2008年2月22日(金)「しんぶん赤旗」

どうみる 医療事故調査機関(下)

小池晃参院議員に聞く

国民的合意へ慎重議論を


 ―医療事故調査機関をめぐる議論の状況は。

 小池 医療界では議論が沸騰しています。設置に慎重な意見が強い背景にあるのは、いまでさえ医療現場の労働が過密・過酷ななかで、責任追及の流れが強まる制度がつくられると、医師が仕事を続けられなくなったり、新しい治療や難しい治療をひかえるようになってしまうという危ぐがあるのです。

 一方で、被害者・家族の方々からは、「早くつくってほしい」という声もあります。政府は法案提出を急いでいますが、問題点も含めて多くの国民にも知られておらず、国民的合意には、ほど遠い状況です。

 東京女子医大病院の心臓病手術で娘さんを亡くされた平柳利明さんは、医療事故の問題で積極的に発言されていますが、今回の第三者機関設置については、「問題点があるからといって議論を断ち切ってはいけない」とおっしゃっています。私もその通りだと思います。被害者の願いに応えるとともに、医療現場の混乱を解決するためにも、第三者機関の確立は必要です。

土台づくりへ

 ―いま必要なことは。

 小池 議論の土台をつくることです。厚労省は二〇〇五年九月から「死因究明制度」のモデル事業を始めました。ところが今年一月二十五日現在で、受け付け事例はわずか六十一しかありません。

 モデル事業が十分知られていないこともありますが、そもそも、モデル事業は現行の医師法二一条のもとでやらざるを得ず、警察の関与がなくなりません。医療機関にとっては届け出にくいうえ、遺族からの届け出もできません。予算も体制もきわめて不十分です。

 欧米やオーストラリアでは、死因究明・再発防止の事業がかなり機能している例もあるので、海外の経験に学ぶ必要もあります。

 医療従事者や関係者の意見をしっかり集約することは当然です。性急に今国会に法案を出すというのでなく、国民的な議論をきちんとおこなわなければなりません。

 当面強める必要があるのは、各病院が自主的に取り組んでいる、医療事故調査委員会への支援です。被害者の声を十分に聞き、原因解明と再発防止に努める取り組みが多くの病院に広がっています。ここへの公的な支援を急ぐべきです。こうした積み重ねが、あるべき第三者機関につながっていくはずです。

 二〇〇三年から、都道府県庁などに設置されている「医療安全センター」の相談窓口としての機能も拡充すべきです。

 そもそも、日本の死因究明制度は非常に遅れています。日本の場合、事件や事故など死因の分からない遺体のなかで解剖がおこなわれた比率は9・5%。フィンランドは90%、イギリスは50%、オーストラリアのビクトリア州は80%ですから日本は非常に低い。また、解剖だけでなく、遺体全身をCTスキャンして体内で起こった異変を確認することもビクトリア州ではすべてについておこなわれていますが、日本では普及していません。

 このように立ち遅れている死因究明制度自体の大きな改革も必要でしょう。

ゆがんだ構造

 ―医療全体が問われています。

 小池 医療事故が続く背景にも、また、「拙速に第三者機関をつくると、さらなる医療崩壊につながるのでは」という議論がおこる背景にも、日本の低医療費政策があります。

 世界の水準に比べて、日本は医師数も看護師数も絶対的に少ないのが実態です。そのうえ政府は、公的医療保険の給付を抑え続けています。社会保障費の国庫負担が増加するのを毎年二千二百億円削り込む政策が、医療事故の根本にある問題です。

 「医療費総額では先進国で最低だけれども、患者自己負担では先進国最高」という、いまの日本の医療の非常にゆがんだ構造を抜本的にただすことを抜きに、安心で安全な医療を確立することはできません。日本共産党は患者・国民と医療従事者の願いを実現するために全力をつくします。

 (おわり)



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