2007年8月18日(土)「しんぶん赤旗」

世界株安招いた米の住宅ローン

“低信用者”に高金利 焦げ付き急増

投機的金融市場への警告


 世界中で株式市場の動揺が収まりません。米国で信用力の低い個人向け高金利型(サブプライム)住宅ローンの焦げ付きが増大したことから、欧米金融機関の経営が悪化し、信用不安により短期金利が急騰し、株価が急落しました。日米欧の金融当局も巻き込んだサブプライム・ローン問題を考えてみました。(北川俊文)


 今回の世界同時株安の直接のきっかけは、仏金融大手BNPパリバや独中堅銀行IKB産業銀行の傘下のファンドが米国内のサブプライム・ローン関連で損失を出し、金融機関への信頼が低下したことにありました。そのため、資金の貸し手が急減して短期金利が急騰し、金融銘柄を中心に株価も大幅急落しました。日米欧の金融当局は協調して、短期金融市場に何十兆円もの大量の資金を供給することで市場の沈静化に努めています。

 しかし、大本のサブプライム・ローンの焦げ付きが解決したわけではありません。むしろ問題が長期化するという見方さえあります。

 さらに、ローンの重圧で個人消費が細り、米国経済が減速し、世界経済も影響を受けるという懸念が強くなっています。

高金利のローン

 米国では一般に、証券や不動産などが資産運用の手段になっています。特に、この間の好景気の中では、「投資」目的の住宅需要が増え、「住宅バブル」の様相を呈しました。住宅の値上がりは個人消費を支えました。旺盛な住宅需要を促したのは住宅ローンでした。

 住宅ローン会社は融資の際、借り手の信用力(返済能力)を調査します。信用力が高いほど金利で優遇され、プライム(優遇)、オルトA、サブプライム(非優遇)の格付けがあります。オルトはオルタナティブ(代替)の略で、プライムでもサブプライムでもなく、その中間です。

 サブプライム・ローンの対象は、低所得者や、過去にローン返済を滞らせたり、自己破産したりした経歴がある人など、信用力が低いとされる人です。融資のリスク(危険)と引き換えに、金利が高く設定されます。初めの数年間は低金利で固定し、後に金利が大幅に上がる仕組みのローンが多いといいます。

 住宅市場が活況を呈する中で、米国の住宅ローン会社は、住宅の値上がりを前提にローンを増やしました。そして、二〇〇四年ごろから金利上昇でプライム・ローンの伸びが鈍ると、融資条件を緩和して、高金利のサブプライム・ローンを大幅に拡大しました。

各国に広く浸透

 さらに、膨らんだサブプライム・ローンは、債権を担保に証券化され、住宅ローン担保証券など債務担保証券として売り出されました。しかし、証券に姿を変えても、もともとの資産が不良債権になるリスクを含んだ高金利の債権ですから、当然、リスクの大きい金融商品にならざるを得ません。つまり、住宅ローン会社の融資リスクが証券購入者に転嫁されていったのです。

 金融市場は今、グローバル化(地球規模化)していると同時に、ヘッジファンド(投機的基金)の増大にみられるように投機化してもいます。

 高利回りの証券はヘッジファンドを中心に、各国の銀行や証券会社などに広く浸透しました。さらに、これらを購入しているヘッジファンドに投資している金融機関もあり、その広がりは予測がつきません。

 サブプライム・ローンをめぐる仕組みは、米国の住宅市場が活況を維持し、住宅が値上がりし続け、高金利のローンが返済され続けることが前提条件です。

 ところが、〇六年初めあたりから歯車が逆転を始めます。住宅市場が減速し、サブプライム・ローンの焦げ付きも急増しました。ローンの焦げ付きの増大で、ローン会社の経営が悪化し、住宅ローン担保証券など債務担保証券の価格や格付けが下落しました。

 当然、証券を購入したヘッジファンド、銀行や証券会社なども損失を出し、そうしたヘッジファンドなどに投資している金融機関も影響を受けました。

 日本でも、一部の証券会社や銀行がサブプライム・ローン関連で損失を出し、金融庁が調査に乗り出しています。大田弘子経済財政担当相も「実体経済にどう影響を与えるのか、少し長い目でもしっかり見ていかなくてはいけない」と指摘しています。

 サブプライム・ローンに端を発した今回の世界同時株安について、『動乱時代の経済と金融』の著者、今宮謙二・中央大学名誉教授は、「現在の世界の金融市場の投機的なあり方が限界に近づいているという警告と受け止めるべきだ」と述べています。

 大手金融機関におおもうけをさせるため安倍自・公内閣は、「貯蓄から投資へ」などとして“投機”をあおってさえいます。しかし、今の市場の混乱は、国民経済に大きな影響を持つ大銀行など金融機関の投機的取引を規制することこそ必要であることを示しています。


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