2007年7月5日(木)「しんぶん赤旗」

日本共産党はどういう政党か、
参議院選挙をどうたたかうか

外国特派員協会での志位委員長の講演

(大要)


 日本共産党の志位和夫委員長が三日、都内の外国特派員協会でおこなった講演と記者との一問一答の大要を紹介します。


写真

(写真)講演する志位和夫委員長=3日、日本外国特派員協会

 ご招待に感謝します。

 今日は、「日本共産党はどういう政党か、参議院選挙をどうたたかうか」というテーマでお話をさせていただきたいと思います。

久間発言――こういう人物を任命し、かばいつづけた首相の責任が問われる

 この間、久間防衛大臣が、長崎への原爆投下について「しょうがない」と発言したことがきびしい批判にさらされ、本日、辞任に追い込まれました。

 辞任は当然ですが、核兵器使用が場合によっては許されるとする「思想」をもった久間氏を、大臣に任命し、暴言の後もかばいつづけた安倍首相の責任が、きびしく問われなければなりません。

日本共産党の自己紹介――米誌『タイム』の特集記事にふれて

 まず、「日本共産党はどういう政党か」について、自己紹介をいたします。

 最近、『タイム』の電子版が、日本共産党の特集記事を書きました。その題名は、「共産主義は日本で活気にあふれ健在」という、私たちにとってうれしいものです。そこでは、「日本共産党はおそらく、アジアあるいは世界の中でもっとも成功している非政権党の共産党だろう」という研究者の言葉が紹介されています。この記事は、日本共産党のプロフィルをかなり的確に描いてくれています。

 第一は、党の歴史です。『タイム』の記事は、「(日本共産党の)この成功は、日本における同党の長い歴史に根ざしている」とのべ、戦前・戦中に、わが党が「日本軍国主義に反対してたたかった」こと、戦後、「モスクワからの独立性を常につらぬいた」ことに注目しています。過去の侵略戦争に命がけで反対をつらぬいたこと、旧ソ連によるチェコスロバキアやアフガニスタン侵略に象徴される覇権主義にきびしく反対し自主独立をつらぬいたことは、今日においてもわが党の生命力の重要な源泉となっています。

 第二は、草の根の力です。『タイム』の記事は、「日本共産党は、強い草の根の組織をもつ日本で唯一の政党だ」とする研究者の評価を紹介しています。わが党は、全国で四十万人の党員、二万四千の支部、百六十万人の「しんぶん赤旗」読者をもっています。三千百名をこえる地方議員を擁し、地方議会では自民党をこえて第一党となっています。全国二万四千の支部というと、全国の郵便局、小学校、保育園の数に匹敵する数になります。これだけの草の根のネットワークが、国民の利益のために活動していることは、わが党が最も誇りにするところであります。

 第三は、党の清潔さです。『タイム』の記事は、「共産党の政治家は、政府に打撃を与える金銭スキャンダルを繰り返し暴露してきた。彼らは、権力からあまりに遠く離れた場所に身をおいており、日本の政治につきものの汚職に染まっていない」とのべています。わが党は、企業・団体献金も政党助成金も受け取っていない唯一の政党です。この立場が、不正や腐敗にたいする最もきびしい批判者としての活動の土台にあります。

 第四は、日本の政党関係のなかでの日本共産党の位置についてです。『タイム』の記事は、「日本政界の大政党は、明確で一貫したアイデンティティーを持っておらず、識別できるような政治的な立場の違いはほとんどない」、「日本共産党はしばしば、日本の旧態依然たる政治への唯一の真の反対者としての役割を果たしている」とのべ、ここにわが党の生命力の一つの源泉を見いだしています。この指摘は的を射たものです。

 「新自由主義」にたった経済政策でも、憲法九条改定でも、自民党と民主党に「政治的な立場の違いはほとんどない」もとで、自民党政治の根本的な改革の立場をもつ「唯一の真の反対者」――「たしかな野党」としての日本共産党の役割がいよいよ必要とされている情勢が展開していると、私たちは考えています。

「消えた年金」問題――わが党の提案が国政を一歩前に動かしつつある

 つぎに参議院選挙をたたかう基本姿勢についてのべます。

 わが党は、この選挙で、「消えた年金」問題の解決をはかるとともに、政治的争点としては「ストップ貧困、憲法九条を守る」――この願いをこぞって「たしかな野党」・日本共産党へということを、正面にかかげて奮闘します。

 「消えた年金」問題は、選挙戦の重要な課題ですが、ここで問われているのは、政治路線以前の問題です。あまりに年金の管理がずさんだった――政府の国政運営能力、管理能力にたいしてきびしい批判が集中しているのです。

 ですから日本共産党は、そうした問題の性格にふさわしい対応をしてきました。

 すなわち、こうした事態を招いた歴代政府・厚生労働大臣の政治責任を批判しつつ、党利党略でなく、国民の利益第一で、与野党が知恵を出し合い、協力して解決すべきだと主張してきました。「一人の被害者も残さない」、「一日も早く解決する」、この二つを原則にして、国の責任において解決するための具体的な提案をしてきました。

 いまただちにおこなうべきは、現在政府が把握している年金納付記録を、一億人の国民に通知するということです。こうすれば年金記録がつながっている人は安心できます。問題があれば是正を求めることができます。これは「消えた年金」問題の解決の促進にもなります。

 わが党の提起にたいして、自民党幹事長も、厚生労働大臣も、その合理性を認め、実施を約束しました。国政を一歩ではありますが、前に動かしたことは重要です。

 ただ実施の時期が問題です。政府は「実施は来年度」といいますが、それでは遅すぎます。ただちにこれにとりくむことを求めるものです。

「ストップ貧困」――三つの転換を訴えて選挙をたたかう

 政治的争点としては、まず「ストップ貧困」が大争点です。わが国では、この数年、格差拡大が社会問題になってきましたが、その本質は貧困の拡大にあります。

 世界第二の経済力をもつといわれるこの日本で、「難民」という言葉が、あちこちで生まれています。

 高すぎる医療保険料が払えず、保険証をとりあげられ、公的医療から排除される「医療難民」が増大しています。車いすや介護ベッドをとりあげられ、高すぎる老人ホームの費用が払えず、公的介護から排除される「介護難民」が急増しています。必死に働いてもアパートを借りることができず、ネットカフェで寝泊まりする「ネットカフェ難民」が社会問題になっています。

 日本共産党は、「ストップ貧困」をかかげ、貧困で苦しむ人々を救い、貧困をなくすために、つぎの三つの転換を訴えて選挙をたたかいます。

 第一に、庶民への住民税増税や消費税増税を中止させます。「庶民に増税、大企業に減税」という「逆立ち」した税制のあり方をただします。

 第二に、社会保障では、国の責任において、国民健康保険、介護保険、子どもの医療、障害者福祉、生活保護や母子家庭への支援について、国民負担の軽減にとりくみます。

 第三に、雇用問題では、「サービス残業」「偽装請負」などの無法をなくし、派遣・パートへの差別をなくし、最低賃金を時給千円を目標に抜本的に引き上げます。

 これにとりくむためには、異常な大企業中心主義の経済政策の転換が必要です。貧困打開の方策をしめし、国民の「命綱」の役割を果たせるのは、日本共産党だけです。

憲法9条を守る――安倍「靖国」派内閣の暴走をストップする一番たしかな力

 憲法問題も、大争点の一つです。

 安倍首相が、年金問題などの逆風にさらされていることから、憲法問題を軽く見るむきもあります。しかし、自民党の「マニフェスト」の「155の約束」の筆頭には、「三年後の国会で憲法改定を発議し、国民投票にかける」ことが明記されています。その危険性はいささかも軽視できません。

 標的とされているのは憲法九条です。九条を取り払い、「米国と肩を並べて戦争をする国」をつくる。これが安倍首相のプログラムです。

 この問題を、いっそう深刻にする事態が引き起こされています。それは、憲法改定を推進する勢力の中心に、「靖国」派――過去の日本の侵略戦争を、「アジア解放の戦争」「自存自衛の戦争」と賛美する勢力が、すわったことです。

 安倍首相は、政治家としての一歩を歩みはじめた当初から、「靖国」派のなかでも突出した右翼的立場で名をあげてきた人物です。彼は、首相に就任して以降、首相という公的立場に拘束され、多少の軌道修正をおこないましたが、本音は変わりません。それは三月の「従軍慰安婦」問題での「強制連行はなかった」という発言にも示されました。

 六月二十六日に米国下院外交委員会で、「従軍慰安婦」問題で日本政府に公式の謝罪を求める決議が採択されました。この問題については、旧日本軍による強制と関与の事実を認めた一九九三年の「河野談話」が、日本政府の見解とされてきました。しかし、「河野談話」は、安倍首相自身の言動によっても、ワシントン・ポストの意見広告にみられるような日本の「靖国」派の言動によっても、繰り返し蹂躙(じゅうりん)されてきました。

 そこで私は、この場で提起したい。この問題での国際社会の批判と疑念を解くためには、日本国首相として、公的な資格での公式の声明として、歴史的事実を受け入れ、謝罪をおこなうことが必要であります。

 過去の戦争に反省のない勢力――戦争の是非の判断もつかない勢力が、憲法を変えて、武力で海外に打って出る。こんな危険はありません。

 安倍・「靖国」派内閣の憲法改定の暴走をストップするうえで、八十五年の歴史をつうじて反戦平和をつらぬいた日本共産党の議席が増えることが、一番たしかな力になることを訴えて、選挙戦をたたかいたいと決意しています。

 ご清聴ありがとうございました。(拍手)


記者団との一問一答から(大要)

真剣に政治的選択を模索する広い有権者に働きかける

 ――連立政権が今度の参議院議員選挙で過半数を割る可能性はありますか。

 志位 選挙結果は、予測しがたいものがあります。ただ安倍内閣が、深刻な政治危機に直面していることは間違いありません。年金問題、庶民増税、「従軍慰安婦」問題、連続する閣僚のスキャンダルや暴言などをめぐって、この首相の政権担当能力への根底からの疑問符が、国民からつきつけられています。いま大規模な自民党からの支持離れがおこっていることは間違いありません。

 同時に、民主党が、安倍内閣に対抗する政治の旗印を立てられないでいることも事実です。たとえば、庶民増税に反対する旗印が立てられません。憲法問題は、一言も「マニフェスト」に出てきません。憲法改定では同じ路線だからです。「靖国」派を党内に抱えていることでも、自民党と共通しています。ワシントン・ポストの意見広告には、自民党議員とともに、十三名の民主党議員が名を連ねました。

 いま、日本の有権者は、自民党に愛想をつかしながらも、政治的選択を真剣に模索しているところだと思います。さきに紹介した『タイム』の記事は、「ますます洗練されてきている日本の有権者が意味ある政治的選択を探し求めている」とのべています。「政治的選択を探し求めている」広い有権者のなかで、日本共産党が安倍・自公政権への真の対決者として前進をかちとることが、政治を変える一番たしかな道だということを訴えぬいていきたいと思います。

いま「たしかな野党」の役割を果たすことが、未来の「たしかな与党」の道を開く

 ――共産党が現実政治のなかでもっと力を持つために、選挙後に連立政権への参加について合意することがありえますか。

 志位 この選挙のあとに、私たちが政権に参加したり、協力したりする条件はありません。自民党との協力はもちろんありえませんが、民主党とも政権協力をおこなう条件はありません。さきほど、「ストップ貧困、九条を守る」といいましたが、私たちはどういう選挙結果になっても、この立場で「たしかな野党」としての役割を果たします。

 ただ、私たちはいつまでも野党でいるつもりはありません。二十一世紀の早い時期に、アメリカへの異常な従属をただす、異常な財界中心の政治を変革する、「国民が主人公」の民主連合政府をつくることを目標としています。ただ、それをいま目標にするのは、ちょっと早すぎます。私たちは、いま「たしかな野党」としての役割を果たすことが、未来の「たしかな与党」になる大道だと信じ、力をつくします。

わが党の前進は、相手の攻撃を一つひとつ打破してこそ開かれる

 ――日本社会の草の根に大きな勢力を持つ「たしかな野党」なのに、なぜ選挙でもっと伸びないのですか。

 志位 私たちの、国政選挙における成績には、かなりのジグザグがあります。

 現在の綱領の原型にあたる綱領を決めて以降の最初の躍進は、一九七〇年代のことでした。このときは、国政選挙で約六百万票を得ました。しかし、それにたいして猛烈な反共キャンペーンがおこなわれました。われわれは後退しました。

 二度目の躍進のピークは一九九〇年代後半です。このときには、約八百万票の得票を得ました。それにたいして、さらに激しい反共のキャンペーンがおこなわれました。日本共産党を締め出すために、「二大政党」という枠組みづくりもおこなわれています。つまり、自民、民主のどちらかのみの選択を国民に強要し、日本共産党をカヤの外においてしまうという新しい反共シフトです。そのもとで、数回の国政選挙では後退を強いられました。ただ、二〇〇五年の総選挙では、約五百万票まで押し戻し、現有議席を確保しました。

 日本共産党は、日本社会を根本から改革しようという志をもつ政党です。ですから、私たちが前進すれば、必ずそれに対する攻撃がおこります。わが党の前進はたんたんとすすむものではなく、相手の攻撃を一つひとつ打ち破って前途を開く、ジグザグな過程を経ざるをえません。

 ただ歴史は無駄に流れていません。一九七〇年代には六百万票、九〇年代には八百万票がピークでした。つぎのピークは一千万票ぐらいを目指す意気込みでのぞみたい。今度の参院選の目標は六百五十万票ですが、それを達成し、つぎなるピークへの新たな第一歩にしたいと決意しています。

軍事同盟をなくし、地域の平和共同体の一員に

 ――日米安保条約を廃棄したら、日本の安全保障はどうなるのでしょうか。憲法九条はどのような役割を果たしますか。

 志位 いま世界で軍事同盟は、全体としてみれば解体・弱体化の方向をたどっています。

 たとえば、SEATO(東南アジア集団防衛条約)は解体しました。CENTO(中央条約)もなくなりました。ワルシャワ条約機構もなくなりました。リオ条約(米州相互援助条約)についても機能停止といっていいと思います。ANZUS(太平洋安全保障条約)もニュージーランドが離脱し、三国同盟の機能は停止しています。NATO(北大西洋条約機構)は東欧に拡大する傾向にありますが、イラク戦争では分裂しました。フランス、ドイツ、ベルギー、カナダなど主要な国々が、イラク戦争反対の立場をとり、NATOとしての共同行動はとれませんでした。いま世界を見渡して、軍事同盟の機能がこんなにも強化されているのは、日米同盟が際立っていると思います。

 日米軍事同盟をなくしたあとの安全保障について、私はこう答えたいと思います。日本は平和の地域共同体の形成に貢献し、その一員として平和と安定を確保すると。

 すでに東南アジアでは、ASEAN(東南アジア諸国連合)十カ国が中心となってTAC(東南アジア友好協力条約)という平和の大きな流れがつくられています。TACには、中国、ロシア、インド、パキスタン、日本、韓国などの国も参加しています。これは、紛争問題を国連憲章にのっとって平和的・外交的に解決するという、広大な平和の地域共同体として成長しつつあります。同じような平和の地域共同体は、アフリカではAU(アフリカ連合)という形でつくられています。ラテンアメリカでは南米諸国共同体がつくられています。

 私は、いま世界を大きくみると、「アライアンス」(軍事同盟)から、「コミュニティー」(平和の地域共同体)への巨大な変化が起こっていると考えます。

 北東アジア地域は、その点では遅れた地域です。しかし、私は希望をもっています。六カ国協議が成功すれば、これが北東アジアでの地域の平和共同体の枠組みになる可能性をはらんでいます。

 軍事同盟は、必ず仮想敵を外部に求めます。これは時代遅れの考えです。地域の平和共同体は、外部に敵を求めません。内部にも盟主がいません。日本は、そういう地域共同体の一員となり、外交的手段によって安全保障を達成するということを構想すべきではないでしょうか。憲法九条はそのために最良の指針となるはずです。

 もちろん私たちは、アメリカとの関係で敵対を望んでいるわけでは決してありません。私は、反米主義者ではありません。アメリカとの関係では、軍事同盟にかえて日米友好条約を締結することを私たちは主張しています。これは、アメリカの独立革命の精神に共通するものではないでしょうか。トマス・ペインが「コモンセンス」のなかで、軍事同盟こそがアメリカを無用な戦争に巻き込むものだときびしく批判したのは、たいへん印象深い、またすばらしい言葉です。

過去の過ちに真摯に向かいあい間違いを正面から認めてこそ

 ――東条英機の孫娘の東条由布子氏が立候補表明し、本日二時間前にここで発言しましたが、彼女は愛国的でしょうか。(笑い)

 志位 彼女が東条英機の孫であることに、罪があるわけではもちろんありません(笑い)。しかし、彼女の思想は、「靖国」派の思想そのものです。

 私は、真の愛国者というのは、その国の過去の過ちに正面から向かい合える、そういう人間だと考えています。ドイツは、国民的討論をへて、それをなしとげました。そのことを通じて、ドイツ人のなかには、自然に自国への誇りというものが生まれているのではないでしょうか。

 日本では、そういう取り組みが遅れています。過去の歴史は、後から作り変えたり、消しゴムで消したりすることはできません。しかし、それに真摯(しんし)に向かい合うことはできます。そして、その間違いを正面から認めることこそ、本当の勇気だと思います。そういう体験を国民が積み重ねるなかで、自然に日本という国が好きになるという感情も生まれてくるのではないかと、私は信じています。(拍手)


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