2008年1月22日(火)「しんぶん赤旗」

列島変える息吹

“反貧困”へ運動合流

生活保護基準引き下げ止めた


 貧困をなくし、人間らしく働き生きていけるルールづくりを求め、社会保障運動と労働運動、市民運動が合流、うねりになろうとしています。(矢藤実)


 「生活保護(扶助)費は下がらないんですか。よかった」。東京都足立区の都営住宅に住む寺内正子さん(82)は、来年度からの生活保護基準の引き下げを厚労省が見送ったことに胸をなでおろしました。

 正子さんは夫と息子に先立たれ、一人で暮らしています。月三万円の年金と約七万円の生活保護費が頼りです。そこから、家賃二万四千六百円を支払い、水道、光熱費、電話代はいくら節約しても一万円を超えます。

 介護認定基準が軽度の要支援Iとされたため自費で負担するベッド代に四千五百円。デイサービスの食費分六千円…。手元に残る生活費は五万円もありません。これですべてをまかなっています。

 厚労省の生活扶助費引き下げの理由は、正子さんたちの生活扶助費が低所得者に比べて高いというものでした。七十歳以上の単身の場合、その差は月一万二千七十五円。これが一挙に引き下げられたら、正子さんの生活費は四万円を大きく切ってしまいます。

香典出せず■

 二〇〇六年度からは月一万七千九百三十円あった老齢加算が廃止されゼロになっていました。以来、余裕がまったくなくなりました。親族の葬儀で香典が出せませんでした。「切なかった。もう削れるものはありません。また下げられたら生きていけない」。正子さんは途方に暮れていました。

 生活保護基準は、政府の示す貧困ラインです。自民・公明政権の構造改革によって雇用のありかたが破壊され、働いても生活保護基準より低い賃金しか受け取ることができない貧困層が急増しています。生活保護基準より収入が低い人は生活保護を申請する権利があり、政府は保障する責任があります。

 ところが厚労省は、その責任を投げ捨て、貧困ラインを引き下げて保護請求権を奪おうとしました。生活保護基準は、最低賃金、就学援助、地方税の非課税基準、国保料、介護保険の減免基準などに連動しています。

第4の波が■

 「生活保護基準の引き下げは、貧困の底抜けをもたらす」。人々の連帯した運動と日本共産党の国会追及によって政府は、〇八年度からの基準引き下げを見送りました。「国民の勝利」でした。

 しかし厚労省は、引き下げを断念したわけではありません。「なくせ貧困」の運動は、いっそう高まろうとしています。

 日弁連は二十四日に「生活保護基準に民意反映を求める院内集会」を開きます。十月の人権擁護大会では「労働と貧困―拡大するワーキングプア」をテーマに掲げます。

 生活保護問題対策全国会議は二月に仙台集会、反貧困ネットワークは三月に「反貧困フェスタ」を計画。生活保護の老齢加算・母子加算の廃止・削減を元に戻せと訴える「生存権裁判」は六月に東京、広島地裁で判決が出される動きです。

 労働運動も「貧困撲滅」(全労連・坂内三夫議長)を春闘の最大テーマに位置付けました。二月十三日には、全労連、全商連、農民連、新婦人、全日本民医連、全生連、東京地評が呼びかけ団体となって「なくせ貧困!2・13総行動」に取り組みます。

 この動きについて、戦前・戦後の社会保障運動を見つづけてきた研究者は「戦後第四の波がいま起きている」といいます。



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