2007年10月29日(月)「しんぶん赤旗」
ゆうPress
若者に仕事を
体験「ネットカフェ難民」
せまい・明るい・うるさい・空腹感…眠れない
「苦行にあっているようでした」。ネットカフェで1週間寝泊まり体験をした福島市の田中智さん(27)は、実感込めてそう語りました。60歳になった記者も3晩だけお付き合い。「聞きしにまさる苦行」を若者と共有してみました。(菅野尚夫)
「現代の貧困を象徴する“ネットカフェ難民”を実際に体験してみたらどうだろう」。日本共産党福島県委員会、民青同盟福島県委員会、日本共産党といっしょに日本をかえるネットワークふくしまの3者が共催する「日本共産党綱領を語るつどい どうなる?どうする?これからの日本」(11月4日、福島市民会館)の企画会議で、田中さんがプレ企画として提案しました。
10月13日から19日まで、「ネットカフェナイトパック」(1泊1500円)に6泊し、食費を1日あたり500円から700円に限定して生活する企画です。「それはいいね。やりましょう」とはなったものの、名乗り出る人はいません。「企画倒れにしたくない」とやむなく、田中さんが“難民体験”をすることになりました。
■ほぼ満席
13日夜、記者はJR福島駅で田中さんらと落ち合いました。午前0時、仮の“ネットカフェ難民”になりました。
福島県内には24のネットカフェがあります。入った店は県内でも大きく料金が安い。土曜日の夜とあって、約60の個室がほぼ満席です。この中に“ネットカフェ難民”は、いるのでしょうか?
店長は、「私たちは“ネットカフェ難民”とは言っていません。『常連さん』のことですね。そういう人はいます。どなたかは言えません」。
田中さんが開設したブログの書き出しは―。
「『せまい』『明るい』。寝ることを前提に考えているので、どちらもネガティブファクター」
「眠ろう」と焦るものの、眠れません。寝返りもできない狭さ。「布団に入ると1分もしないうちにすぐに寝られるタイプなんですがだめです。予想外です」と田中さん。ネットで時間をつぶします。
入室してから3時間。ココア2杯、ワカメスープ1杯を飲んだものの空腹感は収まらず「胃がムカムカ」するばかり。
毛布を頭からかぶりますが、耳障りのするBGM。まわりのいびきなどが眠りを妨げます。
午前7時。「もうすぐモーニングサービス。トーストが食べられる」と田中さん。午前8時チェックアウト。
■孤独地獄
同じネットカフェに泊まっていた40代後半の男性は、「大手企業の正社員でしたが、上司とトラブって辞めました。ネットカフェは時々利用します。若者の“難民”はいますよ」といいます。
男性は、県内のマクドナルドや24時間営業の定食屋に深夜滞在している若者がいることを話してくれました。「私は難民ではない」というこの男性とはたびたび店内で出会うことになります。
厚生労働省が8月28日に発表した、全国の“ネットカフェ難民”は5400人。そのうち非正規労働者は約2700人、正社員300人、失業者1300人、無業者900人です。東京では1カ月の平均収入が10万7000円。食費代は2万5000円から2万9000円。1日833円から966円です。
“難民体験”が終わった朝、田中さんはいいました。
「僕は、体験が終われば、体を目いっぱい伸ばして眠れる部屋があるという、気持ちの逃げ場がありました。本当の難民は、日雇い派遣で収入がたたれたら、ネットカフェにも来られないという不安が常に付きまといます。毎日が拷問だと思います。家も、仲間もなく社会と断絶している孤独地獄が最も苦痛なんだと思いました」
60歳記者へとへと
「年寄りの冷や水。やめとけ」。周囲の忠告を無視しての体験取材。疲労回復まで1週間以上かかりましたが、現在の若者の背負っている「貧困」の深刻さを垣間見ることができました。
田中さんの体験日誌
13日(土) 初日。朝食は「朝マック」370円。「安く上がった」と思うところですが、700円の半分以上と思うと気がふさぎます。
14日(日) 「安い」と街でうわさのうどん屋さんへ。「かけうどん(中)とり天のせ」284円。無料の天かすなどをしこたまかけ、豪勢?
15日(月) 久しぶりに睡眠状態に入った感じ。館内掃除の日なのか、朝7時から大きな掃除機が「グオー」。7時半、仕事場に向かう時間。ネットカフェからの初出勤です。
16日(火) モーニングサービスの食パンが黒焦げに。もちろん食べました。昨夜の夕食は「豚丼」。けんちん汁を付けて500円。
17日(水) 寒さがこたえました。からだをしっかり休めるには、時間も質も不十分。
18日(木) 見た目には普通に勤務していますが、するべきことが意識にまとまってこない感じ。これが続いたら給料もらえないなあ。
19日(金) 注意力が散漫になり、系統的に課題にとりくむ思考力がなくなりました。利用者は「透明人間」同士のようにすれ違って交流が生まれません。人間らしい連帯から取り残された場所だと実感しました。
【ネットカフェ難民が住居を失った理由】―東京の集計
・仕事を辞め家賃など払えなくなったため32.6%
・仕事を辞め寮や住み込み先を出たため20.1%
・家族との関係が悪く、「住居」を出たため13.8%
・借金などのトラブルがあったため5.4%
・家族との関係ではないが、「住居」を出たかったため4.5%
・友人などと同居していたが、居づらくなったため3.1%
・仕事は続けているが家賃など払えなくなったため2.2%
・その他11.2%
・無回答7.1%
【寝泊まりでネットカフェ以外によく利用する場所】―東京の集計
・路上(公園、河川敷、道路、駅などの施設)29.5%
・ファストフード店23.7%
・サウナ23.2%
・カプセルホテル16.1%
・友人の家など7.6%
・簡易宿泊所(ドヤ)3.1%
・カラオケ店3.1%
・ビジネスホテル、旅館2.7%
・その他の飲食店0.9%
・夜は起きていて昼に図書館などで寝る0.4%
・その他6.3%
・ネットカフェ以外にはない4.0%
(厚労省調べ。複数回答あり)
お悩みHunter
派遣から正社員への誘いを受けたけど…
Q 夜間大学に通いながら、昼間は派遣でデパートに勤めています。派遣先から「正社員にならないか」と誘いを受けています。正社員になるほど好きな仕事ではないのですが、ほかに就職のあてもありません。生活のために正社員になるのか、新しい勤め先を探すか悩んでいます。(26歳、男性)
チャンス生かしてみては
A 昼はお勤め、夜は大学でお勉強。大変にハードな生活を過ごされていることとお察しします。あなたのそのエネルギーはどこから来るのでしょうか? あなたのエネルギーのみなもとはなんですか? それが分かれば、おのずと答えが出ると、私は思います。
あなたのエネルギーのみなもとを大切に、あなたの今後の人生設計を考えていったらどうでしょうか。夜間大学での勉強や研究がおもしろいから、昼間はさほど好きではないデパート勤務もできるのでしょうか。正社員になるほど好きではない仕事であったとしても、派遣から正社員へのお誘いを受けたのですから、すごいことですし、喜ばしいことですよね。
もし、周りの人々が、あなたに向いているのはデパート勤務だといくら思っても、あなた自身が好きになれなければ、正社員になったとしてもつらいですよね。
では、なぜあなたは、正社員になるほど好きではない仕事を、派遣としてでもこれまで続けて来れたのですか? 仕事をしていてストレスを感じないからでしょうか、仕事仲間と気が合うからでしょうか、派遣だから気が楽だったのでしょうか。
正社員への誘いを受けることは一人の人間の人生において、あまり頻繁に起こる出来事ではないと思います。ならばこのチャンス一度は生かしてみてもよいかもしれませんね。
舞台女優 有馬 理恵さん
「肝っ玉お母とその子供達」など多くの作品に出演。水上勉作「釈迦内柩唄」はライフワーク。日本平和委員会理事。