2007年6月12日(火)「しんぶん赤旗」
主張
コムスン
営利に委ねた政治の責任重い
訪問介護大手・コムスンのサービスを受けている六万人を超える高齢者が、介護不安にさらされています。利用者には、国と自治体の責任で安心して介護が受け続けられるようにしなければなりません。
国と自治体で責任を
コムスンは全国にある八つの事業所を開設するさい、実態のないヘルパーを届け出るなど偽りの申請をしていました。加えて、これらの事業所が取り消し処分になる前に、自ら事業所の廃止届を出して、「処分逃れ」をはかりました。厚生労働省が、コムスンの介護事業所の新規開設や更新を二〇一一年十二月までの四年半、認めないとする方針を出したのは、当然のことです。
コムスンが所属するグッドウィル・グループは、厚生労働省の処分直後、今度はコムスンの全事業を同じグループ内の日本シルバーサービスに譲渡して、事業の継続をはかろうと画策しました。日本シルバーサービスは処分直前の五月末までコムスンの子会社だった企業です。
「看板のかけ替えにしてもあまりにもひどい」と、日本共産党の小池晃参院議員が追及し、柳沢伯夫厚生労働相が「事業譲渡については今後十分に精査する」と答弁したその日(七日)の夜、厚生労働省は「事業譲渡の凍結」をグッドウィル・グループに指導しました。事業譲渡を“問題ない”とするのは国民が許さなかったのです。
グッドウィル・グループの折口雅博会長は、盛んに、“利用者のために事業継続を”といいますが、誠意が感じられません。
事業所の廃止、撤退は、コムスンがこれまでも繰り返してきたことです。二〇〇〇年四月の介護保険導入時、全国約千二百カ所の介護拠点のうち四割をわずか二カ月で閉鎖しました。折口氏は、「ナショナルブランドの確立には、一二〇〇という拠点が必要だった。初めから七三〇しか出さなければ、四五〇しか残らないだろうし、四五〇ならば三〇〇だろう。それでは数が少なすぎて広告宣伝費を吸収できない」(『金融ビジネス』二〇〇〇年九月号)とのべています。最初から大量の事業所の閉鎖を見込むなど介護を投機の対象とみているのです。
政府は、介護保険の導入にあたって、「規制緩和の推進による多様な民間事業者の参入促進」をかかげ、営利企業の参入を促してきました。一方で、介護サービスの基盤整備の公的責任を後退させてきました。
数万の高齢者が介護不安にさらされる事態は、営利企業に依存し公的保障を後退させる介護保険の問題点を露呈しました。
政府内部からも、今回の事態を、公的サービスへの株式会社導入による「介護保険の大失敗」ととらえる見方があります。「何でも規制緩和して民間にゆだねていいのか」(伊吹文明文部科学相。「朝日」八日付)との意見が出るほどです。
与党と民主の緩和路線
訪問介護への営利企業の参入は一九九〇年代から進められ、介護保険導入を契機に促進されました。二〇〇二年十二月には特別養護老人ホームへの株式企業の参入を認める「構造改革特区」法が自民、公明の与党と民主党の賛成で成立しました。
グッドウィル・グループは、コムスンの他企業への売却も検討していると伝えられていますが、政府は、介護サービスを営利企業に依存する体質を抜本的に改める必要があります。なにより不正を働く企業のための介護事業であってはなりません。
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