2007年8月9日(木)「しんぶん赤旗」

東京大気汚染訴訟が正式和解

医療費助成を創設

提訴11年 公害対策の実施盛る


 東京都内のぜんそくなど慢性呼吸器疾患患者六百三十三人が、「疾患は自動車排ガスが原因だ」として、国、都、首都高速道路会社、ディーゼル自動車メーカー七社を相手取った東京大気汚染公害訴訟(一―六次)で八日、和解が東京高裁・地裁で成立しました。同訴訟は、原告百二十一人が亡くなるなか、一九九六年の一次提訴から十一年で全面解決しました。


 原告団の西順司団長は記者会見し、「救済制度の実現は、何物にも代え難い大きな峰を確保し、国が公害認定を打ち切ったことの間違いを実証した。制度のさらなる充実や国の救済制度の実施へ、新たなたたかいを進める」とのべました。

 和解条項で、都は都内全域で全年齢を対象にした自己負担なしの医療費助成制度を創設し、国と首都高、メーカーも財源を拠出します。ただ、助成対象はぜんそくのみで、公害健康被害補償法や都条例(十八歳未満)でも対象にしている慢性気管支炎と肺気腫を含んでおらず、制度も、都は五年後に見直す方針です。

 解決一時金として、メーカーは総額十二億円を原告側に支払います。

 さらに、国、都、首都高は公害対策を実施。国は、大気汚染物質の微小粒子(PM2・5)について検討会を設置し、環境基準の設定を含め検討します。都は幹線道路への植樹帯設置や大気観測体制の整備、自動車交通総量の削減、低公害車の普及促進をはかります。

 国側が和解協議で固執していた「環状道路の整備」は、和解条項に盛り込まれませんでした。

 和解条項では、和解の円滑な実施に向け、関係者が意見交換する連絡会を設けることを明記しました。

 この問題で日本共産党は、市田忠義書記局長が五月の参院環境委員会で、被害者を放置してきた国の姿勢を批判し、医療費助成に財源拠出する方向に踏み出すよう迫るなど、一貫して患者のたたかいを支援してきました。


解説

被害救済の礎築く

患者切り捨て策転換を

 提訴から十一年にわたった東京大気汚染公害訴訟。命をかけた原告らのたたかいによって、国、都、自動車メーカーなどが費用負担する新たな医療費救済制度や、PM(粒子状物質)2・5環境基準設定に道を開く公害防止対策を約束させた「和解」の成立は、公害裁判史上、画期的な礎を築くものとなりました。

 公害被害者を原因者の負担によって救済する道を開いた「公害健康被害補償法」(一九七三年制定)による被害者救済について、国は八八年に指定地域を解除して以降、新たな公害患者の認定をしていません。原告の四割を未認定の患者が占める東京大気汚染公害訴訟での和解成立は、指定地域解除などの逆流に抗し、全国的規模の公害被害者救済制度の確立を国に迫るものといえます。

 七〇年代の「四日市ぜんそく訴訟」に始まる全国各地の大気汚染公害裁判では、石油化学コンビナートなどが排出する大気汚染物質とぜんそくの因果関係を認めさせ、加害企業の「共同不法行為」が裁かれました。そして、被告企業に賠償を認める司法判断が定着してきました。

 一方で、財界と政府は、公害反対運動を「魔女狩り」(石原慎太郎環境庁長官=当時)と攻撃するなど「公害は終わった」キャンペーンを大々的に展開。環境庁(当時)が七六年に自動車排ガス規制を大幅後退させ、七八年には二酸化窒素の環境基準も三倍に緩和。八八年には公害健康被害補償法の指定地域も解除しました。

 しかし、大気汚染は工場からだけではありません。自動車排ガスに含まれる二酸化窒素や浮遊粒子状物質などの複合汚染による被害が深刻化し、自動車排ガス公害を裁くたたかいが大都市圏を中心に広がりました。

 道路公害対策を怠ってきた国、道路公団(当時)の責任を初めて認めさせた九五年の「西淀川大気汚染訴訟」判決(二―四次)につづき、川崎、尼崎、名古屋の各大気汚染訴訟で道路管理者の「不法行為」認定と画期的な「公害差し止め」判決が相次ぎました。大気汚染公害の「社会的責任」を問われた自動車メーカーは、米国向けには国内向けより三割もPM排出量の少ない車を製造する能力を持ちながら、国内では汚染をまき散らす車を売り続けました。今回の和解で自動車メーカーが出す解決金は十二億円、医療費拠出金三十三億円を含めると四十五億円です。大気汚染訴訟で加害被告企業に求められた支出額としては、西淀川訴訟での約四十億円を上回る過去最高となっています。

 遅きに失したとはいえ、国、都、自動車メーカーは実効性ある公害対策を真剣にとりくむことが求められています。(宇野龍彦)



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