2008年2月20日(水)「しんぶん赤旗」
主張
イージス艦衝突
回避義務の違反は免れない
十九日午前四時七分、千葉県南房総市の野島崎から四十キロ沖合で、海上自衛隊の最新鋭イージス艦「あたご」(七、七〇〇トン)が、千葉県勝浦市の新勝浦市漁業協同組合所属のマグロはえ縄漁船「清徳丸」(七・三トン)と衝突し、沈没させました。
「清徳丸」の船体は二つに割れ、乗っていた船主の吉清治夫さんと長男の哲大さんが行方不明です。政府・防衛省は二人の捜索・救助に全力をあげるとともに、なぜ海上レーダーを備え、見張りも立てていたイージス艦が漁船に衝突したのか、その原因を徹底究明すべきです。
発見できたはず
「清徳丸」が二つに割れ、「あたご」の船首部分に傷がついていることから、事故は「あたご」が、勝浦市の川津漁港から三宅島・八丈島方向に南下していた「清徳丸」に、真横から衝突して起きたと見られます。衝突原因が、ハワイ沖でミサイル防衛装備の試験を終え、横須賀港(神奈川県)に向かって北上していた「あたご」にあると見られるのは確実です。
問題は、「あたご」が「清徳丸」を早期に発見する機能を備え、衝突を回避することができたにもかかわらず、なぜ事故を起こしたのかです。
「あたご」が装備している海上レーダーは暗闇でも遠方にいる船を発見できます。見張り員も複数立っています。町村信孝官房長官は、イージス艦は漁船の存在に気付かないものかという質問にたいして、「そんなことはない。レーダーで海上に電波を流しながら当然調べている。右舷、左舷にそれぞれ見張りもいる」と明言しています。
海上衝突予防法は夜間航行する船舶に「法定灯火」を義務付けています。「あたご」は大型艦であり、乗組員は高いところから見張っています。暗闇のなかで「法定灯火」をつけて航行する「清徳丸」を見つけられないはずはありません。見張っている以上、「あたご」は「清徳丸」を把握していたと見るのが自然です。
にもかかわらずどうして「あたご」は衝突を回避しなかったのか。海自には民間船舶を発見しながら衝突を引き起こした前歴があります。
一九八八年七月、横須賀港東部海域で、浮上して航行していた潜水艦「なだしお」は、遊漁船「第一富士丸」に衝突して沈没させ、三十人を死亡させる事故をひきおこしました。高等海難審判庁は、「なだしお」の「第一富士丸に対する動静監視が十分でな」かったこととともに、「衝突を避ける措置をとらなかった」「接近してからの操艦号令が確実に伝達されず右転の措置が遅れた」と認定しました。遊漁船がいることを知りながら、早くから衝突の回避措置をとらなかったことが事故の原因だったのです。
今回の衝突ではこうしたことはなかったのか。過去の惨劇を自衛隊が教訓にしているのか疑問をいだかずにはおれません。何らかの理由で早期に衝突回避措置をとらなかったのではないのか。「あたご」から海上保安庁への事故の報告が発生から十五分後になったのはなぜかなどの問題を含め、政府と海上保安庁は、事故原因を徹底究明すべきです。
問われる軍事優先
事故現場は、毎日一千隻以上の船が往来する東京湾の出入り口に近く、漁船も伊豆七島などとの往来でこみあうところです。万一そうしたところで、「そこのけそこのけ軍艦が通る」といった軍事優先の論理で通行したとすればそれこそ問題です。
国民と民間船舶の安全を最優先する立場からの解明が求められます。