2007年5月29日(火)「しんぶん赤旗」
「政治とカネ」 残された疑惑
真相語らぬまま 松岡農水相自殺
「ナントカ還元水」、巨額事務所費問題、そして「緑資源機構」官製談合疑惑―。「政治とカネ」をめぐるさまざまな疑惑が指摘されてきた松岡利勝農水相が二十八日、真相を語ることのないまま、みずから命を絶ちました。松岡氏にかけられた疑惑とは、どういうものだったのか―。(藤沢忠明)
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ナントカ還元水・事務所費
報告書の虚偽記載
昨年九月二十六日に安倍内閣が発足、農水相として初入閣した松岡氏。「東のムネオ(鈴木宗男衆院議員)、西のマツオカ」と以前から、疑惑まみれの政治家と指摘されてきましたが、入閣の当日に、福岡県警に出資法違反容疑で捜索された資産運用会社の関連団体WBEFから、パーティー券代として百万円を受け取りながら、政治資金収支報告書に記載していないことが発覚しました。
本紙一月三日付が報道した松岡氏らの「事務所費問題」は、一気に政治問題化しました。
この問題の核心は、家賃のかからない議員会館に事務所を置きながら、「事務所費」が数千万円になるのはおかしい、ということです。自民党の関係者からは「オレの一年分の政治活動費だ」という驚きの声すら聞かれたほどです。
松岡氏の資金管理団体「松岡利勝新世紀政経懇話会」は三千三百五十九万円(二〇〇五年)もの「事務所費」を計上していました。
この問題が取り上げられると、他の政治家は、「領収書のとれないもの」(伊吹文明文部科学相)、「秘書が夜遅くまで仕事をしたとか、やむにやまれず事務所活動だ」(中川昭一自民党政調会長)などと、中身はともあれ、一応答えたりしたものですが、松岡氏は、「法にのっとって適切に報告している」を二十三回も繰り返すだけでした。
同じく、議員会館は水道代、電気・ガス代は無料なのに、松岡氏の資金管理団体は「光熱水費」を五百七万円(〇五年)も計上。指摘されると、「ナントカ還元水とかいうものを付けている」とか、“いまどき水道水を飲んでいる人はいない”などと発言、ひんしゅくを買いました。
「事務所費」も「光熱水費」も虚偽記載の疑いが濃厚です。政治資金規正法は、両費目はじめ「経常経費」について、詳細な公開は求めていないものの、領収書や帳簿の保存を義務付けており、「適正」というのなら国民の前に公開すればすむ話です。安倍首相と二人三脚で隠しとおしたことは、年間数千万円単位の表にできない不適切なカネの流れがあったことをうかがわせるものでした。
緑資源談合
巨額献金で税金還流
林野庁OBの松岡氏は、農水省所管の独立行政法人「緑資源機構」の官製談合事件とのかかわりも重大です。
昨年十月末、独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで、公正取引委員会が緑資源機構などを立ち入り検査したとき、本紙は立ち入り検査を受けた公益法人や民間コンサルタントが、松岡氏に多額の献金をしていたことを報道しました。(昨年十一月二十七日付)
日本共産党の紙智子参院議員は五月八日の参院農水委員会で、農水省所管の公益法人と一体の九つの政治団体から一九九六年からの十年間で計一億三千万円もの献金を受け取っていたことを明らかにしました。
公正取引委員会の告発を受け、東京地検特捜部は二十四日、緑資源機構の森林業務担当理事や受注側の公益法人や民間企業の担当者らを逮捕、刑事事件に発展しました。そのなかには、松岡氏に献金していた公益法人や民間企業が含まれています。
同機構の官製談合事件で業務を受注していた業者も参加する業界団体「特定森林地域協議会」(特森協、解散)の政治団体、「特森懇話会」(解散)から五百二十万円、特森協宮崎地区協議会から二百万円の献金も明らかになっています。
同特捜部は二十五日、熊本県と島根県で同機構が進めている「特定中山間保全整備事業」でも官製談合の疑いがあるとして、同機構の出先機関の九州整備局(福岡市)や松江(松江市)、宮崎(宮崎市)の両地方建設部のほか、松岡氏の選挙区内にある阿蘇小国郷建設事務所(熊本県小国町)などを家宅捜索。二十六日には、特森協の解散当時の副会長宅や、特森協宮崎地区協議会の元代表者が経営する会社も家宅捜索しました。
地元・熊本での特定中山間保全整備事業などの工事発注をめぐって、地元関係者は「松岡大臣の影響があった」と証言していますが、捜査の対象が松岡氏周辺に迫っていたとみるべきでしょう。
緑資源機構から発注される仕事は大半が国の補助金でまかなわれています。国民の税金が、献金という形で還流していたにもかかわらず、松岡氏は監督官庁のトップとして、「責任を痛感している」とするだけで、公共事業とのかかわりについては、何も明らかにしませんでした。
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