2007年5月29日(火)「しんぶん赤旗」
年金記録漏れ
政府、新対策打ち出すが…
証明は“本人任せ”
政府・与党は、五千万件にのぼる対象者が分からない年金記録について、該当者がいないか調査を行うとともに、支払い不足が判明した場合は五年間の時効を適用しない法的措置をとることを打ち出しました。
時効の撤廃について与党側は当初、秋の臨時国会に法案提出の構えでしたが、安倍晋三首相は二十七日、今国会提出を指示するなど、対策に追われています。
調べる対象は60歳以上だけ
記録漏れは、コンピューター化や基礎年金番号導入に伴う事務処理のなかで起きたものです。長年にわたって保険料を納めてきたのに、もらえるはずの年金がもらえなくなる重大問題です。
ところが、安倍首相は「いたずらに国民の不安をあおってはいけない」と打ち消しに躍起となり、対策についても「年金記録の確認を幅広く国民に呼びかける」と“加入者任せ”にして、国民の年金受給権に背を向けてきました。それが、世論や野党の追及で新たな対策を打ち出さざるをえなくなったものです。
しかし、五千万件のうち調べるのは当面、年金がもらえる年齢に達している六十歳以上の記録二千八百八十万件。あとは注意を呼びかけて、加入者からの申し出を待つだけです。しかも、調査で関連しそうな記録がある人には社保庁が通知を出しますが、受給者が自分の記録かどうかを証明しなければなりません。
政府は、領収書がなくても状況証拠があれば認めるとしていますが、具体的内容は決まっていません。証明できなければ時効が撤廃されても救済されず、“本人任せ”という点は何も変わっていないのです。
日本共産党は、全加入者に対して政府から通知して、納付記録に誤りがないか確認することなど国の責任で徹底調査と救済対策をとることを求めています。
年金脅かす点 民主案も同じ
重大なのは、政府は記録の確認作業は二〇一〇年までに終わらないことを認めながら、その二〇一〇年に社保庁を解体して、年金事業を分割・民営化しようとしていることです。
政府案は、年金業務をバラバラにし、競争入札で外部委託します。委託業者や従業員が数年ごとに入れ替わるため、確実で安定した年金運営などはできない仕組みです。
個人情報の漏えいや不正利用などプライバシーも深刻な危機にさらされます。
これでは、これからおこなう該当者の調査をきちんとおこなう保障も、同じような記録漏れを再び起こさないという保障もありません。
社保庁を解体して年金事業を脅かす点では民主党も同じです。
民主党は、社会保険庁を解体し、国税庁とあわせて歳入庁をつくる法案を提出しています。年金業務を細分化し、営利企業に丸投げする仕組みになっており、政府案と変わりありません。審議のなかでも「公務員削減や民間委託でスリム化ができる」といって解体・民間委託を競い合いました。
しかも民主党案では、社会保険庁に代わる組織もなくなり、徴収体制だけが強化されることになり、社会保障としての年金の性格を大きく変質させる恐れさえあります。
参考人質疑では、政府案・民主案ともに「運営管理を国が包括的一元的に行うのが世界の流れ。世界の恥になる」と批判する声が上がりました。(深山直人)
保険料払った人の不利益生まぬよう
国の責任で解決 急務
社会保険庁は一九九七年、公的年金の加入者全員に基礎年金番号を割り当てる制度を導入しました。それまでは、年金ごとに別の年金番号で記録を管理していたため、転職や結婚などのたびに、別の年金番号がつけられていました。
社保庁は、本人の申請にもとづいて、複数の番号を持つ人の記録の統合をすすめていますが、五千九十五万一千百三件(二〇〇六年六月一日現在)が未統合のままとなっています。これが「宙に浮いた年金記録」です。
社保庁は「すでに死亡した加入者の記録がある」などと説明していますが、生年月日が特定できない記録が約三十万件も存在するなど、記録ミスも多数含まれていることが予想されます。
膨大な作業にふさわしい体制をとっていたのかどうか、検証が必要です。
年金記録の統合ができないと、年金加入期間(二十五年間)不足の扱いとされて、受給資格を失ったり、保険料を払っていても「未納期間」扱いとされて、もらえるはずの年金額を減額される不利益を受けることになります。
未統合記録約五千万件のうち、すでに年金受給資格のある年齢に達している記録は約二千八百万件にのぼっています。また、保険料を払い続ければ、受給資格を得られる三十五歳未満の加入記録も約百六十万件も存在しています。これらが放置されると、保険料を払った多くの国民が資格があるにもかかわらず不利益をこうむることになります。国民年金の場合、一カ月未納だと年間千六百五十円(一年未納は年間一万九千八百円)の年金が減額されます。
しかし社会保険庁は、あくまでも「申請主義」の立場をとっているため、現状では、加入者の方から社会保険事務所に年金記録の確認を求めることが必要とされています。国の責任で解決することが急務です。(宮沢毅)
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