2007年12月20日(木)「しんぶん赤旗」

続・ハケン集う駅

追跡グッドウィルの日雇い


毎朝バスで1000人

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 「千葉県のJR西船橋駅前には毎日早朝、日雇い派遣労働者がざっと千人集合する」

 十一月中旬、大手派遣会社グッドウィルの日雇い派遣労働者の男性から、編集局に通報がありました。

 十一月下旬から十二月上旬にかけて、同駅前に数回いってみました。

●「クズだ」と

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(写真)バスに乗り込む日雇い派遣労働者ら=11月30日、千葉県船橋市

 午前七時。あいにくの小雨交じりの寒空。同駅南口から一本離れた道路のわきの各所に、ジャンバーとジーパンを着て、携帯電話を持った労働者が数十人ずつ集まります。

 しばらくするとバスが到着、労働者を乗せて午前八時前後に次々と出発していきます。バスの運転手は「派遣先の会社と契約し、派遣労働者を乗せている」と話します。

 出発するバスは、のべ二十数台。確かに集まった日雇い派遣労働者は、合わせて千人に達する規模です。

 バスを待つ何人かの労働者に声をかけました。「登録している派遣会社は?」の質問には、「SBS」、「グリーンスタッフ」などの名前が返ってきました。

 道路わきの広場に集合していたSBSの日雇い派遣の男性(33)=千葉県在住=は話します。

 「きょうは時給八百円の仕事。親と同居しているので、なんとか生活が成り立っているが、こういう生活は、あまり続けたくない」

 その理由の一つをこの男性はこういいます。

 「派遣先によっては、上司のアルバイトの労働者が仕事内容を一回説明しただけで『やってください』という。当然できませんよね。そうすると、『クズ』といわれたこともある。言葉の暴力ですよ」

 大手スーパーのイオンで倉庫作業をした、派遣会社エスプール(本社・東京都中央区)の日雇い派遣労働者の男性(四十代)=東京都在住=は、いいます。

 「事前に示された労働条件は時給八百円、一日七・五時間労働で、支給額は六千円。しかし、受け取った金額は、所得税百三十五円と『クラブ費』二百五十円が天引きされ、五千六百十五円でした」

 自己負担の交通費を引くと、実際の手取りは五千円を切ります。時給換算だと六百円台。これでは最低賃金(現在の最賃は千葉県七百六円、東京都七百三十九円)すら下回ります。

●40日で1万

 「クラブ費」とは何か―。この労働者は、派遣会社の支店にあったパンフレットに、「クラブ費」を払えば、“四十日無遅刻無欠勤をすると労働者に三千円が返るなどの制度”と書かれてあったと告発します。

 「毎日、職場や仕事の時間帯が変わる日雇い派遣は、体調管理が大変なんです。風邪を引いて事前に仕事を休むと連絡しても欠勤あつかいです。だから、四十日間、無遅刻無欠勤なんて、まずありえない。しかも、四十日間の『クラブ費』は合計一万円。たとえ三千円戻ったとしても、差し引き七千円は会社に入る。あくどいやり方です」

 労働基準法第二四条は賃金について、原則として税金を除き労働者に全額を支払わなくてはならないと定めています。

 エスプール本社の広報担当者は、「クラブ費」の“天引き”や「無遅刻無欠勤」での一部返済制度の存在を認めました。違法ではないかとの指摘には「任意加入の制度で、派遣登録時に労働者から同意を得ている」(同担当者)などと弁解します。しかし、任意であるなら、強制的な控除はやめるべきです。

 大手派遣会社グッドウィルなどの日雇い派遣労働者。冬空の下、どんな暮らしをしているのか――真夏の実態を探った前回の連載(十月十三、十四、十六日付)に続き、千葉県内のJR駅前に集まる労働者の声を聞きました。

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(写真)派遣会社エスプールが日雇い派遣労働者に交付した書類

(2007年12月17日付)


保険にも入れない

 十一月下旬の早朝、千葉県のJR西船橋駅近くの道路わきのコンビニ前。雨を避けてバスを待っていた日雇い派遣の男性(37)=東京都在住=は「SBSという派遣会社に登録している」といいます。

●寒空に待つ

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(写真)西船橋駅前のインターネットカフェの看板

 「きょうの派遣先は佐川急便で、倉庫作業です。時給は八百円。年収は二百万円を切る。賃金は本当に低いが、一人暮らしなので、なんとか暮らせる。不満はないかって? もう割り切っていますから…」

 十二月初旬の早朝、晴天。ふたたび、西船橋駅前にいくと、土曜日にもかかわらず、多数の日雇い派遣労働者が寒さに震えながらバスを待っていました。

 大手スーパーのイオンに日雇い派遣されるという男性(38)=千葉県在住=が口を開きます。「きょうの時給は千円。派遣会社からは交通費は出ない。年収は二百万円程度。両親と住んでいるから、この収入でもなんとか暮らせる。ゆくゆくは正社員になりたいが…」

 年収二百万円前後では、一人で都会のアパートに住むことは困難です。このため、アパートに住めず、インターネットカフェで寝泊まりする「ネットカフェ難民」になる人もいます。

 西船橋駅北口前には、全部で四十六席のネットカフェがあります。一泊九時間で二千円の「ナイトパック」もあります。

 受け付けのアルバイトをしている若い男性によると、常連客は中年男性で二、三人。もう二年近く利用している人もいます。

 「朝八時すぎに出ていき、夜十時ごろに帰ってくるので、働きにいっているのだと思います。夜はいすを倒して寝るのですが、いびきの苦情もある。生理現象ですから仕方ないのですが、あまりにひどいときには声をかけます」

 朝八時すぎ、紙袋をさげた青年が、そのネットカフェから出ていきました。

 「持病で痛みがひどく働けないのだが、先立つものがないから医者にも行けない」。西船橋駅前に集合し派遣先にいったこともある、グッドウィルの日雇い派遣で働く中年男性から最近、こういう訴えがありました。

●仕事中激痛

 「親といっしょに住んでいるので、世帯で国民健康保険に加入している。治療のために医者に行きたくても、三割負担のお金が払えない。その三割負担を稼ごうと、日雇い派遣に行っても、仕事の最中に激痛で働けなくなり、仕事を早退する。そうすると賃金は出ない。交通費だけの出費になる。悪循環です」

 多くの派遣会社は、日雇い派遣労働者を、政府管掌健康保険や厚生年金などの社会保険に加入させていません。

 この男性は、別の派遣会社にも登録しています。

 その派遣会社から「タクシーに乗ってもいいから、すぐ来てくれ」といわれ、派遣先にタクシーで行ったことがありました。労働時間は二時間だけで、タクシー代を差し引くと、手取りはほとんどありませんでした。

 「タクシー代を派遣会社に要求しても、全然聞いてくれません。派遣会社の担当者は『タクシー代を払うとはいってない』と言い出す始末で…」

 派遣会社の横暴は、エスカレートしています。

 国民健康保険にすら入っていない「ネットカフェ難民」が病気になれば、さらに深刻な事態が予想されます。

グラフ

(2007年12月19日付)


ピンハネ率は31%

 グッドウィルの日雇い派遣労働者は今年夏、千葉県市川市のJR二俣新町駅前から、西武運輸が手配したトラックの荷台で、派遣先の外資系大手運送会社「DHL」の倉庫に運ばれていました。前回の連載で明らかにしたことです。

●いまも集合

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(写真)DHLが手配したバスに乗る派遣労働者=17日午後7時20分、千葉県市川市のJR二俣新町駅前

 その後、この連載をみた男性(46)=千葉県在住=から次のような電話がありました。

 「私は数年前まで、派遣会社の常用型労働者として、都内の別のDHLの倉庫に派遣されて働いていた。DHLの職場は、残業がひどく、朝から働いて夜、家に帰れないこともあった。倉庫作業もしたことがあるが、体がじょうぶでないとできない事実上の荷役だ。厚生年金や政府管掌健康保険などの社会保険もない。DHLで働くドライバーの人たちも派遣で、同じように無権利でした」

 十二月初旬、改めて二俣新町駅前にいってみると、午後七時すぎ、ジャンパーを着た若い男性約二十人が、寒そうにしながら黙って集まっていました。

 グッドウィルに登録しているという男性(25)はいいます。

 「グッドウィルの人にいま、点呼を受けたところ。派遣先の会社はDHLです」

 午後七時十五分ごろ、バスの窓に「DHL」と手書きの張り紙をした大型バスが駅前に到着。集合していた労働者をみんな乗せ、午後七時二十五分、出発しました。

 派遣先の市川市内のDHLの現場責任者は「西武運輸との契約はやめ、いまは、グッドウィルと直接契約し、その派遣労働者を倉庫作業で使っている」と認めます。

 なぜ、DHLは、いまだに日雇い派遣労働者を使っているのでしょうか。DHLの広報担当者は「夜間業務はあくまで臨時の業務なので派遣を使っている。正社員と比べてコストが安いかどうかは、お答えできない」というだけです。

 ただ、グッドウィルのホームページの派遣先会社向けのページに次のような文章がありました。

 「ご案内できる業務―倉庫。…入出庫・構内作業は、物流倉庫マネジメントにおける付加価値の源泉です。…弊社では、…物量に応じた効率的な人員配置が可能。流通コストの大幅ダウンを実現します」

 グッドウィル側は派遣先の会社に「コストの大幅ダウン」ができるから、日雇い派遣労働者を使ってくれと売り込んでいるのです。

 厚生労働省が昨年十二月二十六日発表した二〇〇五年度の派遣労働者一人一日(八時間労働)あたりの「派遣料金」は一万五千二百五十七円、「派遣労働者の賃金」は一万五百十八円。差額の四千七百三十九円が、派遣会社にピンハネ(中間搾取)されている計算です。ピンハネ率は31%です。

●人間扱いを

 派遣労働者を使えばなぜ、派遣先の人件費のコストを下げ、派遣会社にも31%のピンハネができるのでしょうか。

 グッドウィルの日雇い派遣の男性(前出)はいいます。

 「派遣先や派遣会社が、正社員には当然払うような交通費や労働保険料、社会保険料を負担せず、まるでモノのように私たちを扱っているからでしょう。私たちを正社員と同じく、人間として扱ってほしい。それで採算がとれないような日雇い派遣制度なら、禁止すべきではないでしょうか」

グラフ

(2007年12月20日付)

(2007年12月17日〜20日までの3回連載をまとめました。)


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