2007年6月19日(火)「しんぶん赤旗」
主張
靖国DVD
“戦前の価値観”に広がる批判
中学校の教育で、日本の過去の侵略戦争を美化するアニメ(DVD)が使われようとしていることに、批判が広がっています。
“一面的で違和感”
アニメ(約三十分)は、改憲をかかげる日本青年会議所がつくった「誇り〜伝えようこの日本(くに)のあゆみ〜」で、「日本の戦争はアジア解放のためだった」という、靖国神社の主張と同じ戦争観を中学生に教え込むものです。
こんな「靖国DVD」ともいうべきアニメが、文部科学省の委託事業として採用され全国の学校で使われようとしていることは、日本の植民地支配と侵略戦争への反省を明らかにした終戦五十周年の村山首相談話(一九九五年)など、政府の立場とも反します。各地の教育委員会などが「副教材としてふさわしくない」とのべているのは当然のことです。マスメディアも、「教育現場からは『一面的な内容で違和感を持った』といった声があがっている」(「朝日」八日付)と報道しています。
問題を最初にとりあげた日本共産党の石井郁子衆院議員の質問(五月十七日)に、伊吹文明文部科学相も「私が校長であれば使わない」と答弁せざるをえなかったように、学校教育で使ってはならないものです。
高まる批判に文部科学省は、“地域参画のノウハウや留意点の整理を調査研究するのが目的で、アニメは審査の対象外で見ていない。お墨付きを与えたものではない”と繰り返すだけで、事態を放置しています。こんなでたらめは許されません。
文部科学省が日本青年会議所の教育事業を採択したさいの文書には、実施方法として、「日本青年会議所が作成した補助教材をもとに」と明記しています。教育事業として中心的役割を果たす教材が大問題だと指摘されているのに、「対象外」といって逃げるのは、卑怯(ひきょう)きわまりない態度です。
「靖国DVD」は政府の立場とも相いれないものです。だからこそ、文部科学省も“お墨付きを与えた”“認定した”といえないのです。文科相も、“使う”とはいえないものです。それなら、教育事業そのものの採用を撤回するのがまっとうな態度です。
石井議員の引き続く追及で、「靖国DVD」を使った教育事業を、文科省の委託事業として選んだ有識者会議の委員に、日本青年会議所の池田佳隆会頭(当時)が入っていたことが明らかになりました(六日、衆院文部科学委員会)。審査機関に入って自らの団体の申請を「合格」させるやり方は不当であり、政府も「遠慮するのが人間として当たり前のことだ」(伊吹文科相)といわざるをえませんでした。
「靖国DVD」の文科省採用は、中身もやり方もまったく異常です。
国会では、安倍首相が昨年十二月池田会頭から「靖国DVD」を渡され、「教育再生の参考」にするとのべたことも明らかにされています。
侵略美化の教育許すな
安倍首相が「教育再生」の名で押し付けようとしている価値観とは、「靖国DVD」に象徴される戦前的な価値観であることがいっそう明確になっています。日本青年会議所が「靖国DVD」の教育事業で検証すべき内容として「国を愛する心の涵養(かんよう)」をあげています。
義務教育に「愛国心」をもちこみ、国家統制を強める教育三法改定案は廃案にすべきです。過去の日本の植民地支配・侵略戦争を美化・肯定する教育がはびこるような事態を絶対に許してはなりません。
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