2007年11月2日(金)「しんぶん赤旗」
主張
自衛隊撤退
政治的解決に力を注ぐ機会だ
テロ特措法が二日午前零時で失効し、インド洋で米艦船などに給油支援活動をおこなっていた海上自衛隊が撤退することになりました。
アメリカが日本に給油支援の継続を激しくせまるなかでの撤退です。海外に派兵された自衛隊が任務途中で撤退においこまれたのは、日米軍事同盟史上はじめてです。アメリカやそれに追随する日本政府の思い通りにことが進まない時代になったことを実感させる画期的なできごとです。政府にはこれを機会に戦争支援をやめ、問題の政治的解決のための外交とテロ根絶への民生支援に力を注ぐことが求められます。
戦争が復興支援の障害
六年間にわたるアメリカのアフガニスタン報復戦争の教訓は、“戦争ではテロをなくせない”ということです。戦争がもたらしたのは、テロと武力報復の悪循環であり、出口もみえない泥沼の事態です。
アフガニスタンで反政府勢力が勢いをもりかえし、自爆テロも激増するなど治安が最悪の状態になっている背景には、空爆や砲撃で多くの民間人を無差別に殺傷している米軍などへの恨みが広がっていることがあります。戦争を続ければ民間人の犠牲は増加し、恨みをさらに強めるだけです。それではアフガニスタン問題を解決することはできません。
国連事務総長は、戦闘が激化したため人道援助のための「国連機関の立ち入りが不可能」の地域さえ増えていると報告し、赤十字国際委員会も「人道援助団体は、主要都市以外では被害者への安全な接近をはかることがきわめて難しい」とまでいっています。日本国際ボランティアセンターも「人道復興支援の実施を困難にしている」といっています。戦争を続けていては事態の改善もテロの温床になっている貧困もなくすことなどできるはずがありません。
戦争で問題を解決できないことはもはや誰の目にもあきらかです。そのなかで軍事的解決から政治的解決への転換の動きがでているのは重要です。アフガニスタンのカルザイ大統領は反政府勢力のタリバンとの交渉にふみだしています。潘基文(パン・ギムン)国連事務総長も「政治的対話の推進」を呼びかけています。
福田康夫首相は、「人道支援や復興支援によって治安・テロ対策は代替できない」といいます。しかしこれは戦争が人道復興支援を妨害している現実をゆがめる本末転倒の議論です。日本が国際機関などを通じておこなっている人道復興支援を進めるうえでも、戦争をやめさせることが不可欠です。
日本政府は、戦争支援をやめ、アフガニスタンの「平和と和解のプロセス」を後押しする外交に力を注ぐべきです。同時に、貧困、飢餓、干ばつ、教育など民生支援を強め、テロの土壌を取り除くべきです。
憲法生かした役割こそ
自衛隊の撤退においこまれたにもかかわらず、政府・与党は新テロ特措法案を早期に成立させ、インド洋での米艦船などへの給油再開を狙っています。政府はアフガニスタンを空爆する米艦船であっても、海上阻止活動を任務とする限り給油は「問題ない」(町村信孝内閣官房長官)という態度です。武力行使と「一体化」した給油自体、憲法違反です。
アフガニスタンの事態打開とテロ根絶のために何が必要かのまともな探求もおこなわず、ひたすら戦争支援をめざすのでは憲法にもとづく役割ははたせません。アフガニスタン情勢の安定にとってもテロ根絶にとっても、有害・無益でしかない新テロ特措法案は廃案しかありません。
■関連キーワード