2007年6月20日(水)「しんぶん赤旗」
主張
骨太方針2007
悪循環を深める財界仕込み
経済財政諮問会議が二〇〇七年版の「骨太方針」を決めました。安倍内閣としては初の「骨太方針」です。
大企業が空前の利益を上げる一方で貧困が深刻な社会問題になっています。「消えた年金」が明るみに出て国民の怒りと不安が噴き出し、定率減税が廃止され、住民税が大幅に上がって家計を直撃しています。
くらしが不安に包まれているときに、安倍内閣が骨太方針の第一に掲げたのは「生産性の向上」を看板にしたいっそうの大企業応援です。
生産性の「分母対策」
骨太方針は「人口減少下で何より重要なことは、一人当たり生産性の向上である」とのべています。
労働生産性の向上とは、より少ない労働力でより多くの生産物を生み出すことです。やり方によっては、くらしを豊かにして、余暇を増やすことにもつながります。
しかし、いま起こっているのはまったく逆の事態です。低賃金の非正規雇用がまん延し、正社員の職場では異常な長時間労働がはびこっています。消費が冷え込み、売上高と生産が伸びないときに、当面の利益を増やすために大企業がいっせいに人件費の削減に走った結果です。生産量を分子に、労働投入量を分母にとる労働生産性の「分母対策」です。
自民・公明の与党に民主党も手を貸して労働法制の規制緩和を進め、財界の身勝手な「生産性向上」を加速させてきました。
骨太方針は、「生産性向上」策の柱に掲げる「労働市場改革」で、「ワーク・ライフ・バランス」を前面に押し出しています。
本来のワーク・ライフ・バランスは人間らしい生活を保障するために労働時間を短縮し、安心して働ける社会を実現するとりくみです。ところが日本の財界にかかると、「ワーク・ライフ・バランスの実現には、…ホワイトカラー・エグゼンプションを導入すべき」だと、「残業代ゼロ」「過労死促進」制度を導入する口実に化けてしまいます。安倍首相もワーク・ライフ・バランスのために、ホワイトカラー・エグゼンプションが必要だと説明してきました。
骨太方針では参院選向けに表現をあいまいにしていますが、「労働市場改革」の狙いは財界が主張している「労働ビッグバン」の実行です。「残業代ゼロ」制度だけでなく、「偽装請負」の合法化や不当解雇をわずかなカネで正当化する制度など、労働法制のいっそうの規制緩和です。
家計消費が冷え込むもとで「分母対策」の拡大を進めれば、家計消費をさらに委縮させ、くらしの悪化と労働条件悪化の悪循環を一段と深刻にせざるを得ません。
個別企業にとっては利益を増やす合理的な行動に見えても、全体がとりかかれば不況促進の運動に転化します。やがて、個々の大企業の売り上げも減ってしまう、日本市場で現実にトヨタが陥っている「合成の誤謬(ごびゅう)」にほかなりません。
消費税増税、財界減税
骨太方針は税制でも「財界言いなり」を貫いています。参院選後、今年度中を目途に消費税を増税し、所得税の各種控除の見直し、法人実効税率の引き下げを実現させていく文言を盛り込みました。
目先の利益に目がくらんだ財界の要求に従っている限り、貧困と格差をただして悪循環から脱出することはできません。
財界言いなりをやめ、大企業優遇から国民のくらし第一の経済政策・経済ルールに切り替えることが、ますます切実になっています。
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