2007年12月6日(木)「しんぶん赤旗」

検証 放送法改定

政府介入の仕組み導入

衆院委 審議は2回 きょう採決


 放送法改定が、国会で与党と民主が合意し一気に推し進められようとしています。放送の政府からの独立や、言論の自由・多様性を掲げた現行放送法を崩そうとするものと、市民団体やジャーナリストらから声があがっています。放送法改定を検証します。


 放送の自主自律という放送法の根幹にかかわる改悪が、たった二回の審議で質疑終局となりました。四日の衆院総務委員会では、自民、民主、公明が共同提出した修正案を質疑。自民、民主の大連立の動きのもとで、修正案の合意に至ったものです。修正案は、わずか三時間の審議で六日に委員会採決という猛スピードです。

 傍聴席で審議を見守っていたNHK・OBの松原十朗さんは、「目の前で自公民の『出来レース』を見せられてしまった思いです。言論表現の自由に深くかかわる改悪が、こんなに簡単に決められていいのでしょうか」と怒りをあらわにします。

 改悪の中心は、NHK経営委員会の権限強化を軸にしたNHKのガバナンス(統治)強化です。

 「NHK改革」と称し、NHK職員の不祥事やETV番組への政治介入など国民の不信を逆手にとり、NHKに対する政府のコントロールを強めようとの動きが強まっていました。

 昨年、「規制改革・民間開放推進会議」は「公共放送の在り方の見直し」としてNHK事業の民間開放をうたい、竹中総務大臣(当時)の下での「通信・放送の在り方に関する懇談会」では、経営委員会の抜本的改革を提案。これらは、「通信・放送の在り方に関する政府与党合意」に反映されました。二〇一一年のデジタル化へ向かって公共放送NHKを解体していこうとするものです。その方針を法文上に規定し直したのが、今回の改悪です。

 最大の問題は、NHK経営委員会の権限強化の名の下に、行政がNHKの業務運営に間接介入する仕組みをしいたことです。経営委員会は、戦前のNHKが国策宣伝機関と化したことへの反省から、政府からの独立を保障する機関として設けられたものであり、今回の改悪は経営委員会本来の性格を百八十度変えるものです。

 一方、民放に対しては認定放送持株会社制度を導入し、言論の多様性、多元性をめざすマスメディアの集中排除原則に風穴をあけました。

 日本ジャーナリスト会議など七団体は二日、「原案修正でも行政介入の仕組みはなくなっていない」として、衆院総務委員にアピールを送付。「あくまで反対」と廃案を求めています。

政府与党の「NHK改革」

 「通信・放送の在り方に関する懇談会」、いわゆる竹中懇の最終報告(二〇〇六年六月六日)。冒頭にNHK経営委員会の抜本的改革を置き「監督の中核となるようにすべきである」として「一部委員の常勤化」を例示しています。

 「通信・放送の在り方に関する政府与党合意」(〇六年六月二十日)「NHKのガバナンス強化に向け、経営委員会の抜本的な改革を行うこととし、一部委員の常勤化」を定めています。


改定のポイント

経営委の監視色は濃く

 改定案の大きな特徴はNHKの「ガバナンス(統治)強化」を名目にした経営委員会の権限強化です。現行法は一四条で「次の事項は、経営委員会の議決を経なければならない」とし、「収支予算、事業計画及び資金計画」から始まる十三項目を挙げていました。改定案はそれを「経営委員会は次に掲げる職務を行う」としました。「議決」から「職務」へ変えました。政府案は職務の一として「次に掲げる事項の決定」とし十八項目を列挙しました。NHKのすべてを経営委員会が取り仕切る構成です。

 修正案は「事項の議決」としましたが、職務に「会長、副会長及び理事の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制」などを挙げ、職務の二として「役員の職務の執行の監督」と明記。全体としてNHKへの監視色の濃いものになっています。

監査委が日常業務点検

 経営委員会の権限をさらに強化するのが、経営委員会内への監査委員会の新設です。二三条は「監査委員は、経営委員会の委員の中から経営委員会が任命し、そのうち少なくとも一人以上は、常勤としなければならない。…監査委員はいつでも、役員及び職員に対し、その職務の執行に関する事項の報告を求め、協会の業務及び財産の状況の調査をできる」となっています。

 NHKの全職員と経営委員も監査の対象になります。経営委員会は月に二度開かれますが、「常勤」の監査委員は、毎日NHKに来て、役員や職員の職務を点検することになります。

 この三月、当の経営委員会が「常勤委員と非常勤委員との間で情報量の面で格差が生じ、合議機関である経営委員会の独立性と多様性を損なう懸念」という見解を発表しています。

 四日の衆院総務委員会で日本共産党の塩川鉄也議員は「たいへん強い権限をもつ経営委員を常勤として政府・与党が任命する仕組みになっている」と批判しました。

持株会社、キー局が支配

 民放に対して「認定放送持株会社」を新たに設けました。総務大臣の認定を受ければ、一社が複数の放送局を持つことが可能になります。

 現行の放送法は「放送をすることができる機会をできるだけ多くの者に対し確保する」(二条の二)として、「マスメディア集中排除原則」を定め、一社が一つの局しか経営支配できないことになっています。情報の独占や画一化を避け、放送の多様性、地域性を保障するためです。具体的には、他社の株式の保有を一定の割合以下に制限していました。

 地上デジタル化への投資の増大でローカル局の経営が悪化しています。これを口実に「グループ全体の資金調達を円滑に行う」ためとしています。政府与党合意は「マスメディア集中排除原則の緩和」を掲げ、放送を産業として東京キー局の支配を強めようとしています。


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