2007年8月26日(日)「しんぶん赤旗」
海上自衛隊 インド洋派兵5年9カ月
テロ根絶と無縁
これで「特措法」延長とは
十一月一日で期限切れを迎えるテロ特措法。政府・与党は破たんしたブッシュ米政権の先制攻撃戦略を支援するため、「テロとのたたかい」を口実に四回目の延長を狙っています。しかし、同法に基づく海上自衛隊のインド洋派兵は、テロ根絶には何ら役立っていません。(竹下岳)
縮小する給油活動
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二〇〇一年九月の米同時多発テロ事件を受け、翌十月に成立したテロ特措法は、米軍のアフガニスタンでの「対テロ」報復戦争への参戦法です。
海上自衛隊は〇一年十二月以来、同法に基づいてのべ六十一隻の艦船とのべ約一万一千人の人員を派兵、“テロ勢力の海上移動阻止”を掲げた「海上阻止行動」(MSO)に参加する米軍など五カ国の艦船に燃料や水、ヘリ燃料を提供しています。
中東を作戦区域とする米中央軍によると、海自はMSO全体の艦船用燃料の40%を提供しています。しかし、給油量はイラク戦争後の〇三年五月を境に急減し、現在は月あたり二千―三千キロリットルの水準で推移しています(グラフ)。米軍などの艦船数の減少とともに、米軍以外の艦船が小型化していることが理由です。
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自爆・誘拐ひん発も
MSOが縮小しているのは、「対テロ」で効果らしいものを挙げられないからです。
日本政府はMSOの成果として麻薬の押収などを挙げていますが、テロリストの拘束はいまだに報告されていません。また、防衛省が今月作成した資料によると、不審船舶に対する無線照会件数が〇四年の四万一千件から、〇六年には九千件に激減しています。MSO自体の存続が問われているのが実情なのです。
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しかも、海自がインド洋への派兵を続けた六年間を見ると、テロはむしろ拡大しているのが実態です。アフガニスタンでは米軍の「対テロ」戦争に参加する兵士の死者が増え続け(グラフ右)、自爆テロや外国人の誘拐も頻発しています。
今年三月の国連事務総長報告では、武装勢力タリバンなど「反乱勢力の規模が顕著に増加し、戦術および訓練も改善」していると指摘しています。
欧州や中東の親米国では、大規模なテロ事件が相次ぎました。テロの根絶ではなく、テロの温床を拡大し、国際的に拡散したのです。
それでも米国が日本などの派兵継続を執ように求めているのは、「世界の七十五カ国が『地球規模のテロとのたたかい』に協力している」という構図を維持し、ブッシュ戦略を正当化するためです。
パキスタンへの影響は?
米国は、アフガンの隣国、パキスタンへの影響を挙げてテロ特措法延長の必要性を訴えています。
シーファー駐日米大使は民主党の小沢一郎代表との会談の際、「日本が支援をやめたらパキスタンの活動は困難になる。パキスタンは活動に参加する唯一のイスラム教国だ」と述べました。
前出の防衛省資料によると、最近は米軍への給油が大幅に減少し、昨年十一月以降ではパキスタンが四割近くを占めています。しかし、パキスタンが派兵しているのは小型のフリゲート艦一隻のみ。本当に海自が給油しなければ活動が困難になるのか疑問です。
しかも、パキスタンは米国から圧力をかけられ、協力を強要された経緯があります。さらに、対米支援がきっかけで逆に国内のテロ勢力が増長し、現政権が危機的な状況に陥っています。
派兵能力習得の場
見過ごせないのは、ブッシュ政権の戦略が破たんしても、自衛隊はインド洋派兵を「海外派兵隊」化のテコとして利用し続けていることです。
本紙は海自が作成した「協力支援活動等実施報告」という資料を情報公開請求で入手しました。インド洋から帰国した海自部隊の司令官が作成する文書です。
昨年十二月に作成された同報告では、「百八十日の派遣期間中、各艦が全能発揮を維持した。これは、当部隊が海外長期展開能力を習得したことによるもの」「まもなく、国連平和維持活動等が自衛隊の本来任務となることから、当隊にとって時期(ママ)を得た大きな成果となった」とまとめています。
昨年十二月の「防衛省」法成立で自衛隊の海外派兵が本来任務化されたのを契機に、海外派兵能力の習得の場として位置付けていることが分かります。
〇一年以来、海自は最新鋭の大型補給艦二隻を配備し、すでにインド洋に派兵するなど、遠征能力も高めています。
国民には秘密主義
政府はこれまで、インド洋派兵で約二百二十億円の税金を投入してきました。しかし、納税者である国民には軍事機密を理由に、必要な情報を隠し続けています。
前出の「協力支援活動等実施報告」では、「米海軍等艦艇隻数の推移」というデータを、「他国等の間で相互の信頼に基づき保たれている正常な関係に悪影響を及ぼす」として黒塗りにしています。しかし、外務省ホームページでは「各国艦船の隻数の推移」を公表しています。
ほかにも、米軍が公表しているデータまで黒塗りにするなど、秘密主義が目立ちます。
「対テロ」戦争の大義が失われ、軍事的効果もなく、是非を判断する情報すら国民に提供しない――。これで「テロ特措法延長に賛成しろ」というのは、あまりにも国民を愚ろうしています。
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