2007年6月19日(火)「しんぶん赤旗」

年金保険料 群がる政官財

社保庁解体で流用恒久化

国公法改悪で 天下り・天上がり自由化も


 終盤国会で政府・与党が成立をねらう社会保険庁の解体・民営化法案と、天下り先をあっせんする「官民人材交流センター」(新人材バンク)の設置などを盛り込んだ国家公務員法改悪案。なかでも社保庁解体は、「消えた年金」問題での国の責任逃れをはかるものです。会期を延長してでもごり押ししようとする背景に、年金保険料に群がる政官財の癒着構造が―。(深山直人)


発注1兆4千億円

 「社保庁年金システム 発注総額1兆4000億円 受注側に15人天下り」(「東京」十五日付)―年金保険料に群がる企業と天下り官僚、自民党による癒着構造をただした日本共産党の小池晃議員の参院厚生労働委員会での質問(十四日)を、テレビや新聞が一斉に報じました。

 「全員に納付記録を送って」「調査対象者の拡大を」―「消えた年金」問題での国民の願いにも政府は「システム処理に時間がかかる」といって応じようとしません。

 そんなずさんな処理システムを発注したNTTデータと日立の関連会社に対し、これまでに一兆四千億円もの公費が支払われていたのです。

 しかも、社保庁や厚労省の幹部・職員ら少なくとも十五人が、受注先に天下り。関係企業から自民党への献金は、同党の政治資金団体・国民政治協会分だけでも九八年以降で二億二千七百万円にのぼることが、小池氏の調べで分かりました。

 「年金利権に企業も官僚も群がり、保険料が政治献金の形で自民党に還流することが許されるのか」。小池氏の批判に柳沢伯夫厚労相は「適正に処理されている」としか答えられませんでした。

 保険料は年金給付に充て、システム経費など事務費は国庫負担とするのが原則でした。しかし、九八年度から「臨時的措置」として事務費に保険料を充当してから急増。〇五年には千百四十億円にも膨れ上がっています。

 社保庁解体法案には、この保険料流用をやめるどころか、恒久化する措置が盛り込まれました。小池氏が「歯止めがかからなくなる」と指摘したのに対して、厚労省は、「受益と負担の明確化から妥当」と正当化。保険料をつぎ込んだ大規模保養施設グリーンピアなど無駄遣いに対する反省もみられません。

癒着加速の危険性

 この政財官の癒着をひどくしかねないのが、国家公務員法改悪案です。

 「天下り」は現在、離職後二年間、密接な関係のある営利企業に限って規制しているだけで、特殊法人などを経由して行われています。

 法案では、「官民交流の拡大」を理由に、不十分な規制さえ全廃し、内閣の下に置く「官民人材交流センター」にあっせんを一元化します。天下りは原則自由になり、企業から省庁への「天上がり」も自由になります。

 「交流センター」が発足して、「日本年金機構」ができればどうなるのか。

 年金機構は民間企業と変わらないため、再就職(天下り)は自由。企業からの天上がりももちろん自由です。小池氏の質問に柳沢厚労相は「公務員に関する規制は及ばない」と認めました。

 厚労省からの天下りも「交流センター」を経由すれば自由になり、天上がりもやりたい放題。しかも年金機構は、天下りの新たな受け皿にもなります。まさに「天下り・天上がり天国」です。

 「官民交流の拡大」は財界・大企業が強く求めてきたものです。

 日本経団連は、「さらなる行政改革の推進に向けて―国家公務員制度改革を中心に」(〇五年)で、「政策の企画・立案の中枢に関与できるように」と要求。「官民の間を自由に行き来できる開放型人事制度」を求めてきました。

 安倍晋三首相は今国会で、天下り規制の強化について「官民の人材のかっ達な交流を妨げる。官民交流を現役もOBも含めて拡充していきたい」と繰り返しています。

 国会と国民による監視も及ばなくなります。

 社保庁であれば、長官や幹部は国会に出て質問に答えなければなりませんが、年金機構では義務ではなくなります。

 社保庁は、事務費だけでも毎年二千億円以上の予算を扱っています。解体後は、多くの業務を民間委託する計画で利権はさらに膨らみます。にもかかわらず、国民の目の届かない闇の中へ隠されてしまいかねません。

人材業界にも商機

 「交流センター」にも利権の構図が―。

 「交流センター」は、キャリア官僚(上級職)だけでなく、全職員の仲介業務を扱います。対象者は数万人規模に膨れ上がる可能性が指摘されています。

 渡辺喜美行革担当相は十二日の参院内閣委員会で「民間の活用はあり得る」とのべ、民間委託する考えを表明しました。

 通常、あっせん業者には転職先の企業から、転職者の年収の30%前後が報酬として払われます。仮に年収一千万円の公務員が一万人転職すれば、約三百億円が転がり込みます。人材紹介業界には大きなビジネスチャンスです。すでに人材派遣のパソナは、総務省が試行実施した「人材バンク」を請け負っています。

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