2007年6月14日(木)「しんぶん赤旗」
中南米の「解放の神学」とは?
〈問い〉 中南米で、左翼・革新政権が次々と生まれているのは、私たちの励みにもなることです。以前、「解放の神学」ということで、中南米で、生活の苦しさなどを来世に先送りせず、現実の問題として、直視し、現実の信仰と結び付けていくことが広がったと記憶しています。こうしたことは、左翼・革新政権の誕生と、どう関係しているのでしょうか?(大阪・一読者)
〈答え〉 「解放の神学」とは、“教会は、貧困と搾取、独裁と抑圧からの人民解放のたたかいと結びついてこそ預言者的な役割を果たせる”という考えにたった神学と運動です。キューバ革命の影響も受けながら1960年代に始まりました。国によって規模はさまざまですが、「解放の神学」にもとづく活動は中南米の国々で今でも受け継がれています。
90年代末から中南米で相次いで誕生している革新政権に、「解放の神学」にかかわる聖職者が重要閣僚として直接入閣しているという例は見当たりません。しかし、「解放の神学」の主張の影響はさまざまなところにあらわれています。それは、ベネズエラのチャベス大統領が「キリスト教社会主義」という言葉を使い、ベネズエラの社会変革とキリスト教の目指す方向が一致していると指摘したり、エクアドルのコレア大統領がローマ法王の回勅を引用しながら弱肉強食の新自由主義を批判したりしていることにもみられます。
新自由主義の害悪が深刻になるなかで、自主的で民主的な国づくりを目指す変革の動きはラテンアメリカ全体に広がり、「親米」や「保守」といわれてきた国にも影響を及ぼし始めています。こうした状況のもとで、「解放の神学」が掲げてきた主張は今では中南米諸国の社会に根付き、政治家を含めて国民に広く共有されているといえます。
79年にニカラグアで革新政権が誕生した際には、「解放の神学」の立場に立つ4人の聖職者が入閣し、外相や教育相など重要ポストに就きました。この時、カトリックの総本山であるバチカンは、米国とともに「解放の神学」を激しく攻撃し、カトリックの革新的潮流と鋭く対立しました。
今年5月にブラジルを訪問したローマ法王も“教会が政治に巻き込まれないように”と訴えるなど「解放の神学」へ警戒感を示しており、バチカンの基本的な姿勢は大きくは変わっていません。しかし、法王が同じ説話の中で中南米の貧困や格差の問題への取り組みの重要性を強調したように、バチカンも今では事実上、「解放の神学」の主張を認めざるを得なくなっています。(島)
〔2007・6・14(木)〕