2007年5月27日(日)「しんぶん赤旗」
“靖国DVD”ここが問題
石井議員の質問から
“靖国DVD”を学校に持ち込む教育事業を追及した日本共産党の石井郁子議員の質問(十七日の衆院教育再生特別委員会)が大きな反響を呼んでいます。石井氏は何を問うたのか、ポイントを紹介します。
石井氏は、日本青年会議所によるアニメーションDVD「誇り」を使った教育事業を、文科省が「新教育システム開発プログラム」に採用し、委託事業としていることを告発しました。
同プログラムは、二〇〇六年四月から実施。〇七年度は七十六件が採択されました。委託額の上限は百三十五万円です。
文科省お墨付き
日本青年会議所はホームページで、国の“お墨付き”を大宣伝してこう述べています。「この認可を契機に、全国の青年会議所メンバーが積極的にこれらのプログラムを実践していただき、市民意識変革へ邁進(まいしん)されますことを心より願います」
二月から全国九十三カ所で、同教育プログラムが実施、または予定されています。
首相と会頭対談
石井氏は、このDVD「誇り」を手に、安倍晋三首相に問いました。
石井 この「誇り」というDVDはご存じですか。
首相 存じ上げているが、まだ見ていない。
石井 昨年末に、青年会議所会頭と対談し、そこでDVDを渡され、「ぜひ教育再生の参考にしたい」といったと思いますが。
首相 よく覚えていない。
「それはおかしい」として石井氏が取り出したのが、日本青年会議所の雑誌『We Believe』〇六年十二月号。「誇りある日本国を創るために」と題して、安倍首相と池田佳隆青年会議所会頭(当時)が対談しています。
「池田 この教材DVDを安倍総理に贈らせていただきたいと思います。
安倍 教育再生の参考にぜひ拝見させていただきましょう。
池田 お時間の許す限り観ていただいて、美しい国づくりに生かしていただければ幸いです」
しっかり雑誌に書かれているのです。
村山談話の否定
石井氏は、DVDのあらすじを紹介し、「アニメを使って、子どもの心にすっと特異な戦争観が入っていく。靖国神社の戦争観を子どもに刷り込むための教育プログラムだ」「“靖国DVD”と言わなければならない」と追及しました。
安倍首相は「共産党の視点から評価されている」と問題をすり替えようとしました。
これに対し、石井氏は「日本共産党の視点というのは心外だ。とんでもない」と反論。「あの戦争を、『自衛のための戦争』『アジア解放のための戦争』、こういう考えでいいのかと言っているだけだ」と追及しました。
石井氏は、過去の戦争への反省とおわびを述べた一九九五年の「村山談話」を取り上げ、「私の言っていることは村山談話そのものだ。安倍首相は村山談話を継承すると表明しているはずだ」と指摘。「このDVDを使った教育プログラムを文科省事業として普及することは、政府の立場と相いれない」とただしました。
「いろいろな立場がある。私は自分の目で確かめていないから、なんとも言えない」と安倍首相は逃げの答弁に終始しました。
「私なら使わぬ」
「日本の政府は、過去の日本とアジアの問題について、学校教育でどう取り組むかの基準を持っている」
こう述べて、石井氏は一九八二年の「官房長官談話」を読み上げました。同談話は、過去の戦争の反省の上に立って、学校教育、教科書の検定にあたっても、その精神を尊重するというもの。石井氏は「この政府の立場に照らしても成り立たない」と指摘しました。
伊吹文明文部科学相は「教材として使う、使わないは各学校の判断だ。私が校長であれば使わない」と述べました。
最後に石井氏は「安倍内閣がいま国家主導で教育に介入し、押し付けようとしている中身は、この“靖国DVD”にあるような戦争観が中心ではないか」と批判しました。
“靖国DVD”のあらすじ
女子高校生が、過去から来た青年と出会い、靖国神社に行って日本の戦争の話を聞きます。
青年は「愛する自分の国を守りたい、そしてアジアの人々を白人から解放したい。日本のたたかいには、いつも、その気持ちが根底にあった」と語り、日中・対米戦争を自衛の戦争、アジア解放の戦争だったと弁護します。
朝鮮半島や台湾に対する日本の植民地支配についても、「近代化のため道路や学校を造った」というだけで創氏改名や「従軍慰安婦」の強制連行など、加害の事実は触れていません。
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