2007年5月27日(日)「しんぶん赤旗」
政府の規制改革会議意見書
労働ルール破壊底なし
身勝手な言い分次々
「労働法制は労働者保護の色彩が強い」「法違反が起きるのは法律が悪いからだ」。政府の規制改革会議が、こんな理屈で労働分野のルールをなくせと求める意見書を出しました。法律の順守など最低限の使用者責任さえわきまえない無法な主張は、すべての労働者、国民に対する挑戦です。(深山直人)
「脱格差と活力をもたらす労働市場へ―労働法制の抜本的見直しを」と題する意見書は、「労働者の権利を強めればその労働者の保護が図られるという考えは誤っている」として、身勝手な言い分を並べ立てています。
最低賃金引き上げ反対
《最低賃金の引き上げは、賃金に見合う生産性を発揮できない労働者の失業をもたらす》
地域別最賃の時間額は全国平均で六百七十三円。月にすると十二万円足らずにしかなりません。
ワーキングプア(働く貧困層)が広がるなか、必要な生計費を保障する最低賃金の大幅引き上げは急務です。失業が嫌なら低賃金で我慢せよという理屈は通りません。
しかも、「生産性に見合う賃金」さえ払われていないのが実際です。大企業などが史上最高益をあげているのに、労働者の月額賃金は、一九九五年から二〇〇五年にかけて約二万七千六百円、7・6%も減っています。
金さえ払えば解雇自由
《正規社員の解雇を規制することは、非正規雇用へのシフトを企業に誘発する》
解雇規制を攻撃するのは、「流動性の高い労働市場の構築」というように正規雇用をもっと減らして非正規雇用を増やしたいからです。
一九九七年からの十年間で正規雇用は四百万人も減る一方、非正規は五百万人も増えています。
製造業への派遣解禁など規制緩和によって、正規雇用を減らし、非正規雇用に置き換える動きがすすんでいるからです。
しかし、現行法では正規でも非正規でも身勝手な解雇はできません。解雇規制を攻撃するのはそのためです。意見書では、不当解雇でもカネさえ払えば自由にできる「解雇の金銭解決制度」を求めています。
「偽装請負」の責任逃れ
《派遣労働者に対する雇用申し込み義務は、期限前の派遣取りやめを誘発する》
直接雇用が原則で間接雇用の派遣労働は臨時的なものです。このため期限(最大三年)を超えて働かせようとすれば、派遣受け入れ企業は労働者に直接雇用を申し込む義務が生じます。これから逃れようと大企業では偽装請負が横行し、社会問題になっています。
雇用申し込み義務を非難するのは、違法派遣の偽装請負を続けるためです。偽装請負が問題になったキヤノンの御手洗冨士夫会長は「請負法制に無理がありすぎる」と開き直り、制度を見直すよう求めています。
タダ働き強要し居直り
《画一的な労働時間の上限規制は脱法行為を誘発する》
違法な長時間労働やサービス残業を反省もせず、法律が悪いから違反になるんだと開き直ることは許されません。
上限規制といっても、日本では労使協定さえ結べば、いくらでも働かせることができる仕組みになっています。実際にはその労使協定もなく働かされている場合も少なくありません。
そんな規制さえなくせというのは、際限なく働かせて残業代も払わない「ホワイトカラー・エグゼンプション」を導入するためです。
女性への差別を当然視
《女性労働者の権利を強化すると最初から雇用を手控えるなどの副作用が生じる》
女性の二人に一人はパートや派遣など非正規雇用で、低賃金、雇用不安、劣悪な労働条件に置かれています。男女の賃金格差も依然として是正されていません。仕事と家庭の両立が困難で、退職や解雇に追い込まれるケースも後をたちません。
女性の権利が強いどころか、まともな権利さえ踏みにじられているのが実態です。それを理由に雇用を手控える企業があるとすれば、ただすべきは、企業のほうです。
国際的にも通用せず
労働者保護が常識
意見書は「労働法制は労働者保護の色彩が強い」と非難します。
しかし、労働法はもともと、使用者と比べて力関係が圧倒的に弱い労働者を保護するためにつくられたものです。労働組合を結成し、団体交渉や争議権を保障しているのもそのためです。
しかも、日本の現実は労働者保護が強いどころか、規制緩和をすすめてきた結果、多くの労働者が低賃金や長時間労働、不安定雇用を強いられているのが実際です。
労働分野への市場原理の導入について国際労働機関(ILO)宣言は、「労働は商品ではない」と指摘しています。かろうじて残っている労働者保護の仕組みさえ撤廃せよという意見書は、国際的にも通用しません。
安倍内閣の本音
政府はこの意見書について「政府の方向性とまったく違う」といいながら、「これから議論するので、現段階における考えをのべたもの」(塩崎恭久官房長官)といってかばいだてしています。それは、労働分野の規制緩和は安倍内閣の方針だからです。
長時間労働野放しのホワイトカラー・エグゼンプションの導入をねらい、長時間残業の上限規制には「一律的な総量規制は慎重に」(柳沢伯夫厚労相)と反対。「画一的な時間規制」と非難する意見書と同じです。
最低賃金の大幅引き上げにも「経営を圧迫する」(安倍晋三首相)と反対しています。
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