2008年2月24日(日)「しんぶん赤旗」
主張
イージス艦衝突事故
自衛隊の「情報隠し」は論外だ
海上自衛隊の最新鋭イージス艦「あたご」(七、七五〇トン)がマグロはえ縄漁船「清徳丸」(七・三トン)に衝突し沈没させた事故をめぐる政府・防衛省の対応に批判が強まっています。
「清徳丸」とともに出漁した同僚船の船長をはじめ、千葉県新勝浦市漁協の関係者は防衛省の説明に、「うそだ」と怒っています。「清徳丸」の船主・吉清(きちせい)治夫さんと長男の哲大(てつひろ)さんの救助に全力をあげるとともに、「あたご」が衝突したほんとうの原因を政府は明らかにすべきです。
「うそ」説明への怒り
政府・防衛省の態度で最悪なのは、事故の原因があたかも沈没した「清徳丸」にあるかのように世論を誘導していることです。「清徳丸」の右舷の緑色の灯火が見えたようにいう説明はその最たるものです。
石破茂防衛相は自民党の部会で、「あたご」の見張り員が「右方向に緑の灯火を見た」と報告し、河野克俊海上幕僚監部防衛部長も記者会見で同じ説明を行いました。これは衝突回避義務が「清徳丸」にあるかのように描くうその説明です。
海上衝突予防法は、船が交差する場合、右舷側に船を見る船が右転して衝突を避けることを義務付けています。船は船首に向かって左舷に紅色、右舷に緑色の灯火をつけて夜間航行します。紅色の灯火を見れば、それをみた側が右転しなければなりません。防衛省が緑色を見たとくりかえすのは、「清徳丸」の側は、「あたご」の左舷にとりつけられた紅色をみているはずだから、回避しなければならないのは「清徳丸」だと印象づけるためです。
「清徳丸」の状況から「あたご」が「清徳丸」の左舷から衝突したのは明白です。「清徳丸」の後方を航行していた「金平丸」の船長も、「あたご」がみたのは危険を感じて左転した「金平丸」の緑色だと証言しており、防衛省の説明はくずれています。防衛省の増田好平事務次官が「これまでの発表通り」と開き直るのは言語道断です。「清徳丸」を含む四隻の漁船すべてが紅色の灯火をつけて航行していたのに、船団をみたのかどうかを防衛省がまったく沈黙しているのも不可解です。
水上レーダーでは小型船が映らないことがあるかのようにいっているのもうそです。巡視船は今回のように海がおだやかな場合、手こぎの小さなボートでもレーダーで探知できると海上保安庁は説明しています。
千四百億円をかけた最新鋭イージス艦の水上レーダーは高性能です。「あたご」が探知していないはずはありません。漁業関係者が強調するように、「あたご」は二十分、三十分前から複数の漁船が近づくのを知っていたのは間違いのないことです。
海上衝突予防法は、レーダーでの探知と探知した船の系統的な観察を義務づけています。記録がないなどといって法律違反を免れることはできません。
原因を徹底究明せよ
重大なことは防衛省の説明がくるくる変わっていることです。「清徳丸」発見は衝突二分前だといっていたのを十二分前と変えました。十二分もあれば「あたご」は十分に衝突回避行動をすることができたはずです。なぜこのような大事な情報があとになってでてくるのか。自衛隊に都合の悪い情報を隠す隠ぺい体質のあらわれだとすれば重大です。
政府・防衛省は、自衛隊の説明をうのみにせず、海のルールも無視して衝突事故をおこした原因を究明し、責任をあきらかにすべきです。
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