2007年7月2日(月)「しんぶん赤旗」
被爆者を傷つけた
久間防衛相の原爆投下での暴言
長崎・広島から抗議
市民集会で怒りの声
久間章生防衛相の、原爆投下は「しょうがない」という暴言にたいし、久間氏選出の地元・長崎県では被爆者や「核兵器廃絶」を願う県民から怒りの声があがっています。
長崎への原爆が投下された爆心地そばの「原爆資料館ホール」で一日午後、開かれた「市民がつくる―平和大集会」(主催・実行委員会)。「この世の中から核兵器をなくそう」「原爆被爆や戦争の体験を若い世代に伝えよう」という願いで十九回目を迎えました。
主催者を代表して、あいさつした葛西よう子さんは「核兵器という非人道的なものを『しょうがない』というのは、世界の流れに逆行し、被爆者を傷つけ、核兵器廃絶という私たちの願いにそむくもの。しかも長崎県出身。ナガサキの願いを政府に伝えるべき人なのに。発言を撤回しても、悲しみと衝撃は消えない」と訴えました。
会場には約三百人が参加。「高校生一万人署名活動実行委員会」のOBで、筑波大大学院生(22)は「『しかたない』発言は、どう考えてもおかしい。長崎出身の議員がいうのは許せないし、信じられないという思いです。久間氏は自分のことしか考えない政治家で、原爆のこと、被爆のことを重要視していない本音が見えた」。
「あの瞬間に七万人が死んだんです。それを『しょうがない』と済ます。腹がたってしょうがない」というのは、被爆者で、「長崎の証言の会」代表委員の廣瀬方人氏(77)。「原爆投下前後の歴史認識が低レベルでがっかりしました。被爆県長崎、被爆国日本の大臣として許せない。責任をとってやめてほしい」
三歳のとき爆心地から三・四キロの地点で被爆して、現在「平和案内人」活動の代表を務める田中安次郎氏(64)は、「被爆者の心を踏みにじる発言で悲しい。長崎県民の代表かと思うと、恥ずかしい。原爆は無差別大量破壊兵器でしょう。それを『しかたがない』と。暴言をかばう安倍首相の姿勢も大問題だと思う。参院選はちょうどいい審判の機会にしたい」。
「閣僚やめよ」共産党が訴え
爆心地近くで緊急の街頭演説
日本共産党長崎県委員会は一日、長崎市内で久間防衛相の暴言にたいし抗議し、辞任を求める緊急の街頭演説をしました。爆心地に近く、投下された原爆の傷跡が残る浦上天主堂前では、ふちせ栄子参院選挙区候補と山下満昭県委員長がマイクを握りました。
ふちせ候補は、原爆投下は「しょうがない」とする発言は、「信じられない発言で、被爆地長崎から選出された国会議員として到底許すことができない」と厳しく糾弾。
「核兵器廃絶のために力をつくす県民の運動や世論への挑戦であり、即刻大臣をやめてもらいたい」と求めました。
ふちせ候補は、「核兵器廃絶の願いは、戦争はもう二度としない、平和が一番だという憲法九条と固く結びついています。迫る参院選で、九条守れの声、核兵器廃絶の願いをまっすぐにうけとめる日本共産党を伸ばして、久間暴言を許す安倍内閣への厳しい審判を」と呼びかけました。
県民は許さない演説会で批判
日本共産党の中林よし子元衆院議員と藤本さとし参院広島選挙区候補は一日、広島県府中市内で演説し、久間章生防衛相の原爆投下を「しょうがない」と発言した問題で「罷免しない安倍首相を許すわけにはいかない」と訴えました。
府中市文化センターで約五十人が参加した演説会で、中林氏は「アメリカ政府が核兵器を正当化して言うのと同じ立場での発言を、多くの被爆者や広島県民は絶対に許さない。アメリカ言いなりの安倍政権に、選挙で厳しい審判をくだそう」と呼びかけました。
被爆二世の藤本候補は「被爆者の命と願いが込められた平和憲法を変える本音が出た。党創立以来、命がけで反戦平和を貫いてきた『確かな野党』の日本共産党を」と支援を訴えました。
どんな理由であれ原爆を正当化できない
■核使用容認
一九四五年八月、一瞬のうちに広島、長崎の街を焼き尽くし、二十数万人の命を奪ったアメリカによる原爆投下。その後も被爆者の命と心、暮らしを脅かし続けてきました。「この世の地獄」ともいわれた悲惨な状況を目の当たりにして、日本国民は「原爆許すまじ」の思いを広げてきました。そして、広島、長崎を繰り返すな、人類のうえに二度と残虐な大量破壊兵器の使用を許さないという核兵器廃絶への願いとして結実してきました。
久間章生防衛相が「『あれで戦争が終わったんだ』という頭の整理で今しょうがないなと思っている」と発言したことは、この被爆国としての決意と核兵器廃絶への願いを二重三重に踏みにじる許しがたい暴言です。
久間発言のように「戦争を終わらせる」ためなら、原爆投下もしょうがないとするとしたら、なにか理由がありさえすれば大量破壊兵器の使用も許されるということにつながりかねません。
■国際法違反
しかし、一九四六年の国連総会第一号決議が「原子兵器の各国の軍備からの廃絶」を誓ったように、女性や子どもなど非戦闘員を無差別に殺戮(さつりく)した原爆投下は世界に衝撃を与え、大量破壊兵器の使用は許されないとの世論をつくってきました。一九九六年には国際司法裁判所(ハーグ)が「核兵器の威嚇または使用は、一般的に、武力紛争に適用される国際法、とりわけ人道の原則および規則に反する」として、核兵器使用を国際法違反との原則を示しました。
国際司法裁判所の意見では“一つの例外”として、「国家の存亡が危険にさらされている自衛の極端な状況」をあげましたが、アメリカによる日本への原爆投下がこの「例外」にもあたらないことは明白です。一九六三年の東京地裁判決が明確にのべているように、広島、長崎の原爆投下は「無防備都市に対する無差別爆撃として、当時の国際法からみて、違法な戦闘行為」であり、「戦争に際して不必要な苦痛を与える非人道的なものは、害敵手段として禁止される、という国際法上の原則にも違反する」のです。
久間氏は、アメリカが原爆投下した理由について「ソ連も出てくる可能性がある。ソ連とベルリンを分けたみたいになりかねない、ということから、日本が負けると分かっているのに、原爆を広島と長崎に落とした」などとものべ、「選択としてありうる」と理解を示しました。
アメリカ政府が当時から展開してきた正当化論―「原爆を保有し、その威力を示すことによって、ヨーロッパにおいてソ連を御しやすくする」(バーンズ国務長官)などと同列です。
しかし、どんな正当化論を出そうとも、原爆投下が許されないことは、広島、長崎の惨状がなによりも雄弁に物語っています。原爆投下時の米統合参謀本部議長で大統領首席補佐官だったレイヒ海軍大将でさえ「われわれは暗黒時代の野蛮人並みの倫理基準を選んだことになる」と、のちにのべたほどです。
■擁護の首相
それをもっとも承知し、発信していなければならない日本の政治家が正当化論に理解を示すなどということは、絶対に許されないことであり、「陳謝」ではすまされません。
「アメリカの考え方を紹介した」と擁護した安倍晋三首相の責任も重大です。
核兵器廃絶の長年にわたる運動の結果、核保有国でさえ「核廃絶の明確な約束」をせざるを得ない状況までもってきました。そのときに、原爆投下を「しょうがない」などと発言する政治家に被爆国日本の閣僚の資格はありません。(藤田健)
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