2007年5月30日(水)「しんぶん赤旗」
「生存権」の歴史は?
〈問い〉 現憲法が規定する「生存権」は先駆的といわれますが、生存権は歴史的にどう確立されてきたのですか?(北海道・一読者)
〈答え〉 日本国憲法は第25条1項で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と生存権を明記しています。生存権は、資本主義の発展のもとで、労働者階級をはじめ国民の長期にわたるたたかいを背景に実現したものです。
資本主義の利潤第一の生産によって、労働者階級の貧困、失業、労働苦が広がりますが、イギリス救貧法にみられるように、貧民は作業所に収容され、監獄以下の食事で仕事を強いられ、権利は否定されていました。
しかし、19世紀中ごろから20世紀初頭にかけて、ヨーロッパで労働運動が前進し社会主義思想が台頭するもとで、市民的政治的権利にとどまらず、労働者の団結権の承認、公的教育への就学の保障、社会保険制度などの導入とともに、社会的権利としての生存権の考え方が成長していきます。
1917年のロシア革命が、資本家と国家の負担による失業保険や医療保険の制度を確立したことは、国家に生存権を保障する義務があるという考えを世界に広げるうえで大きな影響を与えました。
資本主義国で、国民の生存権に対応したことをやらないと体制を維持できないという思惑が支配勢力の側にも働くようになり、第1次大戦後、ドイツのワイマール憲法(1919年)で、「すべての人に人間たるに値する生活の保障」がうたわれ、「所有権の行使は、同時に公共の福祉に役立つべきである」との考え方が導入されたのです。
1930年代以降、大恐慌の大量失業下に、イギリスで、社会保険と公的扶助による救済制度がつくられ、アメリカでも、「ニューディール政策」の一つに、社会保障給付の拡大が実現するなど、生存権的な基本権の流れが広がっていきました。
第2次世界大戦後、いちはやく定められた日本国憲法の生存権は、世界の流れを背景に、戦前からの過酷な搾取と戦争動員で国民の生活苦の解決が切実に求められるなかで、憲法草案の審議で憲法研究会案を生かす形で加えられたものです。憲法に明文をもって生存権を規定していることは、サミット諸国のなかでもきわだっています。
今日、1948年の世界人権宣言、1976年発効の「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」で、生存権は世界的に確立した権利となっていますが、これを名実ともに実現させるには、政府に対する国民的なたたかいが必要です。(岡)
〔2007・5・30(水)〕