2008年1月19日(土)「しんぶん赤旗」
首相の施政方針演説
「夢を抱ける国」の空疎さ
政治部長 山本長春
安倍前首相の「美しい国づくり」が無残にも破たんした後、今度は「夢を抱くことができる国」とは―十八日の福田康夫首相の施政方針演説は、あまりにも空疎でした。
首相は「基本方針」で、日本は世界第二位の経済大国をつくりあげた、世界から大きな役割が期待されている、などと自賛したうえ、こう強調しました。「あとは、いかに前向きに、夢を抱くことができる国になるか(だ)」。自民党政治のもとで日本がいかに「夢を抱けない国」になっているかを認めざるを得ないのです。
この間、非正規雇用の増加、増税と社会保障の連続改悪などで「貧困と格差」はいっそう深刻になっています。しかし、施政方針からその現実を真摯(しんし)に見つめる姿勢は伝わってきません。昨年九月の首相就任直後の所信表明演説では、不十分ながらも「格差問題」の項目を設け全体の一割をこの問題にあてていました。今回は「格差」という言葉すらわずか一カ所。これで首相が連発する「国民の目線」「国民本位」といえるのか。
そのうえに首相は国民の「夢」を打ち砕く改悪を次々用意しています。来年度予算案では社会保障費の自然増を二千二百億円も削減。四月には七十五歳以上のお年寄りを差別化し重い負担をしいる後期高齢者医療制度を強行しようとしています。施政方針演説では消費税増税の「早期に実現を図る」と踏み込みました。これだけ国民への将来不安を盛り込んでおいて「国民の立場に立つ」とはよくいえたものです。
国民が「夢」を抱けるようになるには、平和な社会、世界でなければなりません。
施政方針はどうか。「平和協力国家日本」を標ぼうしながら、具体的に実行しようとしていることは、民意を踏みにじってインド洋に再派兵し米軍などへの給油を再開することです。それも期限のある特措法ではだめだとばかり「いわゆる『一般法』の検討を進める」と海外派兵の恒久法制定を明言しているのです。アフガンの実態もかえりみず、戦争を続けるアメリカにつき従うことがどうして「平和協力」なのか。
「むすび」の中で首相は、明治時代の秋田県の農村指導者、石川理紀之助(一八四五―一九一五年)に触れました。「疲弊にあえぐ東北の農村復興にその生涯をささげた」として「どんな困難があろうとも、あきらめずに全力で結果を出す」と力んでみせました。
それをいうなら、自民党農政の結果、米作農家の大半が採算割れになり、文字通り疲弊にあえいでいる現実こそ直視すべきです。「何よりも得難いのは信頼である」という理紀之助の言葉を引用してお説教しても、国民の不信は増幅するばかりでしょう。
「自民党の立党以来最大の危機」を自認する首相がにわかに打ち出したのが「生活者や消費者が主役となる社会」です。しかし、いかに取り繕っても大企業に軸を置き、アメリカいいなりの外交を変えようとしない自公政治では、「夢を抱くことができる国」など、まさに夢物語。施政方針演説はそのことを改めて鮮明にしました。