2008年1月24日(木)「しんぶん赤旗」

JR差別全動労訴訟 勝利判決

機関士の誇り夫婦で守った

亡き兄に報告 今度こそ全面解決


 「20年のたたかいがむくわれた。今度こそ全面解決を」―。JR採用差別事件の全動労訴訟で、東京地裁が国の不当労働行為を認める判決を出した23日。みぞれまじりの地裁前、笑顔とうれし涙の輪の中には、渡部謙三さん(62)=全動労争議団副団長と妻の雅子さん(60)の姿がありました。(細川豊史)


 「よかったね。お兄さん(謙三さんの兄・修二さん=故人)に報告できるね」。判決直後、修二さんの妻・理子さん(60)と雅子さんは涙をこぼして手に手を取って喜びました。謙三さんと雅子さんも笑顔で「やったね」と握手しました。

運転一筋22年

 北海道赤平市で育った謙三さんが国鉄に入社したのは一九六四年。炭鉱が次々に閉鎖する中、両親は安定した職場に就いたことを喜びました。

 鷲別機関区で旅客・貨物列車の運転一筋二十二年、無事故で通しました。「安全運転が機関士として一番の課題であり、誇り。正確に目的地に列車を到着させた時には、終わったなという満足感がありました」

 二つ年上の兄・修二さんも岩見沢機関区の機関士。一本の貨物列車を兄弟でバトンタッチすることもありました。

 「運転を引き継ぐ駅で出会うと、『おう』ってね。運転のことで『気をつけような』なんて言葉を交わしましたね」

 しかし、一九八七年、多くの反対を押し切って強行された国鉄の分割民営化の中、反対していた全動労に所属していた謙三さんと修二さんはJRに不採用とされました。

 国鉄最後の同年三月三十一日。最後の運転を終えて機関区に戻り、貸与されていた懐中時計と名札を上司に返した謙三さん。

 「『終わりました。明日から国鉄清算事業団(現・鉄道運輸機構)に行きますが、必ず戻って来ます。それまで預かってください』といったけど、戻れなかったね…」

 謙三さんが希望したJR貨物は欠員が出たにもかかわらず不採用。鷲別機関区の労働者の採用率は、分割民営化に賛成した動労の組合員が100%だったのに対し、全動労は10%。多くの仲間が不採用とされたことに責任を感じて眠れない日が続きました。

 「自分のことは覚悟していました。だけど、全動労の仲間がここまで徹底的に差別されるのかと。この怒りがその後の運動の原点になりました」

 配属された国鉄清算事業団を九〇年四月に解雇された謙三さんは、東京に常駐して労組や諸団体に闘争の支援を訴えてきました。

全国の励まし

 八七年に日本共産党の登別市議に当選していた雅子さんは、「まじめに働く人が泣く社会は間違ってるよね。私も地元で頑張るから、あなたも心ゆくまで頑張って」と謙三さんを送り出しました。「私は登別で地域住民の暮らしを守り、夫は仲間を職場に戻そうとたたかっている。離れていても同じように頑張っていると思ってきました」

 裁判で負け続けるなど厳しい時期もありましたが、謙三さんは全国からの励ましを力に仲間とともにたたかってきました。

 「勝てるかどうかじゃなくて、勝たねばならないという気持ちしかありませんでした」

 十八年前、東映アニメーションの労働組合で訴えた時のことを思い出します。訴えを聞く労働者の中には、自分の子どもくらい、中学を出たばかりの人もいました。

 「毎日カップめんで生活している人たちが五百円、千円とカンパをくれて、じーんときました。こんなことがあると、苦しいけど頑張ろうという気持ちになりました」

 〇三年に市議を引退して上京した雅子さんは、謙三さんとともに争議団の活動をするなかで多くの支援者の力をずっしりと感じてきました。

 「わずかな年金で暮らす方、失業中の方までカンパをしてくれます。事件を解決することが、そういう方々への恩返しになると思うんです」

 不採用当時それぞれ小学六年、四年だった二人の娘も今は北海道で子育て中です。雅子さんは、「大手企業からの内定を取り消されるなど、娘たちにもつらい思いをさせたけど、文句もいわず応援してくれたことが夫婦の誇りです」と語ります。

 「解決して帰ってきたら、ゆっくり孫のそばで暮らしてほしい、お父さんには好きな山菜採りや釣りをしてほしいねっていってくれるんです」

ここまできた

 〇六年二月に脳こうそくで急死した兄の修二さんは、全動労争議団事務局次長、北海道労連副議長として仲間の再就職支援などに尽力してきました。

 生前、修二さんは「労働者と家族の人生まで変えた差別は許せない。真実を求めて最後までたたかって勝つことで、全国のたたかいを励ましたい」と話していました。

 修二さんに「やっとここまできたと報告したい」という謙三さん。

 「司法の場で千四十七人の問題の責任が鉄道運輸機構にあることが明確にされました。これで政府は責任逃れはできません。一気に解決をめざして闘争を強めたい」



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