2007年6月15日(金)「しんぶん赤旗」
自衛隊による違憲・違法の国民監視活動を国民の共同の力で中止させよう
報告・抗議集会での 志位委員長の報告(大要)
日本共産党中央委員会が十四日開いた「自衛隊による違憲・違法な国民監視活動についての報告・抗議集会」で、志位和夫委員長がおこなった報告(大要)と閉会あいさつは次のとおりです。
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お集まりのみなさん、こんにちは。ご紹介いただきました、日本共産党の志位和夫でございます。今日は、お忙しいところ、私たちがよびかけたこの集会に、会場いっぱいの多くの方々が全国各地からお運びくださいまして、まことにありがとうございます。私からも、まず心からお礼を申し上げます。(拍手)
ありとあらゆる国民の活動が、監視の対象になっている
私たちが、六月六日に、自衛隊による国民監視の実態を示す内部文書を発表して以来、全国各地で大きな怒りの声が広がっております。メディアも、テレビ、ラジオ、全国新聞、多くの地方新聞が、きびしい批判の報道を行っています。
私たちが入手した陸上自衛隊・情報保全隊の内部文書は、全体で百六十六ページに及ぶものですが、これは、この闇の部隊が、市民運動、労働運動、政党、文化人、知識人、宗教者、ジャーナリスト、国会議員、地方議員、地方議会、そしてマスメディアも含めて、あらゆる国民の活動を監視対象にしていることを示しています。
なかには、「寅さん」の監督の、山田洋次さんの名前も出てきます。朝日新聞が、漫画家のやくみつるさんの痛烈な風刺の一こま漫画をのせました。情報保全隊が、遠くから双眼鏡でのぞいている、それにたいして「山田監督」が「それをやっちゃあおしまいよ」(笑い)といっている。本当に幅広い、ありとあらゆる国民の活動が、情報保全隊による監視の対象になっているわけです。
この自衛隊の活動のどこが問題か。お手元に、内部文書を公表した際の私の記者会見と、政府・防衛省の対応に反論した記者会見の内容を配布させていただきました。今日はそれらを前提におきまして、三つの問題点を指摘したいと思います。
監視活動そのものが、憲法で保障された国民の自由を脅かす
第一は、自衛隊の行った監視活動は、それ自体が憲法で保障された国民の自由な言論や活動に圧力をかけ、脅かし、委縮させるものであるということです。
まず、監視活動を行っていたのは、強大な軍事力を持つ自衛隊という軍事組織でした。これは、他の組織が行うものとは質の異なる危険性を持つということをいわなければなりません。
つぎに、その監視活動が、国民の知らない間に行われておりました。情報保全隊という腕章を巻いていたわけではありません。彼らは身分を隠し、集会やデモにまぎれこむなどして、この活動を行っていたのです。
さらに、国民の行動が詳細に監視・記録され、膨大な個人情報が集積されています。この二つの内部文書は、六週間分のデータですが、それだけでも、個人名が二百を超えます。そのなかには、集会で公然と自らの氏名を名乗って発言した方の名前だけが記載されているのではありません。一参加者として参加し、発言をしていない方まで、氏名を特定し、名前が記載されておりました。
私は、こうした監視活動そのものが、国民が自由に意見をのべたり、行動したりすることへの大きな圧力となることは明らかだと思います。
もちろん、自衛隊が監視しようが何をしようが、そんなものは何ともないというつわもののみなさんも、このなかには多くいらっしゃると思いますが(笑い)、一般の国民からすれば、これは大きな圧力であります。
多くの新聞の社説で、「市民活動を委縮させる」、「プレッシャーを感じ、息苦しい社会になる」、「平和運動を委縮させる」と批判したのは当然であります。
憲法二一条には、集会・結社、言論・出版、表現の自由が明記されております。憲法一九条には、思想・信条の自由、内心の自由が明記されております。憲法一三条では、個人の尊重、幸福追求権、プライバシーに対する権利などが保障されております。
今回の自衛隊が行った国民監視活動は、この活動そのものが、これらの日本国憲法が保障している基本的人権を根底から脅かし、蹂躙(じゅうりん)するものであるということを、私はまず批判したいと思うのであります。(拍手)
自分に都合の悪い活動を「敵」とみなして監視――「軍の暴走」は許せない
第二に、自衛隊が、政府と自衛隊にとって都合が悪いと仕分けした国民の活動のすべてを対象に、監視活動を始めていることであります。
監視活動の対象は、自衛隊のイラク派兵問題にとどまりません。情報保全隊の内部文書は、年金問題、医療費の問題、消費税の問題、国民春闘、小林多喜二展など、およそ自衛隊の活動とも、「防衛機密」ともまったく無関係の国民の活動も、日常的な監視対象としていることを示しています。
いま「消えた年金」が大きな問題になっていますが、そうなってきますと国民のほとんどすべてが監視対象になるのではないかという声も聞こえるほどであります。
そして、自衛隊は、自分に都合が悪いと仕分けした国民の活動に、「反自衛隊活動」というレッテルをはり、「敵」とみなして、監視の対象としています。
たとえば民主党のある国会議員が、自衛隊のOBの集まる席で、「自分はイラクの派兵には反対です」といったことが「反自衛隊活動」と記載されています。
朝日新聞の記者が、青森の陸上自衛隊駐屯地の前で、隊員にイラク派兵について質問し、青森市内で市民のみなさんに賛否をたずねた。そして「賛否わかれる」という記事を書いただけで「反自衛隊活動」と記載されています。
基地周辺の住民の方が、ヘリコプターの騒音がうるさくてなんとかなりませんかと苦情の電話をいれたことまで、氏名が記載され、「反自衛隊活動」と記載されています。
「国民を守るはずの自衛隊が、国民を敵扱いしている」――こういう批判が広がっていますが、当然の批判だと思います。
自衛隊について、政府はこれまで、ともかくも「文民統制」――「シビリアンコントロール」と、「政治的中立」を大原則にしてきたはずです。「文民統制」とは、端的にいえば、自衛隊は、国民の監視下におかれなければならないという原則のはずです。ところがいま、逆に自衛隊が国民を監視下においている。しかも、国民を勝手に「敵」、「味方」に峻別(しゅんべつ)して、「敵」とみなした人を監視対象においている。これは恐ろしいことであります。
いまおこっていることは、「文民統制」の原則すら根本から崩壊させ、「軍による文民にたいする統制」におきかえる動きであります。まさに「軍の暴走」が始まっているといわねばならないと、これは何としてもやめさせなければならないということを強く訴えたいと思います。(拍手)
政府・防衛省――居直り、ごまかし、隠ぺいは通用しない
第三は、こうした情報保全隊の違憲・違法な国民監視活動について、政府・防衛省がどういう態度をとっているかという問題です。一言でいえば、「何が悪いのか」という開き直りが、政府の態度であります。
政府も、内部文書の信ぴょう性については、もはや否定ができなくなりました。国会の答弁でも、久間防衛大臣はこのように述べました。「まったく根も葉もないものとはいえない」(笑い)、「(偽物)ではないという感じは受ける。作られたような気配はない」(笑い)。これは、自衛隊以外の誰にも作れない文書だということは、内容を見れば一目瞭然(りょうぜん)です。ですから、この内部文書の信ぴょう性については、否定できないところに追い詰められました。そこで、居直りと、ごまかしと、隠ぺいで、ことをやりすごそう。これが政府・防衛省の態度となっています。
まず一つは、居直りです。久間大臣は、「集会にいって情報を集めて何が悪い」と答弁で言い放ちました。しかし、軍事権力である自衛隊の一員が、身分を隠し、参加者のふりをしてデモや集会にまぎれこみ、情報を集めて回る。これを世間の言葉では「スパイ活動」と呼ぶのではないでしょうか。(拍手)
久間大臣は、自衛隊がデモや集会などの写真撮影を行ったことについて、「写真を撮って何が悪い。報道陣も撮っているではないか」(笑い)、このようにいいました。しかし、マスメディアのみなさんが撮る写真というのは、国民の知る権利にこたえての活動です。軍事権力の監視活動とはまったく異質のものであります。警察であってもみだりに写真を撮ることは許されておりません。具体的・個別的な犯罪行為が明確でなければ、デモや集会などの写真撮影をみだりに行うことは、憲法一三条の保障する肖像権を侵害するものだという、最高裁大法廷の判決も確定しております。警察でもできません。それを自衛隊がやる。これは違憲・違法以外の何ものでもありません。その区別もつかない。メディアが行う写真撮影と、自衛隊の行う写真撮影の区別もつかないということでは、私は防衛大臣失格だといわなければならないと思います。(「そうだ」の声、拍手)
二つめは、ごまかしです。イラク問題での監視活動について、大臣は「イラク派遣への反対運動から、自衛隊員と家族を守るため」と弁明いたしました。しかし私は、いったい高校生の行うピース・ウオークが、隊員の家族に危害を加えるとでもいうのかといいたいと思います。むしろ国民運動・市民運動のみなさんは、自衛隊員の家族のことを考えても、ああいうイラクへの派兵は心配だ、やめた方がいい、こういう思いで運動にとりくんだ方が多いのではないでしょうか。(拍手)
だいたいみなさん、年金の問題、医療の問題、消費税の問題、春闘の問題などは、自衛隊にまったく関係がありません。報道によりますと、防衛省関係者は「たしかに説明ができないことまで書かれている」といったそうでありますが、こういう、国民のくらしを守る活動全般に対する監視活動というのは、いかなる理由をもってしても説明がつかないはずです。答弁につまって、久間大臣は「イラク派遣の情報収集のついでに記録した」(笑い)といいましたが、内部文書を見ますと、それぞれの行動は、くらしを守るとりくみとして単独に記載されております。「ついでに記録した」などというごまかしは、通用するものではありません。
そして三つめが、隠ぺいであります。政府は、情報保全隊の活動を明らかにせよとの要求さえ拒否しております。内部文書についても調査を拒否しました。防衛大臣は、「三週間で破棄してしまったから調べようがない」といいました。しかし、破棄してすべてのデータがなくなっているということはありえないことです。電子データの形で残っていることは、私は間違いないことだと思います。だいたい、情報保全隊という九百名の部隊は現に存在しているわけでありますから、調べる気があればいくらでも調べられるではありませんか。
久間防衛大臣はさらに、「(もしも調査して)その内容とうちで調べた内容が合っていた場合には、非常に問題がある」(笑い)といいました。防衛事務次官は「手のうちがばれる」といいました。私は、語るに落ちるとはこのことだと思って聞きました。これらは、明らかにしたら「非常に問題がある」、国民に知られたらまずい「手のうち」があることを、自ら語ったものではないでしょうか。
政府・防衛省がとっている居直り、ごまかし、隠ぺいは、どれも国民からみたらとうてい通用するものではないということを、私はいいたいと思います。(拍手)
過去の一時期の問題でなく、現在進行形で続いている問題
みなさん、この問題は中途半端にするわけにはいきません。
強調しておきたいのは、私たちが入手した内部文書は、二〇〇三年十一月から〇四年二月までの時期の情報保全隊の活動の一部であり、明るみに出たのは氷山の一角であるということです。そして、情報保全隊は九百名にのぼる組織であり、その活動は現在も続けられているということであります。
いまならば、たとえば、憲法改定に反対する動きや、「消えた年金」についての国民の動向が、詳細に監視・記録されていることも、十分に考えられることです。この問題は、過去の一時期の問題ではない。現在進行形で続いている問題であります。いまここで私たちが政府・防衛省の開き直りを許したら、違憲・違法の活動が野放しにエスカレートすることになります。だからここで絶対に止めなければならない。私は、このことを訴えたいのであります。(拍手)
「憲兵政治」の再来を許すな――国民の共同でこの無法をやめさせよう
いったい何のための国民監視なのか。説明がつきませんね。警察が情報収集をする場合には、その場合でも違法な活動が問題になることがありますが、ともかくも犯罪捜査のためという目的が立つわけであります。しかし、自衛隊が何のために国民を監視するのか。国民を納得させる理由は何一つ示せません。
私は、これは、いざというときに有事法制を発動し、あるいは治安出動という形で国民の反対を鎮圧してしまう。そのときのために、平素から国民を監視し、情報を蓄積し、「ブラックリスト」をつくりあげておく。同時に国民監視の態勢づくりを強化しておく。そして、いざというときには、力ずくで押さえ込んでしまう。それ以外に目的は考えようがないといわなければなりません。
私は、六日の記者会見で、自衛隊の国民監視活動について、「これは戦前・戦中の『憲兵政治』――軍隊の治安機関であった憲兵組織が、やがて国民全体の監視機関となり、弾圧機関となった暗黒政治を今日に復活させようとする、絶対に許しがたいもの」だと告発いたしました。多くの国民のみなさんからも、同じ危惧(きぐ)の声があげられています。「憲兵隊を思わせる」「特高警察の再来だ」という批判がおこっております。
私は、ここで止めなければ、「軍の暴走」がエスカレートし、とりかえしのつかない事態を招くと思います。
みなさん、自衛隊による違憲・違法な国民監視活動の中止を求めるという一点で、政治的な立場の違いをこえ、国民が共同を広げ、この無法をやめさせるまで力をつくそうではありませんか。(拍手)
以上をもちまして、主催者を代表しての報告といたします。ありがとうございました。(拍手)
志位委員長の閉会あいさつ
みなさん、今日はありがとうございました。(拍手)
各界のみなさん、全国のみなさんからの発言をお聞きして、二つほど感じました。
一つは、私たちが公表した内部文書はまぎれもない本物だったということが、全国の証言で裏付けられたということです。(笑い、拍手)
もう一つは、こうした事態にさいして、日本国民のなかに勇気をもって平和と民主主義を守りぬこうという理性と良識がほんとうに豊かに波打っている、このことが示された集会だったと、私はほんとうにうれしい思いで、発言を聞きました。(拍手)
私は、こういう問題が明らかになったときは、ひとつの歴史の分かれ道だと思います。かりに、違憲・違法な活動を、既成事実として許してしまったら、際限なく相手の行動はエスカレートしてしまうことになります。逆に、こうした違憲・違法な活動を中止に追い込めば、平和と民主主義を前進させる大きな転機にすることもできます。ですから、これはまさにひとつの歴史の分かれ道だと、私たちもしっかり覚悟して、自衛隊の無法な国民監視活動を中止に追い込むまで頑張りぬきたいという決意を申し上げたいと思います。(拍手)
どうやって中止させるか。横路孝弘衆院議員から、「これは監視対象になっている団体・個人の問題ではない、国民全体の問題だ」というメッセージが寄せられましたが、まさにその通りだと私も同感であります。この内部文書では、情報保全隊の活動の氷山の一角が明らかになっただけであり、国民全体がいわば敵視され、監視対象とされている。ですから、国民の大きな連帯の輪でこれを中止に追い込むことが大切だと思います。
そしてもう一つ、国会の役割が大切ではないでしょうか。昨日(十三日)の神奈川新聞で、「国会で徹底追及が必要だ」という社説が出ました。「文民統制」ということをよくいわれますが、国会というのは、文民である国民の代表者が集まっている機関ですから、その「文民統制」が破壊されようとしているときに、国会が黙っていたら、国会の役割を果たせないのではないでしょうか。(拍手)
この社説には、監視対象になった共産党や民主党や社民党だけではなくて、与党も国会の構成員なのだから、「与党も真剣に追及する責任がある」とのべていますが、私はその通りだと思います。ぜひ国会として、この問題をあいまいにせずに、徹底した真相の究明と中止のための努力をすべきであって、私はこの場でこの問題に直接かかわった、東北方面の情報保全隊の関係者をはじめとして、関係者の国会への招致を強く求めるものです。(拍手)
国会は、この問題の真相究明と責任追及を徹底的に果たす責任を負っています(拍手)。その点で、他の党のみなさんとも協力して、この問題をきちんと解決するために、力をつくすことをお約束して、閉会のあいさつといたします。ありがとうございました。(拍手)
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