2007年5月19日(土)「しんぶん赤旗」
主張
靖国DVD
教育への持ち込みを許さない
文部科学省の委託事業として、改憲をかかげる日本青年会議所作製のアニメ(DVD)をつかう「近現代史教育プログラム」が各地の中学校などで行われようとしていることが発覚しました。石井郁子衆院議員が十七日、国会質問で明らかにしたものです。
文科相は「使わない」
アニメのストーリーは、若くして戦死した靖国の「英霊」が現代にあらわれ、自分の子孫である女子高校生に「一緒に靖国神社に行ってみない?」と誘い、日本の戦争は「自衛のための戦争」「アジアの人々を白人から解放」するための戦争だったと語りかけるものです。
加害の事実には触れず、日本がアジア諸国を助けたと描き、日本人の戦争への反省は「GHQによる洗脳」の結果と説明します。DVDには二人の主人公と靖国神社が印刷され、まさに靖国DVDです。伊吹文部科学相は「私が校長なら使わない」と答弁せざるを得ませんでした。
しかも、この事業はただのビデオ上映にとどまりません。アニメを見たあと生徒にグループ討論をおこなわせ、そこに靖国史観のテキストで研修したおとなたちが加わるようになっています。手引書には論点のポイントが書かれ、自分たちを「先生と呼ばせる」などのノウハウまであります。洗脳を思わせるやり方です。
日本共産党は、政府にこの事業の認可を取り消すことを強く求めるとともに、国民のみなさんと力をあわせて、靖国史観の教育を許さないために立ち上がるものです。
日本やドイツがおこした戦争は不正義の侵略戦争であった―。この認識は戦後の国際政治の出発点です。日本もそのことを認めて国際社会に仲間入りしました。
戦後五十年のいわゆる村山談話は、「植民地支配と侵略」によるアジアへの「多大の損害と苦痛」への「痛切な反省」を表明しています。教育については、「アジアの国々の国民に多大な苦痛と損害を与えたことを深く自覚し、このようなことを二度と繰り返してはならないとの反省と決意」が「学校教育にあたって…当然、尊重されるべき」だという一九八二年の官房長官談話があります。
こうした世界と日本の根本原則からいって、今回発覚した靖国DVDが公教育で使われることは、あってはならないことです。
今回の出来事は偶然ではありません。DVDは、安倍首相が昨冬、「美しい国」で意気投合する青年会議所会頭との会談で手渡され、「教育再生の参考にしたい」と述べていました。
安倍政権の中枢は、靖国史観を本音とする閣僚で占められています。その政権が「戦後レジームからの脱却」といって改憲をすすめようとしています。脱却とは戦前体制への回帰にほかなりません。そのもとで国民の心まで支配しようという動きがつよまっているのです。
教育3法改悪案は廃案に
「教育三法案」に「愛国心」などの育成がもりこまれているのはその一環です。私たちは市民道徳を重視する立場から、あれこれの「徳目」を立法化することを批判してきました。ときどきの政権の「特定の価値観」を押し付けることは、憲法の「内心の自由」に反するからです。
今や「特定の価値観」が靖国派の価値観であることは明らかです。ここに「教育三法案」の重大問題があります。法案は衆院で可決され情勢は緊迫しています。日本共産党は参議院で徹底審議・廃案にするために全力をつくします。
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