2007年8月14日(火)「しんぶん赤旗」
主張
大気汚染訴訟
救済、被害根絶に責任果たせ
自動車排ガスが原因の大気汚染で、ぜんそくなどの呼吸器疾患を発病した患者が、国、都、自動車メーカーなどを相手どって起こした東京大気汚染公害訴訟で、和解が成立しました。自動車メーカーにも大気汚染の責任があることを認め、メーカーを含む汚染者の費用負担で医療費助成制度を創設するなど、画期的な前進といえる内容です。
提訴から十一年余、「子や孫に安心して吸える空気を」「患者への十分な救済制度を」と原告は命がけでたたかってきました。その願いを受け止め、国は本格的な被害者救済制度の実現、公害根絶に取り組み、国民の命を守る責任を果たすべきです。
通じぬ「公害は終わった」
「『公害はもう終わった』という政府の宣伝の誤りを公式に認めさせた」(和解後の報告集会、原告団長の西順司さん)―和解は、深刻な大気汚染が広がるもとで後退を重ねてきた公害行政の本格的な見直しを迫る、大きな意味を持ちます。
一九七〇年代に新潟水俣病など「四大公害訴訟」のたたかいと世論の広がりで勝ち取られた「公害健康被害補償法」は、不十分ながら公害被害者を企業など原因者の財源負担によって救済する制度でした。ところが、「公害は終わった」という財界の強力な巻き返しで同法は骨抜きにされ、国は八八年に指定地域を解除して以降、新たな公害病患者の認定をしていません。
未認定患者の置かれた状況はあまりにも過酷です。重い健康被害を受けながら放置され、人間的な生活をおくることも、十分な医療を受けることもできずにいます。せめて自己負担なしの医療費救済制度をつくることが、緊急の課題でした。
和解により、自動車メーカー、国、首都高速道路会社が一定額を都に拠出し、都が都内全域で年齢制限なく、ぜんそく患者に、自己負担なしの医療費助成制度を創設します。二十万人ともいわれる都内のぜんそく患者すべてが対象です。大気汚染被害の広範な救済に道を開くものです。
自動車排ガスによる健康被害は、東京都だけのことではありません。大都市圏を中心に、日本中に広がっています。その救済は、地方自治体まかせではできません。医療費とともに、障害補償費等の給付を含む抜本的な患者救済制度を、国の責任で実現することが、今後の課題です。
環境対策で、健康被害の原因となる微小粒子状物質の測定を全国ですすめ、新たな環境基準設置を検討するなどを国、都に約束させたこともきわめて重要な成果です。
国はおそくとも八〇年代前半には、ディーゼル車の微小粒子状物質による大気汚染の危険性と対策の必要性を認識していながら、必要な規制を見送りました。
国が、環境対策を後回しにしたことと被害者救済を切り捨ててきたこととは表裏一体の関係です。国民の健康より大企業のもうけを優先したこれまでの施策の誤りを認め、大本から改めなければなりません。
企業は誠実に取り組め
東京大気汚染公害訴訟は、トヨタなど自動車メーカー七社を初めて被告席に座らせ、「汚染原因者」としての責任を明確にすることを求めた裁判でした。企業の利潤追求のなかで生活・自然環境の人為的破壊がすすむ―この社会のゆがみを前向きにただしていく上で、大きな前進をみることができました。
企業は、重い社会的責任に立ち、被害者救済と環境対策に誠実に取り組むことが強く求められています。
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