派で固められた内閣がやっていることをみましても、全部それと符合するわけです。
たとえば「日本会議」が目のかたきにするのは、男女共同参画基本法です。「日本会議」がさかんにやりはじめているのは、男女共同参画基本法を廃止しようということです。そのもとで、民法の再婚禁止規定の見直し問題でも、これは両性の平等の見地からみたら当然の法改正論議なのに、安倍内閣は抑えてしまう。歴史教育問題では、「従軍慰安婦」の記述を削除し、縄文時代を教えなくなるなどの、歴史のわい曲がいろいろな形で始まっている。「日の丸・君が代」の強制も同じだと思います。
――なるほど。ありがとうございました。
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