2007年8月27日(月)「しんぶん赤旗」
主張
北九州市餓死事件
生存権さえ奪う公務員の犯罪
北九州市で生活保護行政をめぐり連続して起きている餓死事件に関連して、市民や弁護士が福祉事務所長を刑事告発しました。
憲法二五条のうたう生存権を保障する生活保護をめぐって、なぜ人々が命を落とす事件が起きるのか―。告発は、生活保護行政のありかたを根本から問うものといえます。
生活保護を打ち切られて
同市門司区の市営住宅で一人暮らしの男性が餓死し、変わり果てた姿で発見されたのは、昨年五月でした。同市で生活保護行政をめぐる餓死や自殺は、この件にとどまりません。この七月には同市小倉北区の男性が生活保護の「辞退届」を強要され、餓死しているのが見つかりました。
同市の生活保護行政の問題点を追及しつづけてきた「しんぶん赤旗」が、一連の取材を通じて痛感したのは、日本社会に広がる貧困の深刻さと命綱である生活保護制度の機能不全の実態でした。北九州市はその縮図です。自民・公明政権がすすめてきた雇用と社会保障破壊の「構造改革」路線の結末でした。
生活保護は、「日本国憲法二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的」(生活保護法第一条)にしています。国による生存権保障のための制度です。
生活保護法にもとづく行政が適切におこなわれるなら、「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法二五条)を享有できるはずです。「構造改革」によって失業、倒産、低賃金になどの犠牲にさらされても、生活保護がセーフティーネットとなるなら、餓死や経済苦による自殺という痛ましい事件はおこるはずがないのです。
なぜ生活保護が本来の役割を果たせなくなっているのか―。今回の刑事告発は、その原因に政府の生活保護切り捨てを背景にした、公務員の犯罪があることを暴き出しました。
告発の対象となった、生活保護の「辞退」を強要され、餓死した男性は、肝炎、糖尿病、高血圧などの病気で働けず、極度の生活困窮によって生活保護をうけていました。生活保護の継続を必要とする人に福祉事務所が辞退届の提出を働きかけることは許されません。ところが小倉北福祉事務所は「指導助言」に名をかりて辞退届を出させ、保護を廃止したのです。職権を乱用して受給権を奪ったことは明らかです。
当時男性は病気に加え、精神状態も不安で、保護を必要とする状態にありました。福祉事務所は、保護を廃止すれば餓死にいたることがわかっていながら廃止し、死に至らせました。まさに「生存に必要な保護をしな」かったため、死にいたったのです。行政、公務員の犯罪行為によって生活保護法が機能しませんでした。保護者責任遺棄による致死罪を犯していたことも明白です。
真相究明・責任明確化を
ことは人の命、社会保障の根幹にかかわることです。刑事告発を通じ、今回の事件の真相を解明し、責任を明確にすることは、最後の命綱である生活保護制度を本来の姿によみがえらせる契機にもなります。
いま「なくせ貧困」を求める市民の運動は全国に広がっています。生活保護行政に携わる自治体労働者も「人権を尊重する行政の確立を求める運動」を提唱しました。生存権を守る上で、市民と自治体労働者との連携は、大きな力になります。