2007年7月30日(月)「しんぶん赤旗」
PTSD治療・補償が不十分
イラク・アフガン帰還兵
米政府を告訴 相次ぐ
【ワシントン=山崎伸治】イラク、アフガニスタンなどで負傷し帰還した米軍兵士が十分な治療や生活保障を受けていないことが大きな問題となるなか、帰還兵やその家族が米政府を相手取り、相次いで訴訟を起こしています。二十五日にはブッシュ大統領の諮問委員会が帰還兵支援制度の「根本的な転換」を提言。イラク戦争の長期化がもたらす深刻な事態が改めて浮き彫りとなっています。
帰還後も障害に苦しむ米兵らは二十三日、サンフランシスコの連邦地裁に、ニコルソン退役軍人長官、ゴンザレス司法長官ら米政府関係者八人を相手取って集団訴訟を起こしました。
訴状によると、退役軍人省はPTSD(心的外傷後ストレス障害)を訴える帰還兵に対し、派兵前からの個人的な障害だったとして補償を拒否。そのほかにも補償を申請しても、結果が出るまでに二年近くかかるなど、対応の問題点を指摘しています。
さらに二十六日には、イラク帰還兵の息子が自殺したのは、退役軍人省が精神的治療を拒否したためだとして、両親がニコルソン長官を相手取ってマサチューセッツ州スプリングフィールドの連邦地裁に訴訟を起こしました。
原告は反戦組織「声を上げる軍人家族の会」のルーシー夫妻。訴えによると帰還後、精神的に不安定になった息子のジェフリーさんへの治療を退役軍人病院が二度にわたって拒否。ジェフリーさんはその直後に自殺しました。父親のケビンさんは「退役軍人省のシステム全体を見直す必要がある」と訴訟に踏み切りました。
イラク戦争での犠牲者を調査し、インターネット上で公表している「イラク連合軍犠牲者総数」によると、アフガニスタンで六千二百十三人、イラクで二万六千五百五十八人の米兵が、戦争開始から七月二十八日までに負傷しています。
ところが負傷帰還兵に対する医療支援体制は不十分。たとえば米紙ロサンゼルス・タイムズによると全米に千四百カ所ある退役軍人病院のうち、PTSDの入院プログラムがあるのは二十七カ所にとどまっています。
こうしたなか今年二月、ワシントンのウォルター・リード陸軍病院が劣悪な環境のまま放置されていることを米紙ワシントン・ポストが暴露。対応を迫られたブッシュ大統領は三月、諮問委員会を設置しました。
第二次世界大戦の帰還兵でもあるボブ・ドール元上院議員とクリントン政権時のドナ・シャレーラ元厚生長官を責任者とした委員会は七月二十五日、大統領に結果を報告しました。PTSDや外傷性脳損傷(強い衝撃による脳のけが)の予防・治療に積極的な手立てをとることなど、六項目の改善を勧告しました。
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