2007年8月31日(金)「しんぶん赤旗」
特別扱い 同和事業を廃止した御代田町(長野)
“町 始まって以来の変化”
米長野県御代田町(みよたまち、人口約一万五千百人)では二月の町長選で、「解同」(部落解放同盟)いいなりの現職町長を破って、日本共産党町議だった茂木(もてき)祐司町長が誕生しました。新町長は就任直後に同和関係予算の支出をストップし、六月には同和事業の廃止を宣言しました。この半年の変化について、茂木町長、町民に話を聞きました。(山沢猛)
白菜やキャベツ、レタスの青々とした葉が夏日を浴びて、いくつもの畝をつくっています。その向こうに火山性の赤い山肌、長いすそ野を見せてそびえるのは、浅間山です。御代田は軽井沢町の隣、高原の町です。
国道をそれて、小高い畑地に出ると、通常の農家のビニールハウスの倍以上の体積がありそうなガラスばりの角張ったハウスがいくつも見えてきました。
「同和事業の特別扱いは多くあるけれど、これもその象徴の一つでした」と、日本共産党の市村ちえ子町議はいいます。「ガラス園芸ハウス」は、同和対策の共同園芸施設でした。旧町政が一棟三千万円かけて、二十五棟建設し(総額七億五千万円)、同和関係者に無料で貸し出しました。維持・管理費も町のお金でした。
日常的な圧力 脅しが職員に
「これは同和への特別扱いだ」という声が町民からでました。
結局、このガラスハウスは町が維持・管理費を支出できなくなり、利用者に無料で引き渡すことに。同和事業の特別扱い、むだ遣いの破たんを象徴するものでした。
御代田町には長年、「解同」御代田町協議会による町と職員にたいする日常的な圧力と脅しがまかり通り、こうした同和事業の特別扱いがたくさんありました(別項参照)。「解同」の圧力や脅迫にたいし、町がつねに妥協的な対応をしてきたために、多くの町職員が悩み、病気や退職に追い込まれ、昨年十月、ついに同和対策を担当していた課長の自殺という最悪の結果を招きました。
このとき「解同」町協議会書記長は町に提出した文書で、「職員の責任を果たさずに、死んだ時も迷惑をかけて誠に不愉快だ。町職員は、甘ったれ過ぎではないか」と、死者にむちを打ったのです。町議だった茂木さんは書記長のこの文書など職員への脅しの実態を独自に入手し、昨年十二月の議会で町長に詰め寄りました。
六月議会で、茂木町長は「同和対策の事業を基本的に終了させるための議案」の説明で、こうのべました。
住民の垣根を取り払って
「今回の同和事業の廃止は、これまで行政がつくり上げてしまった『一般町民』と『同和地区関係者』という垣根、壁を完全に取り払って、町の事業のあり方を根本的に正常化させる作業といえます」
旧同和地域の人もそうでない住民も、垣根、障害をとりはらって同じ町民として協力する、特別扱いの同和事業の廃止はまさに障害物を取り除くことでした。
長く役場につとめた元職員は、「茂木町政の誕生は、町はじまって以来の、ものすごい変化です」と話します。そして「触らぬ神にたたりなしという議員が多い中で、茂木議員は同和のでたらめを熱心に追及した。彼しかいなかった」と期待を語ります。
町長選での公約の計画的な実現を町民の声を聞きながらすすめる茂木町長にたいし、議会では一部議員から「独裁者」「うそつき」などの中傷が飛んでいます。同町馬瀬口にすむ男性(76)は「二年後には茂木町長を追い落とす」などという声が一部に聞こえるといいます。
「少数与党だから町長はやりづらいと思うけれど、町民のなかにも茂木町長を応援するという人が多くなってきた。さらに増やして、町長の改革をバックアップして支える体制をつくらなければ」といいます。
町の魅力、全国に発信
茂木祐司町長に聞く
思わぬ評価もらう
―二月の就任から半年になりましたが、この間の変化は。
先日、ある集まりで中堅企業の経営者の方から「すごいことをやりましたね。町が明るくなりました。御代田で起きたことは、ほかの市町村にも広がっていくでしょう」という、思わぬ評価をいただきました。
この間、定例議会が三月、六月の二回、そのあいだに臨時議会がありましたが、傍聴にのべ二百三十人も来ていただき、臨時の受け付けを用意するほどでした。
行政、議会に対する町民の関心、御代田ですすめる改革への期待が広がっていると感じました。
とにかく「安心した」というのが役場のなかの空気だと思います。「やっとまともに仕事ができる」という声も聞きました。前の町政では、四月の人事異動で同和対策課にだれが行かされるかでみな不安を感じていました。「あの課に回されるのなら役場をやめる」という声が聞かれ、実際、何人かの職員がやめ、昨年には担当課長が自殺をするという残念ないたましい事件も起きました。
同和対策事業があらゆる事業に優先し、でたらめな予算の支出が毎年くりかえされてきました。法律・条例を無視した事業、予算の支出が、町政のあらゆるところにゆがみを生んでいました。
私は就任直後この同和事業予算の執行をストップしました。職員には「同和対策の完全廃止には、私が前面に立って当たる、解同町協議会との対応は私がやるので、安心して仕事をしてほしい」と訓示しました。
六月議会で前年度予算比で四千五百万円の同和対策事業を廃止しましたが、これはお金の問題だけではありません。ゆがんだ町政を正して「普通の町」にする、職員は法律や条例にもとづいて行政を担う、そのための障害を取り除いたということです。これは同和問題にかぎらず、町を運営していく上で基本的な問題です。
「解同」町協は休止
―町と「解同」とのかかわりはなくなったのですね。
個々の地域に「解同」の支部はありますが、これまで幹部が先頭になって町に圧力、脅しをかけてきた「解同」御代田町協議会は休止し、いろいろ思惑があることでしょうが、事実上、解散しました。「人権」「差別解消」をいって行政や個人に圧力をかけながら、町から予算がいかなくなったことがわかると、活動を休止する。町民からは「彼らが『人権』の名で主張した同和事業とは、いったい何だったんだ」という声が聞かれます。
同和事業の廃止にあたってこれまでの町の支出をみたら、わけのわからない支出が次々と出てきました。
「屋根のない病院」
―こんごの町政の運営、町の発展については。
御代田町のよさを大いに全国に紹介していきたいですね。町が自慢できる魅力は、三つあります。
一つは、美しく豊かな自然環境のもとで住みよい町だということです。御代田町は最近「屋根のない病院」といわれています。都会から移り住んできた方々がおいしい水や新鮮な野菜、冷涼な気候、雄大な浅間山と森林などの自然環境によって、病気が治っていくという意味です。
二つは、子育てしやすい環境のもとで人口が増えている町だということです。子どもの生まれる割合を示す出生率も県内でトップクラスで、子どもの数も増えています。
三つには、精密部品の製造、高原野菜の有数の産地であるなど地域経済の柱が比較的しっかりしている町だということです。長野県内の製造業の売り上げベスト七十に町の企業が四つ入っています。
こうした町の魅力、特性を大いに全国に発信していきたいと考えています。
この半年で、同和事業廃止に加えて、町長、副町長、教育長の給与を前町長のときより、20%削減しました(条例の規定からみると30%減)。これによって約六百万円の財源を生み出しました。周囲に水道の水源や湧水(ゆうすい)がある浅間山ろくのごみ焼却場の建設計画は見直し作業をすすめています。
町長選で公約した、県内でも最も高い国民健康保険税の引き下げ、保育料の引き下げ、県内最低水準にあった子どもの医療費無料化の充実については、今年度十分調査・研究して、来年度実施していくことを、六月議会でも表明しました。
町民の願いをもとに、町民とともに、「普通の町」づくりへとさらに前進していく決意です。
同和事業の廃止・見直しで4500万円の削減
■「解同」町協議会に年間600万円の補助金
何に使ったか明らかになっていない
■「解同」書記長の海外旅行に14年間で1100万円支出
旅費の精算が旅行会社の「見積書」という不正常な会計処理だった
■返済する必要のない同和の奨学金
所得の高い人にも、大学生4万円、専門学校生2万円、高校生1万円を毎月支給していた
■下水道工事には50万円の補助金
同和関係者の下水道工事に最高で50万円を補助したが、返済の必要がなかった
■住宅新改築のための資金貸付事業の滞納が1億円に
同和関係者の住宅のための貸付の滞納がふくらみ、貸付の契約書には滞納の延滞金が明記されていたが、旧町政は請求さえせず。茂木町政になって返済額が改善