2008年2月20日(水)「しんぶん赤旗」

労働者派遣法の抜本改正は国民的課題

CS放送「各党はいま」

志位委員長が語る


 日本共産党の志位和夫委員長は十九日、CS朝日ニュースター「各党はいま」に出演し、朝日新聞コラムニストの早野透氏の質問に答えました。このうち、八日の衆院予算委員会での志位氏の労働者派遣法の抜本改正を求める質問をめぐるやりとりを紹介します。


奴隷状態ともよぶべき非人間的な働かせ方

 早野 志位さんの質問、私も聞きました。人を消耗品のように扱う実態が浮き彫りになり、心に染みました。反響も大きいようですね。

 志位 多くの反響がありました。丹念に読みましたが、派遣労働の非人間的な実態について、さまざまな告発が寄せられています。「妊娠したら、夫も一緒に首を切られた」という告発が、ご夫婦で派遣労働者として働いている方から寄せられました。キヤノンで働いていた女性からは「流産した同僚が、翌日から働いていた。そうしないと首を切られるから」という声も寄せられました。まさに奴隷状態ともいうべき働かせ方です。

 早野 小林多喜二が描いたより、ひどい感じですね。日雇い派遣では、「明日来なくていい」と言われれば終わりで、人生設計が成り立たない。年を重ねても不安定なまま。志位さんの質問を聞いていて怖くなったくらいです。ああいう実態ですか。

 志位 ええ。日雇い派遣で暮らしている労働者、全労連、首都圏青年ユニオン、派遣ユニオンなど、問題に取り組んでいるみなさんに話をうかがいました。

 こういう話がありました。「たとえアルバイトやパートでも、直接雇用ならば、次の日も来てもらわなければ困るので、来られなくなるほどにはこき使わない。ところが日雇い派遣の場合は一日限り。だからヘトヘトになるまでこき使う」というのです。明日は会わない人ですから、人間関係もどうなってもいいわけです。だから「そこのハケンくん」という言い方で、名前も呼ばない。一日だけの「使い切りの労働」というのは、本当に非人間的だと思います。

労働法制の規制緩和が派遣労働を急増させた

 早野 なぜこんなことになったんですか。

 志位 労働法制の規制緩和を繰り返してきたからです。もともと派遣労働は違法でした。労働基準法、職業安定法で人貸し業は禁止され、中間搾取、ピンはねは、だめだとなっているわけですよ。

 早野 たしかに、私たちが勉強したころの労働法や、憲法の労働保護規定というのは、相当ちゃんとしていたはずだった。いま言われたような考えもしっかりしていたし…。

 志位 そうです。禁止だったものが、一九八六年に一部の専門業種で解禁になる。そして九九年が大きな節目で、派遣労働が原則自由化される。二〇〇三年の法改定で製造業にまで拡大される。そういう形で派遣労働がまん延してきました。

 登録型派遣という、派遣会社に登録しておいて、仕事があるときだけ雇用するという形態がありますが…。

 早野 グッドウィルとかフルキャストとかですね。仕事があると電話がかかってくる…。

 志位 メールが来て仕事に行く。九九年の法改悪と登録型派遣が結びついて、日雇い派遣というとんでもない働かせ方を生み出したのです。

 早野 山谷とか釜ケ崎で日雇いの方はいたけれども、それ以上に非人間的ですね。

 志位 まったくのモノ扱いです。人貸し業専門の会社があって、中間搾取がシステムとしてやられている。非常に非人間的です。

これを放置したら、日本経済は土台から成り立たなくなる

 早野 いま労働者の三分の一が非正規雇用で、日雇い派遣も相当な部分になっている。一方で、小泉(純一郎元首相)さんがよく言ってました。「六本木を見ろ。みんなおいしいもん食べて、景気いいぞ」と。そういう世の中と、こういう現実とがどうなっているのか、ぼくらにはよく分からない。悪い資本主義になっちゃったんでしょうかね。

 志位 日本の資本主義の質が大きく劣化しましたね。それにはいろんな節目があります。一九九五年に当時の日経連が「新時代の『日本的経営』」というリポートを出して、いわば“雇用破壊宣言”をやるんです。これからの雇用は、(1)長期蓄積能力活用型(2)高度専門能力活用型(3)雇用柔軟型―という三つに分け、不安定雇用を拡大するという提言です。そして、労働法制の規制緩和がどんどん進む。そのなかでつくり出された事態ですね。

 派遣労働者全体で、現在、三百二十一万人いると言われます。このうち八割、二百三十四万人が登録型派遣です。それ以外に、請負という形で働かされる人がいる。だいたい労働条件は派遣と同じでたいへん不安定です。「偽装請負」という違法行為もまん延しています。ですから、三百二十一万人をはるかに上回る規模で、使い捨て労働がまん延しているわけです。

 私は、これを放置したらどうなるかを真剣に考え、大もとからの転換を図らないと、日本の社会は成り立たなくなると思います。

 国会質問では、キヤノンで派遣労働者でずっと働いている方の実態をあげました。寮に入っているんですが、必死に働いて手元に残るのは十万円ですよ。健康保険にも入れない。年金も払えない。病気になったらどうにもならないし、将来も何の保障もないのです。

 派遣労働をしている人は、年代層では、二十五歳から三十五歳くらいと、リストラをされた中高年世代に多いんですが、二十年、三十年後にどうなるのか。しかも、数が増え続けたらどうなるのか。無年金、健康保険にも入れない人が増え、日本という国は土台から成り立たなくなります。

連帯と共同つよめ、現状の前向きの打開を

 早野 堤未果さんの『ルポ 貧困大国アメリカ』という本がありますが、アメリカの一番ひどいところが伝わってきた形ですね。志位さんの質問に対して、福田康夫首相も、まずいなという印象の答えをしておりました。それからキヤノンの御手洗冨士夫会長は、経済財政諮問会議の委員として、日本の経済政策の一番の中枢におられる。

 どう変えていったらいいのか。当面の国会でもやるべきことがあるんじゃないか。何に中心的に取り組むべきですか。

 志位 現行の労働者派遣法は、派遣元・派遣先の企業は保護するけれど、労働者は保護しないという、まったくの“逆立ち法律”なんです。ですから、これを“労働者保護法”に抜本的に改正する。日雇い派遣は禁止して、安定した雇用を保障する。登録型派遣は厳しく制限し、常用型だけに限定する。職種もうんと限定する。そのような規制強化にかじを切らないと解決しないと思います。

 早野 まず派遣法の抜本改正が必要だということですね。

 志位 これは日本共産党だけではなく、ほかの党も言い出しています。

 早野 公明党や国民新党なども、言い出していますね。ある程度、機運ができてきたんじゃないですか。

 志位 派遣法の規制緩和を進めた勢力も、「これはやりすぎた」と思いはじめた。ですから、この問題では立場の違いを超えて協力し、一歩でも二歩でも現状を前向きに打開したいと思います。労働組合でも、全労連と連合が、だいたい共通した要求を掲げています。

正社員にとっても、国民全体にとっても大問題

 早野 正社員だって、残業をべらぼうにやらされて、残業代ももらえない。

 志位 そうなんですよ。ですからこの問題は、派遣や請負労働者だけの問題ではないんです。正社員も、いつそこに落とされるか分からないと、長時間労働、「サービス残業」を強いられる。「賃上げはがまんしろ」という攻撃にも使われる。正社員の生活も脅かしているんですね。

 国民全体にとっても、そうです。子どもや孫が派遣労働でひどい働かせ方をさせられているという電話やメールをたくさんいただきました。印象的だったのは、管理職や経営者の方からの反響です。「こんなことでは日本経済は成り立たない」「キヤノンのようなことをしていたら、企業もだめになる」という電話を経営者の方からいただきました。日本の「ルールなき資本主義」の一番悪い姿が表れた問題として、国民的な運動をおこし、解決のために力を尽くしていきたいと決意しています。

 早野 マルクスがまだ生きているという感じがしますね。

 志位 そうですね。マルクスが『資本論』で書いた、労働者へのあくなき搾取が、現代にいちばん悪い形であらわれている問題だという感じがしています。



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